"共創"から生まれたオリジナルトマト「さやまる」! 人、地域とつながる日本郵便の「380PROJECT」(後編)

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2018年10月から日本郵便がスタートした、オリジナルトマトの開発を目指す「380PROJECT(さやまるプロジェクト)」。後編となる今回は、2021年12月に開催され、支社社員が参加したトマト農園見学会の様子をお伝えするとともに、このプロジェクトで得られた地域や人とのつながりについて、「380PROJECT」の発起人である鈴木雄輔さんにお話を伺いました。

日本郵便株式会社 デジタルビジネス戦略部 係長
鈴木 雄輔(すずき ゆうすけ)さん
2010年入社。都内の郵便局での業務を経て、本社の金融業務部に配属。その後、東北支社秋田中央局へ転勤し、2年ほど地区連絡会で人事・営業のサポートを行う。東京に戻り配属された物販ビジネス部で自主提案した新規事業「380PROJECT」立ち上げのため、2017年に事業開発推進室(現デジタルビジネス戦略部)に異動。以降、新規事業担当として長野でトマト栽培に取り組んでいる。
トマトとともに芽吹きはじめた、地域との交流
プロジェクト推進のキーは"人とのつながり"

東京農業大学、東レ建設との共創で実現した「380PROJECT」。日本郵便初となるオリジナル商品「さやまる」トマトの開発に成功しましたが、それ以外にも地域の方々との温かい交流も生まれたと言います。
「2020年は、コロナ禍でトマトの販売を開始した年だったこともあり、運営だけでいっぱいいっぱいでしたが、コロナ前の2018、19年にはイベントを開催していました。隣の小学校や近くの保育園から子どもたちがたくさん来てくれて、とても喜んでくれていた様子でした。その都度テレビでも取り上げていただき、近くのコンビニに行くと『テレビ観たよ』と店員さんが声をかけてくれることもありましたね。そんななか、これまでノウハウを積み重ねてきた中で、さらに品質の向上や作業の改善を進めたいと思うようになり、『他の生産者さんはどのようにやっているんだろう』との興味関心も出てきたため、2020年の夏頃からは地域の生産者さんたちとの情報交換もはじめました。プロジェクトメンバーの紹介で生産者さんのところにお邪魔したり、反対にこちらに来ていただいたりしています」(鈴木さん)
また、「さやまる」トマトの社外への認知度向上のため、鈴木さんは積極的に展示会や催事イベントにも参加してきたと振り返ります。
「幕張メッセや東京ビッグサイトなどで年に1、2回開催される農業関係の展示会にブースを借りて出展したり、小田急百貨店新宿店さんの催事イベントでも販売を行ったりしましたね。そういう時にただ販売するのではなく、いろいろな展示コーナーを作り、お客さまに足を止めていただくための工夫をしたんです。イベントのディスプレイは、東京チームが中心となって企画し、「380PROJECT」のユニフォームや商品のパッケージのデザインを作ってくださっているデザイナーさんに形にしていただきました。プロジェクトの説明をすると、意外性もあったのか『郵便局でこんなことやっているんだね』と、みなさん興味を示してくれました」(鈴木さん)

プロジェクト開始当初はビニールハウス2棟、2名のメンバーで運営を行っていましたが、2021年から棟数とメンバー数を拡大。チームメンバーの増加により、さらにスムーズな栽培体制を築けたそうです。
「2021年からは、ハウスの増棟に合わせて長野チームのメンバーを6人に増やしました。得意分野やさまざまなバックボーンを持ったメンバーが集まってきてくれたおかげで、自分では思いつかなかったことや、今まで『これは絶対にできないな』と思っていたことが、どんどん実現しています。例えば、以前工場で働いていたメンバーが、自主的に栽培所内の表示を作ったり栽培状況の情報を整理してまとめてくれたりしたんです。そういった現場管理の仕方は工場では当たり前らしいのですが、私がそういう知識を持っていなかったため、とても心強く感じました。あとは、私以外のメンバーは全員地元の方なので『地元の販路でこういうところがあるよ』と教えてくれたり、地域の生産者さんを紹介してもらったり、売り物にならないトマトを活用したジャムの試作を地域の加工施設にお願いして実現させてくれたりしたこともあります。いろんな人たちが集まって、発想や経験で支えてくれていますね」(鈴木さん)

