町の一員になるという想いを胸に。人手不足解消に向けた覚悟と挑戦|ローカル共創奮闘記 Vol.11

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「地域(ローカル)」をフィールドとするプロジェクト「ローカル共創イニシアティブ(※)」。
全国各地に赴任する社員に、その土地で芽生えた"気づき"や"変化"を聞き、彼らの成長の物語にフォーカスします。
第11回は、熊本県阿蘇郡の南小国町(みなみおぐにまち)に出向した仲川さんを取材。南小国町の町長であり、仲川さんが勤務する株式会社SMO南小国の代表でもある髙橋さんと、南小国郵便局 局長 太田さんにもお話を伺いました。
※公募により選出された日本郵政グループの若手・中堅社員を、社会課題に先行して取り組む地域のベンチャー企業や地方自治体に2年間派遣することにより、新規ビジネスなどを創出することを目指すプロジェクト

日本郵政株式会社 地域共創事業部 マネジャー/株式会社SMO南小国 特任マネジャー
仲川 朗(なかがわ あきら)さん
1998年、郵政省(当時)に入省。2024年より地域共創事業部への異動と同時に株式会社SMO南小国へ出向。以前は郵便局窓口や、ゆうパックなどの法人営業、営業の育成などに携わった。プライベートでは4人の父で、子どもが所属する少年野球のコーチを務めた経験もある。
※取材時の所属を記載しています。

南小国町 町長/株式会社SMO南小国 代表取締役
髙橋 周二(たかはし しゅうじ)さん
大学を卒業後、実家の商店を継ぐためにUターン。家業の傍ら地域づくりに携わり、2015年より現職。南小国町の魅力は「子どもたちの笑顔」。この笑顔が頑張る原動力だという。

日本郵便株式会社 南小国郵便局 局長
太田 公昭(おおた きみあき)さん
1988年、当時の郵政省に入省。福岡県内の郵便局で勤務後、地元・南小国町にUターン。2014年より現職。趣味はカラオケ。
南小国町の魅力は自然と、何より「人」
――「ローカル共創イニシアティブ」に応募されたきっかけを教えてください。
仲川:以前、日本郵政グループの人事育成制度を利用して他社に出向しました。その時、各地と連携して事業展開する様子を見て、「全国に拠点を持つ郵便局にも同じ可能性があるのでは」という想いが芽生えました。ちょうどそのころローカル共創イニシアティブの取り組みを知り、地域と連携して新たな取り組みに挑戦してみたいと思い、参加を決めました。

――出向先として、熊本県南小国町を選ばれた理由は何ですか。
仲川:この取り組みは出向先の地域で2年間実際に暮らす必要があります。覚悟を決めて行くため、あえて簡単に戻れないような場所に行って自分を追い込もうと思い、東京都から遥かに遠い熊本県の南小国町を選びました。また、これまで海のない町に住んだ経験がなかったので、"山の町"での生活にも興味がありました。
――背水の陣で臨んだのですね。 南小国町で、実際に暮らしてみてどうですか。
仲川:豊かな自然はもちろんですが、南小国町の「人」にとても惹かれました。子どもたちと町ですれ違うと「こんにちは」「さようなら」という挨拶が自然に交わされて、温かさを感じます。また、地域の皆さんもとてもフレンドリーで、お客さま扱いではなく、公私にわたり親切に声をかけてくださいました。本当に人が魅力的な町だと思います。ただ初めての単身赴任で、毎日の食事の用意が大変です(笑)。地域の物産館「きよらカァサ」では地元の食材を使ったおいしいお弁当が販売されているので、毎日助かっています。


郵便局の強みを活かし、地域の人手不足を解消
――現在、南小国町が抱える課題について教えてください。
髙橋:根底にあるのは、やはり少子高齢化です。南小国町は、今なお観光業が盛んで後継者も戻ってきています。ただ、かつての基幹産業だった農業や林業が、市場価格の変動や肥料・資材の高騰などで経営が厳しくなり活力を失いつつあります。南小国町は山間部地域ということもあり、人口減少に拍車がかかり、各産業の担い手不足も深刻化しています。

