私のオンとオフ スイッチインタビュー 過酷な競技「スカイランニング」で世界大会の表彰台を目指す郵便局社員の飽くなき挑戦

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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回、お話を聞いたのは、八王子南郵便局に勤務する中川さん。プライベートでは「スカイランニング」と呼ばれる過酷な競技に打ち込んでいます。30代までスポーツに縁がなかったという中川さんがスカイランニングに目覚めたきっかけ、そしてオンとオフの両立方法について伺いました。

八王子南郵便局 第二集配営業部
中川 善博(なかがわ よしひろ)さん
2015年、日本郵便株式会社入社。これまで一貫して配達業務に従事。
20年の営業職を経て、郵便局の配達員に転身
――現在の業務内容を教えてください。
中川:配達業務を担当しています。また、2024年度からは集配営業部のリーダーとして、ゆうパックの特約営業も行っています。

――入社のきっかけを教えてください。
中川:郵便局で働く前は別の会社で20年ほど、営業の仕事に携わっていました。その会社を退職後、人とかかわる仕事や地域に貢献できる仕事がしたいと考え、再就職先を探すなかで郵便局にたどり着きました。
――長年親しんだ仕事から、まったく異なる仕事にチャレンジすることに不安はありませんでしたか。
中川:もちろん最初はわからない部分も多くありましたが、上司の方に丁寧な指導やフォローをしていただいたので、不安などはありませんでした。またゆうパックの営業を行ううえでは、これまでの経験がむしろプラスになっていますね。

――普段の業務のなかで、特に意識していることはありますか。
中川:当たり前のことではありますが、運転をしているので、安全第一です。また、 チームワークを大事にしています。私たちが運んでいる郵便物は、お客さまからすると届いて当たり前のもの。限られた時間や人数のなかで迅速かつ正確に運ぶためにも、運行に関してチームで日々打ち合わせをしながら、積極的にコミュニケーションを取って業務に取り組んでいます。

40歳を過ぎて受けた健康診断がきっかけでスポーツの世界に
――「スカイランニング」という競技について教えてください。
中川:スカイランニングとは、山岳や超高層ビルを駆け登る競技です。フィールドの違いで、山岳・雪上・階段と3つの分野があり、それぞれに種目があります。私が挑戦している山岳分野には3つの競技種目があり、スタート地点からゴール地点までの累積の標高差が1200m以上で、20〜45kmの中距離レースが「SKY(スカイ)」、累積標高差が3000m以上で50〜80kmの長距離レースが「SKYULTRA(スカイウルトラ)」、そして平均20%以上、一部は33%以上の傾斜を駆け登るレースが「VERTICAL(バーティカル)」と分かれています。コースによりさまざまですが、スカイランニングでは8時間ほど走るものが多いです。
よく似ている競技で「トレイルランニング」がありますが、水平方向の移動要素が強いトレイルランニングに対して、スカイランニングは標高の高い山を駆け上がったり、下ったり、垂直方向の移動要素が強い競技といえます。岩を登るなど、ちょっとしたロッククライミング要素もあります。

――そもそもスカイランニングを始めようと思ったきっかけはなんでしょうか。
中川:43歳のときに受けた健康診断がきっかけです。「運動したほうがいい」と医師に言われ、しぶしぶウォーキングを始めました。それまでスポーツなんて全然したことがなくて、当時は階段で1階から2階に上がるだけでも、息を切らしていましたね。その後、スポーツクラブに加入したことで大きく意識が変わり、専門家のアドバイスを受けながら食事制限なども組み合わせたことで、徐々に効果が表れてきました。
昔から目の前の目標を一つずつクリアすることに強い達成感を感じるタイプだったので、ウォーキングから少しずつ走ることにもチャレンジしていきました。走れるようになると、目標も変わっていき3年後にはハーフマラソン、4年後にはフルマラソンにチャレンジするまでになりました。山に行くようになったのは50歳のころです。ラン仲間からトレイルランニングのことを聞いて、好奇心に動かされ大会に参加してみました。そこから、徐々にスカイランニングに移行していきました。

――これまでどのような山を走りましたか。
中川:北岳とか間ノ岳とか......、富士山はこれまで40回くらいは挑んでいますね。岩にぶつかったり、転んだり、もうしょっちゅうケガをしていて、傷だらけです(笑)。
――2024年にはポルトガルで開催された世界選手権にも参加されましたね。
中川:2023年の全日本スカイランニング選手権マスターズ部門で金メダルを獲り、世界選手権への出場権を獲得しました。成績は個人6位、団体3位。個人では最低でも表彰台に上りたいと思っていたので、苦い結果となりましたが、世界中のランナーたちと交流ができたので、いい経験になりました。実は10月にブルガリアで開催される今年の世界選手権の出場も既に決まっているので、次こそはリベンジを果たしたいと思っています。

――過酷な競技に挑むために、トレーニングは日ごろ、どれくらいされていますか。
中川:距離でいったら、ひと月に400km。平日は仕事終わりに15km、土日は山に行って30〜40km走るようにしています。

――大変な競技であるスカイランニングの、どこに魅力を感じていますか。
中川:山を走るのはきついですが、それ以上に、山の景観のすばらしさが勝るんです。車ではなく、自分の足で走って見る景色だからこそ一層美しい。景色を見たいなら登山でいいじゃないかと思われるかもしれませんが、スカイランニングは山々を縦走する競技なので、いくつもの山の景色を楽しめる、そんな欲張りな一面もあります。
またスカイランニングは、長距離を走るからこそ、緻密な計画を立て、それを実行していく過程にも大きな魅力があります。私は毎回レース前に、タイムチャートを作成しています。どの地点で何を補給するのか、着替えはどこで行うのか、あらゆる状況を想定して戦略を練るのです。自ら立てた計画どおりに走り、目標としていたタイムを達成できたときの喜びは、何物にも代えがたいものです。さらに個人の力が試される競技でもあるので、よい結果も悪い結果も、すべて自分の責任。だからこそ、自分の力で目標を達成したときの達成感は、ほかのスポーツでは味わえない格別なものがあります。
生涯フルタイム、生涯スポーツが今後の目標
――郵便局の仕事とスカイランニングを両立するうえで、工夫されていることはありますか。
中川:練習を怠ると、すぐに体がなまってしまうので、仕事をしながらも、月50時間以上はトレーニング時間を確保したいと思っています。しかし時間は有限ですので、仕事もトレーニングも効率重視で、メリハリをつけて取り組んでいます。勤務中は仕事に集中する、トレーニング中はトレーニングに集中する。トレーニングもただ漫然と走るのではなく、持久力強化なのか、登る力をつけるのか、その日の目的を明確にし、効率化を図っています。
――かなりストイックな生活ですよね。続けられている秘訣はなんでしょうか。
中川:やはり目標を持って取り組んできたことが大きかったと思います。数カ月後の大会に向けて頑張ろう、ハーフマラソンを達成したから次はフルマラソンに挑戦しよう、といった感じに常に自分のなかで目標を設定することで、達成感を味わいながら楽しく継続することができました。仕事も同じで、常に目標を持ちながら計画的に取り組むようにしています。
――郵便局の仕事とスカイランニング、それぞれの目標を教えてください。
中川:生涯フルタイムと生涯スポーツの両立を掲げていまして、仕事は70歳までフルタイムで働く、スポーツに関しては70歳で70代のフルマラソンの世界記録を破ることを目標にしています。これを言うとまわりから笑われるのですが、私は真剣です。仕事もスポーツも、どちらも「オン」という気持ちで、100%全力で取り組んでいきたいと思います。


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