郵便局がコンサート会場に!? 奈良市×奈良中央郵便局 「100万人のクラシックライブ」開催

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奈良中央郵便局のロビー。ATMの横、窓口のすぐそばから、プロの演奏家による本格的なクラシック音楽が響いてくる......。今年6月、奈良市と奈良中央郵便局が共催した「100万人のクラシックライブ」。あいにくの雨模様でしたが、事前に案内チラシを見て、あるいは口コミで知って足を運んだ方、たまたま用事があって訪れた方、さまざまなお客さまがバイオリンとピアノの生の音色に耳を傾け、「いつもの郵便局」が「美しい音色が響くコンサートライブ会場」となりました。
生活インフラの場としてだけではなく、「日常を豊かにする場」にもなる――郵便局の可能性が広がるヒントが、ここにはあるように思いました。

井谷 珠綺(いたに みき)さん
大阪府出身。5歳よりバイオリンを始める。大阪府立夕陽丘高等学校音楽科を経て、大阪音楽大学バイオリン演奏家特別コースを首席で卒業。現在は、一般財団法人100 万人のクラシックライブの演奏家として、「赤ちゃんからお年寄りまで、あらゆる人の日常に、音楽の感動を届ける活動」を行っている。今、はまっていることは、友人と楽しくテニスをすること。

大西 真衣(おおにし まい)さん
大阪府出身。4 歳よりエレクトーン、6 歳よりピアノを始める。相愛大学音楽学部音楽学科ピアノ専攻卒業。現在は、クラシック音楽・生演奏を日常の一部に、との想いで自主企画での演奏会も積極的に行う。今、はまっていることは、コーヒーの焙煎所を巡って、おいしいコーヒーに出会うこと。

奈良市 市民部 文化振興課 課長補佐
藤井 大樹(ふじい ひろき)さん
2012年、奈良市役所に入庁。現在、文化振興課にて、市民の文化・芸術活動の支援や参加機会を広げる活動を行なっている。
今、はまっていることは、改めて奈良のまちなかを巡って新しい店舗を見つけること。

100万人のクラシックライブ 代表理事
蓑田 秀策(みのだ しゅうさく)さん
2015 年、一般財団法人100 万人のクラシックライブを設立し、同代表理事に就任。クラシック音楽の感動を、聴く機会のない人と、弾く機会の少ない演奏家の間で広く共有することを目指して活動を展開。生の音楽を通じて人と人が感動でつながる場づくりに取り組んでいる。今、はまっていることは、能を演じること。

日本郵政株式会社 広報宣伝部
近藤 優美(こんどう ゆうみ)さん
2024 年入社。広報宣伝部にて、広告宣伝を担当。イベントの協賛や、広告代理店と連携して日本郵政グループの魅力を発信している。今はまっていることは、旅行先でご当地キーホルダーを集めること。
100万人のクラシックライブ
- 日時:2026/06/25(木) 開演 11:00/13:00 各30分
- プログラム
- 演奏者:井谷珠綺(バイオリン) 大西 真衣(ピアノ)
- 会場:奈良中央郵便局
【11:00】
♪ 久石譲/Summer
♪ モーツァルト/アイネ・クライネ・ナハトムジーク
♪ エルガー/愛の挨拶
♪ 日本の四季の歌遊び
♪ クライスラー/プレリュードとアレグロ
【13:00】
♪ 久石譲/Oriental Wind
♪ エルガー/愛の挨拶
♪ ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
♪ 日本の抒情歌メドレー[荒城の月~椰子の実~朧月夜]
♪ モンティ/チャルダッシュ
♪ ピアソラ/リベルタンゴ

奈良中央郵便局
「非日常」のステージでの感動
最前列で演奏を楽しんでいたお客さまに感想を伺いました。

――演奏を聴いてどのようなことを感じましたか。
お客さま:普段からコンサートにも行きますが、今日はホールとは違う面白さがありました。手を伸ばせば届きそうな距離でお二人が演奏しているので、音の強さがダイレクトにこちらに響いてきます。強弱をつけた音のニュアンス、演奏者の感情移入やテクニックもじかに感じられてすばらしく、時間を忘れて聞き入っていました。
――郵便局でのクラシックライブというのはいかがですか。
お客さま:郵便局でクラシックを聴いたのは初めてです。最初は、郵便局のどのホールで演奏するのかな、と思っていたくらい。でも、この空間ならとても良いですね。郵便局とのお付き合いというと、郵便・貯金・保険といったサービスのイメージが強いですが、こういう機会があると、郵便局がさらに身近に感じられてうれしいですね。
ご自身も音楽好きで、演奏経験もあるというお客さまからは、こんな感想をいただきました。

