「手紙を出すので鉄道に揺られてくる。」 自然に囲まれた日本最南端の駅 《鹿児島県 西大山駅》行き

旅先で美しい景色を見たとき、「あの人にも見せてあげたかったな」と大切な人の顔が思い浮かぶ。

鉄道に乗りながら日本全国を巡り、大切な人に手紙を送る旅に出ます。時代を感じさせる素敵な駅舎や、車窓からのすばらしい眺め、その風景になじんだポスト。旅先で出会った記憶に残る光景を、フォトグラファーがファインダーに収めます。

「手紙」と「鉄道」をテーマにした旅。

リュックに便箋とカメラを入れて出発です。

2年ぶりに実家に帰ると、母が1枚のポストカードを見せてくれた。

トロピカル南国ビーチのプリントが施されたポストカードには、外国の切手が貼り付けてあり、短くこう書かれていた。

「今、タイのピピ島でダイビングをしています。サメに襲われたら鼻を殴れとガイドさんに教えてもらいました。サメの弱点は鼻みたいです」

この文章には、ダイビング姿でサメの鼻を殴る落書きのようなイラストが描き添えられていた。

この手紙は私が15年前、東南アジアを旅していたときに母に宛てたもので、旅の途中、安否確認のために送り続けていた葉書の1枚だ。母はその葉書を今も大切に持ってくれている。

私は昔からよく旅行に行くのですが、旅先で美しい景色と出会ったり、面白い体験をしたりすると、無性に大切な人のことを思い出し、その風景や出来事を伝えたくなってしまう。

家族や恋人、友人に、現地で売っているモロお土産っぽい、そしてなるべく素朴なポストカードを選び、短文を書いて、投かんしていた。

大切な人を思い浮かべて手紙を書く鉄道旅

今回は大好きな鹿児島にやってきました。

今まで何度となく訪れていた鹿児島だが、食べ物は最高においしくて、自然もきれいで、毎回行く度に本気で住みたくなる場所です。

目的地は日本最南端の駅、西大山駅。鹿児島県の指宿にある西大山駅には「幸せの黄色いポスト」があって、そのポストに受取人の幸せを願って手紙を投かんするんですって。「旅行」と「手紙」をやり続けた私にとってはベストな目的地であります。

飛行機で羽田から2時間、空港からバスで40分。鹿児島中央駅に到着。

行く前は遠く感じるが、来てみれば意外と近い。それが鹿児島。

黄色いポストに向けていざ出発。まずは鹿児島中央駅から指宿駅に向かいます。

竜宮城伝説の列車に乗って湯けむりの街へと目指す

指宿駅までは「いぶたま」の愛称でご当地列車としても人気の高い「指宿のたまて箱号」に乗車。薩摩半島に伝わる竜宮伝説をモチーフにした列車で、白黒ボディーは玉手箱を連想させます。

車窓からの景色をずっと楽しめるカウンター席はとても人気。今回は運よくカウンター席が取れたので存分に風景を楽しみます。

お昼も近いのでさっそく駅弁タイム。

鹿児島中央駅で購入しておいた「わっぜぇうまか!!薩摩黒膳弁当でごわす。」を食べる。

「わっぜぇ」とは鹿児島弁で「すごく」という意味。

2段重ねの上の段には黒米のご飯、その上には黒豚の角煮がのせられている。副菜に黒豆、赤キャベツ、さつまいもなどが彩りを添えている。下段にはさつま鶏の照り煮、カンパチの照り焼き、きんぴらごぼう、さつま揚げ、こんにゃくとしいたけの煮物、かぼちゃ、卵焼きが敷き詰められている。

車窓からの景色を眺めながら、食べる駅弁。これぞ旅のだいご味であり、幸せの瞬間である。目的地に行くまでの時間をどう過ごすかでその旅の充実度が決まる。

鹿児島湾を眺めながら、旅ができる幸せをかみしめる。

もちろん車内販売も楽しむ。

購入したのは指宿温泉サイダーといぶたまプリン。

指宿温泉サイダーは平成の名水百選にも選ばれている指宿の唐船峡の天然湧水から作られたご当地サイダー。

その昔、指宿は東洋のハワイと呼ばれていて、新婚旅行で人気のスポットでした。ラベルに描かれているハワイアンなカップルは、そんな昭和の時代の新婚さんたちを思わせるレトロなデザイン。口のなかで大きな泡がシュワッと弾ける。甘さもナチュラルでさっぱりとおいしい。

