私のオンとオフ スイッチインタビュー 歌に救われながら走り続けた30余年のキャリア! 監査役として、いま抱く社員への思い
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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く約40万人の日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回、お話を聞いたのは、日本郵便株式会社の木下 範子(きのした のりこ)さん。同社の監査役を務めながら、プライベートでは30年以上音楽活動に取り組み、コンサートも開催。歌への思いと、オンとオフの両立方法について伺いました。
日本郵便株式会社 監査役
木下 範子(きのした のりこ)さん
1989年、当時の郵政省に入省。日本郵政株式会社 執行役、日本郵便株式会社 常務執行役員などの要職を経て、2024年6月から現職。民営化前には外務省に出向し、ジュネーブ(スイス)に派遣された経歴を持つ。
監査役の仕事は人の話をよく聞くこと、丁寧に説明することが大事
――監査役の仕事内容を教えてください。
木下:簡単に言うと、会社が健全に運営されているかを確認することです。会社の経営に対して責任を負う取締役が会社を正しい方向に導いているかをチェックすることが、監査役に求められています。
また、社員の声を聞き、それを社内にフィードバックするのも監査役の大事な仕事です。郵便局などに赴いて、社員の皆さんが明るく前を向いて働けているか、会社の施策や方向性について困っていることがないかなど、率直な意見を伺い、会社の経営を担う人たちに投げかけています。
――普段、どのようなことを意識して監査役の仕事をされていますか。
木下:コミュニケーションが大事な仕事ですので、まずは話をよく聞くこと、そして誤解のないように説明していくことを心がけています。自分はこう思うという意見があったら、まずはまわりの人の意見もしっかりと聞いて、判断するべきところは判断する。何かをお願いするときも、「言わなくてもわかるだろう」ではなく、なぜお願いするのか、なるべくわかりやすい言葉で丁寧に説明するようにしています。
――仕事の大変さや、楽しさは何でしょうか。
木下:監査役の仕事については、着任するまでほぼ知識がなかったので、何をどう進めていったらよいか、手探りの日々でした。知識を深めるためのセミナーや、ほかの企業の監査役の方々と交流できる勉強会に参加する機会を作り、そこで悩みの共有や、相談をしています。また、そのような交流を通じて、日本郵政グループが外部からどのように見られているのかを知ることができ、視野が広がりました。
――これまで印象に残っている出来事はありますか。
木下:10年以上前になりますが、簡易郵便局企画室で勤務していたときに全国各地の簡易郵便局の方々と交流する機会に恵まれました。現在、監査役として再び全国を訪れるようになり、図らずして当時お世話になった方と再会することが増えています。懐かしく思うとともに、皆さんが変わらず前向きにご活躍されている姿を見るのは、本当にうれしく思います。
歌にはおのずと人間性が表れる、最も雄弁で嘘偽りのない表現方法
――2024年11月にコンサートを開催して、歌を披露されたと伺いました。歌うことは昔からお好きだったのですか。
木下:幼少期から歌謡曲や演歌など、何でも歌っていましたね。学校の音楽の授業も好きでした。
――本格的に歌の活動に取り組むようになったきっかけは何だったのでしょうか。
木下:高校、大学と合唱団に所属していたのですが、それだけでは満足できず、もっと上達したいという気持ちが芽生えたんです。音大に進んだ先輩に歌の先生を紹介いただいて個人レッスンを受けるようになったのが、本格的に取り組むようになったきっかけです。今の先生には、かれこれ30年以上教えていただいています。
――30年以上はすごいですね!
