エモい郵便局図鑑 No.9 善光寺郵便局(長野県)

エモい郵便局図鑑 No.9 善光寺郵便局(長野県)

1871年、「日本近代郵便の父」と呼ばれる前島 密(まえじま ひそか)によって郵便事業は開始されました。それから時は流れて150年以上経った現代、日本各地には激動の時代を見守ってきた郵便局が今でも残っています。ある人はそんな歴史ある郵便局を、畏敬の念をこめて「エモい郵便局」と言うんだとか――。

郵便局のノスタルジックな魅力に取りつかれたフォトグラファー・ライターが日本各地を訪れて紹介する「エモい郵便局図鑑」。今回の舞台は、長野県にある善光寺郵便局です。

■場所
国宝であり、長野市最大の観光名所である善光寺から徒歩圏内。古くから善光寺の表参道として栄えた大門町界隈に位置する。
(長野県長野市長野大門町515)


■開局
1987年


■概要
一流の和風旅館であった「五明館(扇屋)」(以下、「五明館」という)のフロント部分を改装し開局。善光寺の表玄関となる大門町は、石畳の表参道沿いに特産品店や飲食店が軒を連ね、地元の人から観光客まで多くの人で賑わう。


■歴史
善光寺のお膝元として、また善光寺参拝者の旅の拠り所として発展を続けてきた大門町。江戸時代には、善光寺宿の本陣のほか、30軒ほどの旅籠(はたご)が並んでいたという。かつて脇本陣であった旅籠は、明治になって 一流の和風旅館「五明館」となり、有力者や文化人たちに愛されてきた。1986年に旅館としての営業を終え、フロント部分を改装し1987年に善光寺郵便局として開局した。


■名物
局内には、勝 海舟が「五明館」宿泊の際に手がけた直筆の扁額が飾られている。また、窓口では善光寺をあしらったご当地デザインの消印「風景印」の押印ができる。郵便局入口にあるレトロな赤い丸型ポストは、フォトスポットとしても人気。


■交通アクセス
JR「長野駅」善光寺口より徒歩20分。長野電鉄長野線「善光寺下駅」より徒歩10分。

「遠くとも一度は詣れ(まいれ)善光寺」

遠いところに住んでいる人でも、一生のうちに一度でもいいからお参りしたほうがいい。――このように語り継がれ、人々からあつく信仰されていた善光寺。

※善光寺への参拝は料金がかかる場合がございます。

阿弥陀如来と縁を結ぶことで極楽往生がかなうとする善光寺信仰は、古くから広まり、老若男女すべての人々を迎え入れてきた。

令和の現代も、変わらず多くの人を引きつける長野の名所の一つだ。

多くの人で賑わっていてもどこか厳かな空気が漂う境内を歩くと、自然と背筋が伸びる。

善光寺の山門から仁王門の間にある仲見世通りは、石畳の参道を挟み、飲食店や甘味処、土産物屋や仏具店がずらりと並ぶ。

今も昔も変わらず多くの人で賑わう通りは、散策にもぴったりだ。

かつての旅人も、ここで故郷へ土産物を買ったり、長野の名物をじっくり味わったりしたのかもしれない。

仲見世通りを抜けて石畳を下っていくと、古くから善光寺のお膝元として栄えてきた大門町に入る。

江戸時代には、善光寺を訪れる旅人たちが泊まる宿場町「善光寺宿」として栄えた大門町。善光寺宿の本陣のほか、30軒ほどの旅籠が並んでいたという。

その一角に構える建物が、善光寺郵便局だ。

一見郵便局と気づかずに通り過ぎてしまうほど、周囲の景観に溶け込んでいる。

「歴史を感じるかっこいい外観でしょう。夜になると、緑の光でライトアップされるんですよ。私は写真が趣味なんですが、『せっかくこれだけ素敵な郵便局で働いているのに、これを撮らない手はない』と撮った写真をコンテストに出してみたら、新人賞をいただいたことがあるんです」

そう話すのは、長野市で生まれ育ち、2011年に善光寺郵便局に赴任した杉山 隆博(すぎやま たかひろ)局長。言葉の端々に、自分の働く場所への誇りと愛がにじみ出る。

この建物は、かつて旅館だったという。記録によると、宿としての創業は江戸中期の1776年(安永5年)にさかのぼる。参拝客を迎え入れるための旅籠として創業し、明治時代以降は「五明館」という名前で親しまれてきた。

江戸時代から続く伝統の宿に、帝国ホテルで学んだサービスを取り入れたおもてなしは多くの著名人に愛されたという。現在の建物は、昭和の初期に建てられたもの。

1986年に旅館業を廃業してからは、フロント部分を改装し、翌年から善光寺郵便局として開局した。

「善光寺を参拝にいらっしゃる方はもちろん、観光客の方、地元の方など本当にいろいろな方がお見えになります。私たちは、『ここは長野県の玄関口だ』という意識と、おもてなしの心を第一に日々働いています」(杉山さん)

郵便局内には、五明館時代の書や調度品が受け継がれている。

そのうちの一つが、明治維新の偉人である勝 海舟が宿泊した際に書き残したとされる直筆の書だ。今でも、この書を一目見たいと歴史好きが訪ねてくることもあるそう。

さらに、訪れる人たちに人気なのが郵便局入口にあるレトロな赤い丸型のポスト。開局した1987年に作られたポストは、補修を重ね今日まで受け継がれてきた。

杉山さんは、毎朝出勤するとポストを磨くことから仕事を始めるという。

「建物もポストも、歴史が長く価値のあるものですから、維持していくためにも門前の景観を守るためにも、常にきれいな状態で皆さまをお迎えできるよう気を遣っております。たくさんの方が記念に写真を撮っていかれるので、いい思い出として残していただきたいですね」(杉山さん)

また、善光寺郵便局では、善光寺をあしらった消印「風景印」の押印ができる。風景印には日付も入るため、旅の便りを出しに立ち寄る人が多いという。

「『風景印を押してほしい』と結婚式の招待状を当局から出す方がとても多いんです。前身である『五明館』は、もともと結婚式の披露宴会場としても使われていた歴史もありますから、縁起がいいかもしれませんね」(杉山さん)

さらに、おもてなしの心はこんなところにも。

「善光寺は有名な観光地ですから、旅行貯金をされているお客さまがよく記念にとお立ち寄りになるんです。せっかくの旅の思い出に、黒のインクで普通のスタンプでは味気ないだろうと、特別に善光寺のマークのついたスタンプと、赤色のインクをご用意しています」(杉山さん)

また、善光寺参拝の表参道に位置していることから、道に迷った人や、駐車場やお手洗いを探している人も案内を求めて窓口にやってくる。杉山さんをはじめとする職員は、自ら近隣の案内マップを作成したり、市の観光ガイドやグルメガイドを用意したりと、常に訪れる人へのおもてなしができるようにしている。

「これからも気軽にお立ち寄りいただけるよう、われわれもきちんと心がけていきたいです」(杉山さん)

「とはいえ、『おいしいお蕎麦屋さんを教えて』と聞かれると困ってしまいますが」と笑う杉山さん。「この辺りのお店は本当にどこもおいしいですから、気になったところに入ってみてください」と教えてくれた。

宗派や老若男女問わず、すべての人々を迎え入れてきた善光寺。

その門前に位置する善光寺郵便局にもおもてなしの心が受け継がれ、今日も訪れる人たちをあたたかく迎えている。

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