――今日は、演奏を聴いていかがでしたか。
お客さま:こんなに間近でピアノやバイオリンを弾いているのを見たことがなかったので、日ごろはできない、珍しい体験でした。こちらに音がダイレクトに響いてくる感じがします。郵便局と音楽は全然結びつかないと思っていましたが、思いがけないところからクラシックが聞こえてくると、自然と心がひかれます。音が流れているだけで、心地いい空間になりますよね。僕自身もウクレレをやっていたことがあるので、音楽が鳴っていると心地よくて、郵便局の新しい試みだなと思いました。これからもこういう企画はぜひ続けてほしいですね。
「郵便局ならではのライブ」づくり
バイオリンの井谷さん、ピアノの大西さんに、郵便局という空間で演奏した感想や工夫されたことなどを伺いました。

――郵便局でのライブ、プログラムや構成で意識したことを教えてください。
井谷:私たちは普段からいろいろな場所で演奏していますが、郵便局は少し特別な場です。事前に情報を知って来てくださった方もいれば、お金をおろしに来た、荷物を出しにきたという、音楽を聴く予定のなかった方もたくさんいらっしゃる。だからこそ、普段よりハードルが低く、別の用事で入ってきた方でも楽しめる場にしたいと思いました。お客さまの出入りが流動的になると予想し、どこから聴いても楽しめるよう、プログラムは"ストーリー性"を持たせつつも、途中からでも入りやすい構成を心がけました。
また、午前中の1回目と、午後からの2回目で、少し内容を変えて"ライブ感"を出したり、季節感のある曲を入れたり。初開催ということもあり、どこかで聞いたことがある名曲を多めにして、足を止めてもらえるようなバランスを意識しました。
――郵便局という日常的な場所で演奏することについてはどう感じましたか。
大西:郵便局のように、日常の一部として人が行き来する場所に音楽があるというのは、とても刺激的な試みだと感じました。このコンサートをきっかけにぜひ、私たちが取り組んでいるクラシック音楽の世界にも関心を深めていただければと思います。例えば、仕事で疲れて、少し座ったらバイオリンの音色が聞こえてきて、「おや、バイオリンの音、良い音だな」と思ってもらえれば、それが小さなエッセンスになる。そして、そのことが家に帰ってから家族との会話のきっかけになったりするとうれしいです。私たちの奏でる音楽が、日常の一部として感じてもらえたら、演奏する側にとっても有意義なことだと思います。

――お客さまとの距離が非常に近いスタイルの演奏でしたが、この距離感はいかがでしたか。
大西:普段はあの長いグランドピアノを演奏しているので、目の前にあるのはピアノだけ、右手が客席、ということになりますが、今回はすぐ目の前にも横にもお客さまがいらっしゃる。「あ、手を見られている」など、視線をすぐそばでひしひしと感じながらの演奏でした。「これは緊張する」という人と、「その緊張感がいい」という人と、ピアニストによって意見は分かれるかもしれませんが、刺激があって、私は好きですね。
井谷:物理的な距離は心の距離にもなると感じています。「100万人のクラシックライブ」の良さは、演奏家が話し、コミュニケーションを取りながら演奏できるところ。話をして、お客さまとやり取りをしながら、音楽を届ける。伝わったときは、表情や空気の変化で直に「あ、届いた!」って感じられます。最後にクライスラーの「プレリュードとアレグロ」を弾いた時も、会場の雰囲気が大きく変わったのを感じました。ホールでもこういう瞬間は起こるのですが、この距離の近さだからこそ生まれる、聴衆との〝響き合い"があると感じました。

――お客さまの様子で印象に残った点はありますか。
大西:最初は緊張なさっていてどこを見ていいのかわからない、という雰囲気が伝わってきたのですが、1曲、集中して弾いて私が顔を上げたら、音の世界に没頭して、他の余計なことは気にならない、お客さまがそんな表情になっていたんです。演奏が進むにつれ、表情も柔らかく、拍手もあたたかくなっていく。その変化を近い距離で体験できたのはとてもうれしいことでした。