木下:それも先生のおかげですね。仕事が忙しいと、ほとんど事前の準備ができないままレッスン当日を迎えるということもよくありました。それでも先生は、レッスンに集中して一所懸命取り組む姿勢を認めてくださり、他のお弟子さんに対するのと同じ熱量で教えてくださいました。本当に感謝しています。
――コンサートをする機会はそれまでもありましたか。
木下:30歳くらいのころに、上達のきっかけになればと思って、独唱会を開催したことがありました。でも、結果は不完全燃焼。甘く見ていたというか、思うようにできませんでしたね。
――今回、コンサートを開催しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
木下:ずっとやりたいとは思っていたのですが、一人で最初から最後まで歌いきるコンサートは技量と気力が必要で、躊躇(ちゅうちょ)していました。きっかけはコロナ禍です。自宅にいる時間が多くなり、ふとこれまで習ってきた曲を書き出してみたら350曲もあったんです。そのなかからまた歌いたいと思った曲を先生のところで練習するようになったら、先生が「そろそろコンサートを考えてもいいんじゃない」と言ってくださって。その言葉に背中を押され、コンサートを企画しました。
――実際に、コンサートを開催されていかがでしたか。
木下:練習どおりのパフォーマンスができたかなと思います。どれだけ周囲がよかったよと言ってくれても、出来不出来というのは自分のなかではっきりとわかってしまうものです。今回はコンサートが終わった後に、今の自分の実力で歌いきれた、と素直に思うことができました。
――木下さんにとって、歌の魅力とは何でしょうか。
木下:歌は、何よりも雄弁で、嘘偽りのない自己表現の方法だと、私は思っています。歌はその人そのものというか、歌い手の人間性や人生というものが語らなくても自然と表れてくる、そこが魅力だと思います。
――歌を聞けば、その人がわかるんですね。
木下:そうですね。私にとって歌は喜びであり、元気づけてくれたり、励ましてくれたりするものでもあります。苦しいときも、歌によって何度も救われてきました。歌は私にとって切っても切れない存在ですし、自分が自分でいられることの証であると思っています。
気持ちを切り替え「今この瞬間に集中する」ことが両立のヒント
――レッスン以外ですと、歌の練習はどのようにされていますか。
木下:スタジオを借りて仕事帰りに練習したりしていたんですが、仕事が忙しいとつい練習を怠ってしまうという日も正直あって......。それで、自宅に防音室を作ったんです。どんな日であっても歌のことを忘れないように、とにかく10分だけでも発声の練習をするとか、楽譜をすぐ目のつく場所に置いておくとか、歌うときの姿勢を意識するとか、何でもいいから歌のことを考えるタイミングを日に一回は作るようにしています。
――歌の活動が仕事に、または仕事が歌の活動によい影響を及ぼすことはありますか。
木下:たくさんありますが、歌を練習すると声がよく通るようになるので、たくさんの社員の前で話すときは、皆さん自然と耳を傾けてくれるんですよ。そこは得しているなと思います(笑)。仕事が歌に与えたよい影響でいうと、タイムマネジメントに慣れているせいか、本番に向けた練習プロセスや段取りがわりとうまく組めた、というのはあるかもしれないですね。
――オンとオフをうまく両立させる方法を教えていただけますか。
木下:私が意識しているのは「Do What You are Doing While You are Doing It.」、つまり「今この瞬間に集中せよ」ということです。例えば、レッスンに向かう道中で、仕事のことなど雑念が頭のなかで渦巻いていても、100メートル手前くらいに来たら頭を切り替えて歌だけに集中するようにしています。そうすることで、終わったときに、よいレッスンだった、歌って元気になった、という気持ちになれるんです。オンもオフも、過去を引きずらず、とにかく目の前のことに集中すれば、その時間を有意義なものにすることができます。
――最後にオンとオフを両立させながら、木下さんが目指していきたい姿を教えてください。
木下:これまでは、「仕事をしなきゃ、歌のレッスンに行かなきゃ」と追われているような感覚で毎日を送ってきたように思います。生活を「こなして」きたというか。そうではなく、これからはオンもオフも自分が本当にやりたいことは何だろうと見つめ直しながら、一つひとつ味わうように取り組んでいきたいです。
そのうえで、音楽では、もっときれいな声で自由にたくさん歌っていきたい。仕事に関しては、「何のために仕事をするのか」と自問する時期もあったのですが、今は、「日々目の前のお客さまに真摯に向き合っている、フロントの第一線で頑張る社員のため。彼らが前を向いて元気に働くため」とはっきり言えます。その目標に向かってもっと考えを突きつめて、今の仕事に取り組んでいきたいと思います。
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