ローカル共創奮闘記Vol.10 郵便局が「地域のハブ」に! NFTとつくるローカルの未来地図

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「地域(ローカル)」をフィールドとするプロジェクト「ローカル共創イニシアティブ(※)」。
全国各地に赴任する社員に、その土地で芽生えた"気づき"や"変化"を聞き、彼らの成長の物語にフォーカスします。
第10回は、2024年4月から一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアムに出向し、島根県大田市(おおだし)大森町で活動する松浦さんを取材。同法人の代表理事である松場さん、渡辺さんにもお話を伺いました。
※公募により選出された日本郵政グループの若手・中堅社員を、社会課題に先行して取り組む地域のベンチャー企業や地方自治体に2年間派遣することにより、新規ビジネスなどを創出することを目指すプロジェクト

日本郵政株式会社 地域共創事業部 主任
松浦 僚馬(まつうら りょうま)さん
2017年、日本郵便株式会社に入社。2024年4月、地域共創事業部への異動と同時に一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアムへ出向。以前は郵便局窓口のデジタル化推進や郵便局アプリの開発に携わった。趣味は出向後に始めた釣りとドライブ。

一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアム 代表理事
株式会社石見銀山群言堂グループ 代表取締役社長
松場 忠(まつば ただし)さん
2010年、株式会社石見銀山生活文化研究所(群言堂)に入社。飲食店の立ち上げ、広報、新ブランド設立などを担当し、2019年、地域観光に特化した株式会社石見銀山生活観光研究所を設立。2022年、株式会社石見銀山群言堂グループ 代表取締役に就任。2025年、一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアム 代表理事に就任。プライベートでは5児の父として育児に励む。

一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアム 代表理事
渡辺 哲也(わたなべ てつや)さん
2003年、地域を楽しんで元気にすることを目指すNPO法人納川の会の発足に参画。2022年任意団体を経て、一般社団法人石見銀山みらいコンソーシアム発足に参画。2025年代表理事に就任。保育園や児童クラブを運営する社会福祉法人石見銀山つむぐひび 業務執行理事も務める。プライベートではギターやキーボードなど楽器演奏を楽しむ。
エコシステムを泥くさくつくり上げる"先遣隊"になりたい!
――なぜ「ローカル共創イニシアティブ」に応募し、出向先として石見銀山のある島根県大田市を選んだのでしょうか。
松浦:日本郵政グループが持つ"地域資本"というアセットを活かして、地域が互いに助け合う新しい循環の仕組み"エコシステム"をつくり上げる「先遣隊」になりたいと思ったからです。大田市には祖父母の実家があり、私にとって大切な場所なんです。また、石見銀山は単なる観光地ではなくて、住民の暮らしと観光の調和を目指す「生活観光」という先進的な概念を持つ地域でもあります。出向先の石見銀山みらいコンソーシアムは設立間もない組織だったため、ゼロから事業と地域のエコシステムを構築する経験がしたいと思い、決めました。

――石見銀山みらいコンソーシアムとはどんな組織ですか。また、渡辺さんや松場さんはローカル共創イニシアティブのことをどのような経緯で知ったのでしょうか。
渡辺:まちの運営・経営を目的に2021年に発足した一般社団法人です。2023年からは市の観光施設の指定管理業務を受託するなど、実務的な地域運営を担っています。
松場:ローカル共創イニシアティブのことを教えてくれたのは、事務所から徒歩数分のところにある石見銀山大森郵便局の小川局長なんです。応募を勧めてくれて、松浦さんの受け入れにつながりました。
――松浦さんのルーツがある大田市ですが、どんなところに魅力を感じますか。
松浦:実際に暮らしてみると、過疎のイメージがまったく当てはまらないことに気づきました。新しい何かが生まれる"始まりの余白"のような豊かな土壌があります。自然や文化、人とのつながりといった地域資本が豊富で、郵便局という機能をかけ合わせて新しいプロジェクトが立ち上がるエネルギーを感じています。
――一方で、大田市が抱える課題は何でしょうか。
松浦:石見銀山は世界遺産ではありますが、その周辺エリアは観光地である前に暮らしの場です。高齢化率は40%以上で、市街地への通院や買い物は大きな負担になっています。観光面では、世界遺産登録時をピークに観光客が減少傾向で、訪問先が特定のスポットに偏ってしまい地域にお金が落ちにくい状況でした。