――人手不足ということですが、この解決に向けた取り組みを教えてください。
髙橋:「しごとコンビニ南小国」というサービスを2022年度より導入しました。南小国町の高齢化率は約40%とやや高めですが、見方を変えると、長い人生経験を経て得た技術や知恵を持った方々が大勢いらっしゃるということです。そんな皆さんの技術や知恵を活かしていただく場を提供したいと考え、サービスを開始しました。
――「しごとコンビニ南小国」とは何でしょうか。
仲川さんが語る「南小国町のおすすめ!」
仲川:地域の「働きたい人」と「仕事」を発掘してつなぐ、業務委託型の短時間ワークシェアリングサービスです。これは、株式会社はたらこらぼと一般社団法人つながる地域づくり研究所が展開する「しごとコンビニ」という取り組みで、南小国町では「しごとコンビニ南小国」として、SMO南小国が実務を担当しています。効率重視で機械的にマッチングするのではなく、仕事を提供する事業者と働く人の間に必ず「人」が存在するのが特徴で、仕事が合わなくてフェードアウトしてしまう人が少ないんです。

――「しごとコンビニ南小国」では、具体的にはどのような仕事がありますか。
仲川:町役場で封筒に広報誌を封入するなどの、気軽にできる仕事が多いですね。また、菊芋という地域の特産物があるのですが、ショウガのようにゴツゴツした形状なので、それをカットするとか、朝の数時間だけキュウリを収穫するとか、農作業の仕事もあります。短期間で仕事ができることから、主婦・主夫の方や、退職されて時間にゆとりがある方が主に働いていますが、冬の閑散期だけ「しごとコンビニ南小国」を利用して仕事する農家の方もいらっしゃいます。

"人と人とのつながり"が生んだ、実証実験の成果
――赴任後、仲川さんは「しごとコンビニ南小国」に特に注力されていたのですか。
仲川:実は赴任当初、私が重視していたのは"買い物支援"でした。南小国町には日常的に買い物ができる場所が限られていたからです。でも、町の方と話していて「郵便局の人って、事務が得意なんじゃない?」と言われたんです。
地域の皆さんは、郵便局の社員に対して窓口対応や事務作業を正確かつ丁寧にこなすという印象を持ってくださっていることに初めて気づきました。そこで、「その強みを活かせることがあるんじゃないか」という視点が生まれ、郵便局を「地域の人材登録拠点」として活用することを考えました。

――それが、しごとコンビニ南小国®の実証実験につながるのですね。
仲川:はい、2025年4月から9月にかけて、しごとコンビニ南小国の一部業務を郵便局が受託するという実証実験が行われました。しごとコンビニ南小国は必ず人が間に入り、一人ひとりの特性やニーズを見極めながら丁寧にマッチングしていますが、郵便局でも同じように、窓口でお客さまと対面し、その方に合ったサービスをご提案しています。そんな"人を介して向き合う姿勢"や、前述の"正確かつ丁寧な対応"が共通していると感じ、何かいっしょにできるのではないかと考えました。
――その後、どのようなアクションをされたのですか。
仲川:まずは3カ月ほどかけて関係各所との調整を行いました。その後、南小国町と隣の小国町の郵便局の窓口で、しごとコンビニ南小国に登録したい方の事務手続きと、仕事に関しての動画研修ができる体制を整えました。
――手続き業務を担当された太田さんは、どのような印象を持ちましたか。
太田:最初は不安もありましたが、仲川さんの説明を伺ううちに、これは事業者と住民をつなぐすばらしい仕組みだと感じました。郵便局の強みである"人と人との触れ合い"を活かせる取り組みでもあり、実際にお客さまへご説明すると、その点に深く共感いただいています。これをきっかけに会話が弾んで、郵便局のサービスをご案内することもあり、お客さまの生活のお役に立てているという実感があります。

