エモい郵便局図鑑 No.8 吹屋郵便局(岡山県)

1871年、「日本近代郵便の父」と呼ばれる前島 密(まえじま ひそか)によって郵便事業は開始されました。それから時は流れて150年以上経った現代、今でも日本各地には激動の時代を見守ってきた郵便局が残っています。ある人はそんな歴史ある郵便局を、畏敬の念をこめて「エモい郵便局」と言うんだとか――。
郵便局のノスタルジックな魅力に取りつかれたフォトグラファー・ライターが日本各地を訪れて紹介する「エモい郵便局図鑑」。今回の舞台は、岡山県にある吹屋郵便局です。
「吹屋ふるさと村」の一角に佇む郵便局。吹屋ふるさと村は、江戸時代から明治時代にかけてベンガラ(赤色顔料)の産地として栄えた地域。
(岡山県高梁市成羽町吹屋321)
■開局
1874年に郵便取扱所として設置。1993年3月に現在の局舎へ移転。
■概要
局舎の外観は、赤銅色のベンガラ塗装が施された独特の佇まいが特徴。歴史的景観を守りつつ、地元住民や観光客の憩いの場として親しまれている。
■歴史
1874年7月に吹屋郵便取扱所として開設。現在の建物は3代目で1993年3月に竣工した。建物左側はかつて呉服屋であり、右側は旧局舎を撤去後、以前存在していた民家の姿に近い形で復元された。
■名物
郵便局が位置する一帯は、赤銅色の石州瓦とベンガラ色の建物が整然と立ち並ぶ「吹屋の町並み」として知られる。江戸末期から明治にかけて吹屋の長者が築いた文化遺産で、1974年に岡山県の「ふるさと村」に、1977年には国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定された。さらに2020年には「『ジャパンレッド』発祥の地〜弁柄(べんがら)と銅(あかがね)の町・備中吹屋〜」として日本遺産に認定されている。
■交通アクセス
JR備中高梁駅から吹屋行きバスで約60分、終点「吹屋」下車後すぐの場所にある。
車の場合、岡山自動車道・賀陽ICより約50分。
吹屋地区は標高550メートルの山間に位置し、雲一つない青空と「ジャパンレッド」の町並みとのコントラストが印象的である。この地はかつて良質なベンガラの生産地として繁栄したが、1960年代後半にはその産業も終焉を迎えた。住民たちは歴史的価値を見出し、保存運動に尽力した結果、1977年に伝統的建造物群保存地区に指定された。

建物の外観は、ベンガラ色に統一された町並みと調和し、吹屋町並保存会からもその建築美が高く評価されている。「ここが本当に郵便局なのか」と驚く来訪者も多く、カフェや喫茶店と勘違いされることもしばしばだ。
「2020年に吹屋郵便局へ着任しました。コロナ禍が終わり、最近は人通りも戻り、日本人だけでなく海外からの観光客も増えています」
そう語るのは、吹屋郵便局の局長 植田 勇(うえだ いさむ)さん。



吹屋郵便局は、ベンガラに染まった暖簾が目を引き、訪れる人々を温かく迎え入れている。局内に入ると、柱と梁がむき出しになった趣深い空間が広がり、和紙の照明が柔らかな光を灯している。ベンガラで染められた工芸品や備中神楽面、旧吹屋小学校の模型などが展示され、歴史資料館さながらの雰囲気を醸し出している。



また、畳の小上がりも備えられており、利用者の休憩所やイベント会場として活用されている。地域住民が主催する絵手紙教室や、イラストレーターを招いた絵はがき制作体験などが行われ、訪れる人々に特別な思い出を提供している。雪見障子から差し込む柔らかな陽光も、局内の雰囲気をより一層引き立てる。

「郵便局を訪れたお客さまに、特別な思い出を持ち帰ってもらえたらうれしいですね」と植田局長は微笑む。



吹屋郵便局周辺には多くの見どころが点在する。「長尾醤油酒店」は地元で愛される老舗で、地酒やこだわりの日本酒がそろい、村長と呼ばれる愛らしいネコが訪れる人を和ませる存在となっている。「べんがら屋」では、手作りのベンガラ製品や民芸品が並び、お土産として人気を博している。



かつてのベンガラ商人の豪邸「旧片山家住宅」では、重厚な梁や趣ある調度品が往時の繁栄を物語っている。地元のタクシー運転手も推薦する「スープカレーの店 つくし」は、郷土食材を活かしたスープカレーが評判で、リピーターが多い人気店である。

また、日本最古の木造小学校である「旧吹屋小学校」は、歴史を刻んだ文化財として人気を集めている。

さらに、映画のロケ地にもなった「広兼邸」は、ベンガラの隆盛を象徴する石造りの豪壮な邸宅で、その景観は圧巻である。

吹屋郵便局が佇む「吹屋ふるさと村」は、日常と非日常が交錯する場所であり、訪れる人々に特別な時間を提供している。

吹屋郵便局の魅力について局長の植田さんは次のように語った。
「ここは観光地の一角に位置しており、週末や大型連休には多くの観光客が訪れます。特に女性のお客さまから『かわいい』と評判で、暖簾から顔を出して写真を撮る方が多くいらっしゃいます。旅の記念として立ち寄っていただけることがとてもうれしいですね」


ベンガラ色に染まる町並みは、風景だけでなく、人々の心も温かくする。
吹屋郵便局は、レトロな情景と温もりに満ちた人々が織りなす特別な場所。ノスタルジックな郵便局巡りの旅に、ぜひ加えてみてほしい。


植田 勇さん
2020年に吹屋郵便局 局長として着任。
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