いぶたまプリンは白と黒の2層になっていて、いぶたま号のボディーを連想させるかわいい見た目。黒の層は黒ごま味で滑らかな口のなかでとろける最高のデザート。

最高のデザートを並べて、両親に手紙を書き始める。書き出しはいつも迷いますが、今、鹿児島にいることから書き始める。なんとなく最初はかしこまってしまうのと、照れがあるので筆が進まないが、車窓からの風景を眺めながらぼーっと最近あったことを振り返ってみる。

筆が止まったら、視線を手元から上げる。目の前には鹿児島湾が広がっている。サイダーを飲みながら、何を書こうかゆっくりと考える。

そんな時間を過ごしていたらアッという間に指宿駅に到着。下車するとドアの上方から蒸気がモクモクと上がっていた。玉手箱がモチーフになっている電車だけにニクい演出。実際電車に乗っている時間は楽しく、びっくりするくらいすぐに過ぎてしまったので、もしかしたら竜宮城にでも来たのかもしれない。

次の電車までに乗り換え時間があるのでぶらり途中下車。

温泉の街、指宿でホッとひと休み

指宿といえば砂蒸し風呂が有名ですよね。

鹿児島は全体的に温泉が沢山湧いていますが、ちょっと掘れば温泉が湧いてくるんでしょうね。事実、全国でも2番目に源泉数が多くて、その数2,000カ所以上もあります(ちなみに1位は大分)。

指宿ももちろん温泉は豊富に湧いていて、自宅にも温泉を引くことができるそうです。調べてみたら月額5,000円くらいで利用できるみたい。温泉好きが住むべき場所は指宿で決まりかもしれませんね。

そんな温泉大国鹿児島。

指宿駅の前には当然のように足湯がありました。

鹿児島空港には天然温泉の足湯がありますし、桜島には全長100mの足湯があります。鹿児島は行く先々で足湯が用意されていますが、広場に噴水を作るくらいの気軽さで足湯を作っている気がします。足湯は最高の公共施設なのでこれからも積極的に作ってほしいです。

足湯につかりながら手紙の続きを書く。ここまでリラックスした状況で手紙を書くことはあんまりない気がします。全身がほぐれて筆も進む。

時間はゆっくり流れているようにも思えますが、竜宮城のようにアッという間に過ぎていく。最後に乗る電車がやってきたので乗り込みます。

指宿駅から指宿枕崎線に乗ると3駅で西大山駅に到着します。

薩摩半島の先端にそびえ立つ開聞岳が見えてくると西大山駅はもう近い。

日本最南端の駅まであと少し。

駅からの絶景。忘れられない光景。

ついに到着しました。

このきれいな円すい形の山が開聞岳。別名「薩摩富士」とも呼ばれているのですが、シルエットは富士山そのもの。むしろ形だけでいえば富士山よりも富士山の形をしているような気もする。広々とした空の下にドーンと裾野を広げている。

そして黄色いポストにもご対面。このポストに会いたくて、飛行機と電車を乗り継ぎ、わざわざここまでやってきました。

電車に揺られながら、足湯につかりながら両親に書いた手紙をいざ投かん。

そんなに大したことは書いていません。

元気にしています。

今度息子たちを連れて遊びに行くね。

体には気をつけてね。

そんな内容だけど、きっと母も父も喜んでくれるだろう。

駅前にはお土産屋さんが1軒あるだけで、周りにはなんにもない。

開聞岳をバックに黄色いポストがポツンと立っている。

このポストは、誰かの幸せを願う人を、今日もここで待っているのだ。

フォトグラファー:武井 博昭

ライター:5歳

企画・制作:CURBON

「手紙を出すので鉄道に揺られてくる。」 海が見える駅 《長崎県 千綿駅》行き

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