――その課題を解決するための足がかりとして、どのようなアクションを起こしましたか。
松浦:まず、地域のなかに入って住民の皆さんと信頼関係を築くことから始めました。"東京から来たお客さん"にならないよう、お祭りの運営にかかわるなど、積極的に地域での活動に加わりました。その結果、肩書きではなく"私という人間"を見てもらえるようになったと思います。


松浦:その際に意識したのは「立場が異なるステークホルダー間の共通項を見つける」ということです。地域の抱える「観光客が素通りしてしまう」という悩みと、郵便局の「来客数が減った」という悩み。それぞれを別々に解くのではなく、課題の共通項を見つけ、共通の利益(Win-Win)を設計したんです。この地域の皆さんの"つなぎ役"として動くことで、既存の枠を超えた連携を生み出すことを目指しました。
――松場さんや渡辺さんを通じて、人とのつながりが広がったそうですね。
松浦:はい。コンソーシアムのメンバーとは毎週打ち合わせを続けています。相談したいときや判断に迷ったときには、適切なアドバイスをもらっています。

渡辺:最初、松浦さんに聞いたんですよ、どういう働き方がいいか。管理された方がよいか自由にしたいか、慣れてないので管理してほしいと⾔われたけど、でも、結局は野放しみたいになってしまって(笑)。それだけ松浦さんは、自立して仕事ができるようになったのだと思います。
松浦:そうですね。アドバイスをもらいながらですが、自ら動けるようになったのは自分では成長だと思っています。
松場:出向2年目の最初には、もう事業が立ち上がっていましたね。島根県にもプロジェクトの提案をするなど、スピード感を持って取り組んでいたと思います。
松浦:私にとってお二人は上司とはまたちょっと違って、お父さんのような、保護者みたいな存在です。いつも温かく方向性を示してもらっています。自分の考えや、やりたいことを尊重してもらえる実感がありました。

デジタルスタンプラリーで地域と観光客をつなぐ
――課題解決の取り組みとして、NFT(※1)を活用したデジタルスタンプラリーを実現されました。NFTを取り入れたきっかけは何だったのでしょう。
松浦:地方では、定住人口が減少し、「消滅可能性自治体」という言葉も使われているなか、居住地以外の特定の地域と継続的なかかわりを持つ「関係人口」をファンとして育成することが大切だといわれています。ただ、そのための仕組みやデータが少なく、模索していたときに、日本郵便とかんぽ生命のアクセラレーションプログラム(※2)を傍聴し、NFTマーケティングを提案している企業を知ったんです。「これだ! 」と思ってすぐに連絡をしました。
※1 代替不可能なデジタル証明書のこと。画像などのデジタルデータに「世界に一つだけ」という所有情報を紐づけることができる
※2 スタートアップと協業し、新規事業や既存事業の高度化を加速させる共創プログラム
アクセラレーションプログラムの記事はこちら

――具体的にはどのようなプロジェクトですか。
松浦:石見銀山大森郵便局をはじめ、石見銀山エリアにある飲食店や観光スポットなどをまわるデジタルスタンプラリーを3回にわたって実施しました。手順は簡単で、LINEアプリがあれば誰でも参加できます。ダウンロードやアカウント登録は不要で、各スポットに設置した二次元コードを読み取れば、LINE上でスタンプを受け取ることができます。


――体験者からはどのような反響がありましたか。
松浦:スタンプを集めながら地域をまわることで、予定外のスポットで新しい発見があったなど、ポジティブな声が届いています。デジタルを活用していますが、体験された方々の心に強く残ったのは「郵便局やお店の方、ガイドさんの対応が親切で温かかった」といったアナログなコミュニケーションだったようです。

――それはうれしい反響ですね。NFTはほかの地域でも活用できそうですが、具体的にどんな利点がありますか。
松浦:大きく三つの利点があります。まず、簡単に人流データを可視化できることです。NFTによって観光客が足を運んだ施設やまわった順番といった行動データが得られます。二つ目は、地域ファンを増やすための"かかわり"がつくれることです。最初にLINEで「友だち登録」をしてもらうので、継続的に情報を発信することでかかわりを維持できます。三つ目は、郵便局が観光客の集まる拠点になるという仮説を検証できたことです。NFTを活用することで観光客の動きを数値化、可視化し、観光戦略に活かすことができます。
――NFTプロジェクトの手応えはいかがですか。
松浦:スタンプラリーのスタンプ配布ポイントの一つである石見銀山大森郵便局は、郵便の取り扱い件数が前年よりも顕著に伸びており、地域事業者や行政からも好評をいただいています。これらの成果を踏まえて、2026年1月からは、島根県観光連盟や島根県教育委員会からデジタルスタンプラリーの受託が生まれました。