見学会の開催で深まる、「380PROJECT」への社内理解

2021年11月からは、本プロジェクトに対する社内への理解を深めるため「さやまるトマト農園 オープンファーム」と題する見学会を開催。地域の方だけでなく、社内理解の向上にも努めています。
「以前も、支社から『東京から出張で来た人がいるから栽培所を見せてほしい』と言われることはあったのですが、2021年の11月から本格的に社内に向けた認知度向上のために見学会を開催することにしました。近くで栽培をしていても、実際に栽培する様子を見たことがない人もたくさんいたので、まずは近隣の郵便局の社員や支社の社員に見てもらうことにしたんです」(鈴木さん)
2021年12月23日(木)に開催された2回目となる見学会には、10名ほどの社員が参加しました。参加者はまず、砂栽培の仕組みやスマホを使った水の管理などの説明を受け、施設内を見学。その後、実際に「さやまる」トマトの試食も行われました。


見学会に参加した社員の方からは、以下のような声があったそうです。
「今回見学会に参加させていただいて、このプロジェクトにさらに興味が湧きました。『日本郵便でトマトの栽培』、これは意外性があってとても面白い試みだと思います。トマトを実際に食べてみたら、想像以上に甘くて驚きました。僕も機会があれば何か携わってみたいです」
「自分が家庭菜園をやっていることもあり、以前からこの見学会をとても楽しみにしていました。私もここで何か手伝ってみたいですね。『さやまる』は、甘さも食感も普通のトマトとは違うので、トマトが苦手な方でも食べられるのではないかと思います」
これからは見学会の規模や回数を増やし、社員の家族の方や地域の方にも見ていただけたらと考えているそうです。
地域とのつながりを深めながら、事業の拡大を目指す

今までトマトの販売はネットが中心でしたが、徐々に店頭での販路も拡大してきています。また、規格外のトマトも無駄にすることなく販売する仕組みを整えている点も、同プロジェクトの画期的な点です。
「まず自社の通販サイト「郵便局のネットショップ」での販売からスタートしたのですが、この取り組みに興味を持ってくださった東京・銀座地域の郵便局長の協力により、『無印良品 銀座店』でも店頭販売を行えることになりました。あとはJPローソンの4店舗、東京・世田谷にある東京農業大学のアンテナショップ『「農」の蔵』でも店頭販売を始め、徐々に販路を拡大しているところです。『さやまる』、『朝採り完熟トマト』として販売できない規格外のものは、『ポケットマルシェ』という直販サイトを活用したり、(株)農業総合研究所が持っている配送網を使って関東圏のサミットストアやライフなどのスーパーで袋詰めした商品を販売したりしています。近所に農業総合研究所の集荷場があるんですが、そこに袋詰めをしてコンテナーに入れるとトラックで輸送されて、翌日には関東のスーパーに並ぶ仕組みです。また今季のさやまるからは、長野県などの一部の郵便局に設置する「ふるさと小包チラシ」でも申し込みを受け付けます」(鈴木さん)
今後、生産量が安定、増加してきたら、販路の拡大だけではなく飲食店やホテルなどとのコラボ、関連製品の販売も検討していきたいと鈴木さんは話します。

「まずは郵便局の窓口での受注に対して、しっかり生産量を確保することと、売上げと認知度の向上をしっかり進めていきたいです。今はネット販売、東京、関東での販売が中心なので、これから地元で気軽に買える販路も作れたらいいなと思っています。生産量がもっと増えてきたら、飲食店やホテルといった対法人のお客さま向けにも作っていきたいですね。それから、これはまだ試作段階ですが、委託でトマトをジャムに加工してもらっていて、今後は近隣のパン屋さんなどに置かせてもらうことも計画しています」(鈴木さん)
最後に、4年目を迎えた同プロジェクトにおける直近の目標と長期的な展望について、鈴木さんの想いを伺いました。

「今年の夏に栽培所を4棟に拡大したばかりなので、あと1~2年くらいはこの規模でしっかり生産・販売の両輪を安定的に運営していくことが目の前の目標です。その後は、ここ長野の拠点にはまだ土地があるので、もっと規模を大きくして人も増やし、販売エリアも長野だけではなく全国に拡大していきたいですね。さらに将来的なことを言うと、長い挑戦になりますが、長野を一つのモデルとして他の地域にもこの仕組みを応用していきたいです。他の地域にも活用できる土地があるのなら、その土地に合うような第二弾の商品を生み出すところまで持っていきたいと考えています」(鈴木さん)
日本郵便にとって、農業という新たな分野への挑戦となった「380PROJECT」。地域や社外の方はもちろん、見学会の実施により社内での事業に対する理解も一層深まっています。日本郵便の新規事業のプロトタイプともなる本プロジェクトの今後に注目です。
▼さやまるトマト 販売ページは こちら
※撮影時のみマスクを外しています。