――実証実験の結果はいかがでしたか。
仲川:多くの方々に利用者登録をしていただき、目標数を上回ることができました!それだけではなく、登録後のしごとコンビニを利用して働く人もグンと増えたんです。しごとコンビニを利用して働いた方に、「郵便局の○○さんに紹介してもらったからやってみたんだよ」とお声をいただき、郵便局で実施する意義を感じました。郵便局で一部業務を受託することでSMO南小国での仕事も効率化でき、両者にとって良い結果となりました。この結果を受け、2025年10月から本格運用が開始されました。
髙橋:地域の核ともいえる郵便局という場所、そして日ごろから地元の方たちと信頼関係を築いてきた郵便局の皆さんの存在があってこそ、この良い結果につながったのだと思います。顔の見える関係性のなかで仕事を紹介されるのと、まったく知らない人から紹介されるのとでは、信頼感が違います。その信頼感が、数字の伸びにつながったのだと感じました。

仲川:実は登録者数が伸び悩んだ時期もあって、「この事業は本当に町のためになっているのだろうか」と思い悩むこともありました。それでも、皆さんの声を聞きながら改善し続けたことが、結果的に壁を乗り越える大きな力になりました。地域の方から、「しごとコンビニを通じて、町の課題に自分が貢献できたという実感が持ててよかった。そのきっかけを郵便局が与えてくれた」という声もいただき、やってよかったなと心から思いました。
「南小国町の一員になる」という想いで過ごした2年間
――赴任当初は地域に溶け込むことも大変だったのではないでしょうか。
仲川:確かに不安はありましたが、髙橋さんと太田さんが、初めてお会いしたときから壁をつくらずとてもフラットに接してくださったので、リラックスして町の人と接することができました。
髙橋:私にとって仲川さんは「エネルギーの塊」のような存在。赴任初日、町のカフェでちょっと話をしようとなったときも、「南小国町のために、頑張りましょう!」と熱い話になったことを昨日のことのように思い出します。挑戦を続けてわくわくした町を作りたいと思っていますが、まさしくそれができる人です。地域のために精力的に動いた姿勢が、町に大きな活力をもたらしてくれたと実感しています。
太田:持ち前の行動力で、地域の集まりにも赴任直後から参加され、あっという間に溶け込んでいました。会議には積極的に顔を出してしっかり発言し、地域の声に耳を傾けていました。南小国町にはなくてはならない存在です。

仲川:髙橋さんと初めて行ったカフェはすごく緊張しましたけどね(笑)。優しく受け入れてくださいました。最初の3カ月間は「南小国町の一員になる!」と、意識的に気持ちを切り替えていたんです。自ら声を上げて、地域のスポーツ大会に"SMO南小国チーム"として参加したことも、交流を深める大きなきっかけになりました。スーパーで「あ、仲川さん」と地域の方に声をかけられると、なじめたんだなとうれしくなりますね(笑)。
――ローカル共創イニシアティブを通して、心境に変化はありましたか。
仲川:地域に根ざした活動に携わるなかで、新たな視点や価値観に触れ、自分の視野が大きく広がったと感じています。また、地域の皆さんの声に耳を傾けながら物事を進めていくことの大切さに改めて気づきました。それが、今振り返ってみて私自身、大きく成長せきたように感じています。

――任期終了が近づいていますが、どのようなお気持ちですか。
仲川:寂しい気持ちが大きいです。ただ、皆さんといっしょに取り組んできたことを続けていけるように、最後までやるべきことをやりきりたいと思っています。実はありがたいことに、任期終了後も兼業というかたちで、SMO南小国での仕事を続けることになりました。これからも南小国町と良い関係を築いていきたいと思います。
仲川さんが語る「南小国町のおすすめ!」
「黒川温泉入湯手形(黒川温泉観光旅館協同組合)」と、「おいし杉バウム(おいし杉工房)」です。入湯手形は、この1枚で黒川温泉の25カ所の露天風呂から3カ所を選んで利用できますし、旅の思い出として残せるのも魅力です。おいし杉バウムは、南小国町産の米粉と菊芋で作られたバウムクーヘン。もちもちした食感で、その名のとおり"おいしすぎ"な逸品です!

※「しごとコンビニ」は「一般社団法人つながる地域づくり研究所」、「しごとコンビニ南小国」は「株式会社SMO南小国」の登録商標です。