郵便局は地域を支えるプラットフォームになれる!
――石見銀山大森郵便局では、「暮らしの郵便局(※)」の取り組みも行われているそうですね。
松浦:はい。総務省の「地域の持続可能性の確保に向けた郵便局の利活用推進事業」の一環で行っており、「スマホ教室」や「健康教室」などを開催しました。スマホ教室は、デジタル化が進むなかで取り残されがちな高齢者の不安を解消し、社会とのつながりを維持することが目的です。健康教室では、健康チェックや相談会を行って福祉の入口としての役割を担っています。
※過疎化・高齢化が進む地域において、地域の生活やコミュニティを支える拠点としての役割を担う郵便局の取り組み

――観光客に向けても新しい取り組みを行っているそうですね。
松浦:郵便局内で地元の人気店のお土産を扱うことで、そのお店が閉まっている平日でも観光客が買い物を楽しめるようにしました。さらに、「石見銀山 世界遺産センターガチャ」というオリジナルのカプセルトイを設置したのですが、これが大変好評です。2025年10月から12月の3カ月間で、お土産とカプセルトイを合わせて約18万円を売り上げ、平日観光の機会損失を防ぐことができました。

――この取り組みを通じて、郵便局の役割はどう変化したと思いますか。
松浦:この取り組みは、10団体以上の関係者との共創で実現していますが、それによって地域のエコシステムを支えるプラットフォームに変化したと思います。郵便局が持つ信頼やネットワークによって、地域全体を支える"大きな木"のような存在になれるポテンシャルが実証されたと感じています。
大田市における松浦さんの活動について、石見銀山大森郵便局 局長の小川さんにお話を伺いました。

石見銀山大森郵便局 局長
小川 修司(おがわ しゅうじ)さん
以前から郵便局で何か新しいことがしたいと思っていたので、松浦さんから「暮らしの郵便局」の提案を聞いたときはうれしかったです。スマホ教室はリピーターの方がほとんどで、地域の皆さんに喜んでいただけています。
このような新しい取り組みを始めたことで、郵便局で働く社員たちにも変化がありました。お客さまがカプセルトイやお土産を前に喜ぶ姿を目にするからか、社員がより積極的に声かけをするようになったんです。そういった点でも、意義のあるプロジェクトだと感じます。

地域資本×郵便局の共創モデルを横展開へ
――松場さんは、郵便局や日本郵政グループと連携することで、どんな可能性があると思いますか。
松場:石見銀山エリアは、長い歴史のなかで繁栄と衰退を経験した地です。そんなエリアで新しい動きが起きていることに可能性を感じますし、一つのモデルケースになればと思います。プロジェクトの担い手となった松浦さんのような人を、地域にもっと送り込んでもらいたいですね(笑)。

――松浦さんは出向中に成し遂げたいことはありますか。
松浦:これからもNFTや「暮らしの郵便局」の取り組みが、確かな収益を生み出して地域に還元されるサイクルを定着させたいですね。郵便局と組めば、地域課題はビジネスの力で解決できるという成功事例を共有して、地域の方々が自信を持って運営し続けられる状態にしたいです。
――この地での経験を今後どのように活かしていきたいですか。
松浦:出向から復帰後は「地域資本×郵便局」の共創モデルとして、全国への横展開に取り組んでいきたいと考えています。全国約24,000の郵便局がそれぞれの地域でパートナーとなり、課題解決と経済成長を支えるエンジンになる。そんな未来を、大田市での経験を活かして描きたいです。これから先も、どこで、どのように働けるかが楽しみです。

松浦さんが語る「大田市のここがすごい! 」
お店やスポットなど特定の"点"だけでなく、景色と食、そこで出会う人々との会話がセットになった"空間"としての経験が一番の魅力だと思います。