奈良市が郵便局を選んだ理由~暮らしの動線に芸術を
「100万人のクラシックライブ」を共催した奈良市のご担当者、藤井さんに企画の意図を伺いました。

――今回の会場として郵便局を選んだのはなぜでしょうか。
藤井:奈良市では、「暮らしに芸術の感動を届けるプロジェクト」の一環として、あらゆる人が文化に触れられる環境整備と、興味・関心を高めるきっかけづくりを進めています。その中で、コンサートホールに足を運びにくい方々にも日常生活で芸術の感動をお届けしたいという思いでプロジェクトを進めています。
これまでは老人ホームなどの限定されたコミュニティへ直接出向く形が中心でしたが、今回の企画は、「生活動線上の公共空間」を舞台とした試みです。郵便局も市役所と同じく、密接に生活に関わる場所なので、立ち寄った際に自然と音楽に触れていただける。生活の中に芸術の感動がある、そう実感できる場の一つに郵便局がなりえるのだ、と改めて感じています。そして、こうした場が、地域コミュニティが育まれるきっかけや話題づくりになり、ゆくゆくは地域のつながりの活性化となればと願っています。
――お客さまの反応はいかがでしたか。
藤井:ATMや窓口を利用した方が、そのまま最後まで聴いてくださる場面が何度もありました。終演後のご様子を見ると、「今日、偶然良いことに出会えた」というような表情を浮かべていらして、皆さん喜んでお帰りいただけたのではないかと思います。
クラシックライブ開催で郵便局に感じた可能性
一般財団法人100万人のクラシックライブの代表理事で、今回のイベントを運営した蓑田さんに感想を伺いました。

――郵便局で開催してみての感想はいかがでしたか。
蓑田:私たちの運営する「100万人のクラシックライブ」では、すばらしい演奏家たちが、すばらしい演奏をして、聴きに来た方も皆さん「いいコンサートだった」と感動して帰っていただく。そんな感動の機会を増やしたいと考えています。クラシックに触れるきっかけがなかった方々と、広く演奏の機会を求めている演奏家、その両者を結んで、たくさんの方々に感動を共有していただき、日本中にそういう場を届けたいという活動です。
今回、郵便局が地域ネットワークの中心としての役割も担っている、それはすばらしいことだなと、今回一緒にやらせていただいて強く実感しました。
地域とつながる郵便局の新たな役割
今回の企画意図や、実際に開催した奈良中央郵便局でのお客さまや窓口社員の反応などについて、日本郵政株式会社広報宣伝部の近藤さんに話を聞きました。

――「100万人のクラシックライブ」に賛同した背景を教えてください。
近藤:郵便局は、地域のお客さまにとって身近な存在として、生活を支える役割を果たし続けたいと考えています。一般財団法人100万人のクラシックライブ様が、プロの演奏家による本格的なクラシック音楽を誰もが気軽に楽しめる場を通じて、「人と人をつなぐ」ことを大切にされている点に共感し、地域に寄り添う郵便局としてなにかご協力できるのではないかと考えました。
――お客さまの反応はいかがでしたか。
近藤:チラシを見て来局いただけたお客さまから、「ピアノやバイオリンの音をこんなに近くで聴ける機会がないので、とても素敵だなと思いました。こうした催しが郵便局で開催されることは、良いことですね、また機会があったらぜひ行きたいです」 といった感想をいただきました。
――窓口の社員からはどんな反応がありましたか。
近藤:郵便局の窓口社員の方々からは、好意的な声が多くありました。お客さまだけではなく、社員にも喜んでもらえたので、うれしかったですね。
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※ 社員から寄せられた感想
- 局内で生のクラシックが聞けてうれしかった。
- 知っている曲がたくさん流れて、いつもの仕事が楽しくなりました。
- 仕事をしていて、こんなに優雅な気持ちになったのは初めてです。
- 非日常の世界に浸り、幸せな気分になりました。
- クラシック音楽を身近に感じる良い機会になりました。
――実際に演奏を聴いてみての感想はいかがでしたか。
近藤:初めて、こんな間近でクラシックを聴きました。音がすごく澄んでいて、うっとりしているうちに30分があっという間に過ぎていました。とてもきれいで心に残る時間で、「バイオリンを弾けるようになりたい!」と思い、習ってみようかなと思うくらい感動しました。
――郵便局で実施することの意義はどこにあると考えていますか。
近藤:「誰もが立ち寄りやすい場所」であることだと思います。郵便局はさまざまなお客さまが訪れる公共性の高い拠点であり、地域の皆さまにとって日常の延長線上にある存在です。クラシックコンサートというと敷居が高いイメージもありますが、郵便局という身近な場所で生演奏に触れることで、より気軽にクラシックを楽しんでいただける機会を生み出せると思いました。こうした取り組みを通じて、郵便局が地域の皆さまとつながる場や、日常に彩りを添える場としての役割も果たせるのではないか、と考えています。
100万人のクラシックライブを終えて
地元の郵便局、という日常的な場所が、音楽の感動空間、という「非日常」の場に――奈良中央郵便局での「100万人のクラシックライブ」開催はこれまでにない、特別な時間となりました。
目の前で演奏家が楽器を奏でる迫力の音色に聴き入る方。用事で立ち寄っただけなのに、突然、耳にした美しい響きに驚きつつ足を止めて思わず聴き入る方。そして、窓口業務にあたる社員までも、「幸せなひととき」を過ごせたという、人と音楽の出会いと感動の場となりました。
全国津々浦々に広がる郵便局。生活の拠点としてだけではなく、「地域の方々と感動を共にする」拠点にもなり得るのではないか。そんな未来への可能性を示してくれた奈良中央郵便局での一日でした。
