「絵本のまち」を目指して。郵便局が身近な図書館に。

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徳島県鳴門市では、絵本を介して地域を元気にしようという取り組み「絵本のまち なると」が進められています。その一環として、2023年から市内の郵便局で絵本の貸し出しを行う「鳴門まちなか絵本図書館」がスタートしました。
今回は、この温かな取り組みにおいて市役所との折衝役を務める村越さん、米原さん、藤森さんにお話を伺いました。

鳴門斎田郵便局 局長
村越 健治(むらこし けんじ)さん
高知県の郵便局や四国支社を経て、2007年より現職。

堂浦郵便局
米原 深雪(よねはら みゆき)さん
2019年より現職。窓口業務を担当している。

鳴門北灘郵便局 主任
藤森 望(ふじもり のぞみ)さん
2018年より現職。窓口業務を担当している。
絵本に触れ合う場を創出する「鳴門まちなか絵本図書館」とは
――「鳴門まちなか絵本図書館」は、どのような取り組みですか。
村越:鳴門市が2022年から始めた「鳴門まちなか絵本図書館事業」の一環で、市内のいろいろなところで絵本に触れ合える機会を創出する取り組みです。郵便局では、局内のスペースに本棚を設置し、来局されたお客さまは自由に絵本を読むことができます。

――鳴門まちなか絵本図書館に郵便局が参画することに、どのような期待がありましたか。
村越:お客さまが気軽に絵本と触れ合える場所を提供することで、お子さまへの教育に貢献できればと考えました。また、絵本がお客さまとの会話のツールの一つになり、郵便局にいらっしゃるきっかけにつながることも期待しています。

――鳴門市とは包括連携協定を締結しているそうですね。
村越:包括連携協定は2020年に締結しましたが、鳴門市とはそれ以前から定期的に意見交換を続けていたんです。包括連携協定により、これまでに使用済乾電池の回収や「鳴門市情報案内ステッカー」のポストへの貼付など、さまざまな取り組みを行ってきました。鳴門まちなか絵本図書館もその一つです。

――取り組みを開始するにあたって、絵本の準備はどのようにされましたか。
村越:どの絵本を置くのかは、各郵便局で決めているんですが、最初は鳴門市から譲渡された図書カードを持って、地元の書店に行きました。

村越:店員の方に相談に乗っていただき、鳴門市にあるお寺を題材にしたものや、徳島県出身の絵本作家さんの作品など、地元になじみのある絵本を中心に選びました。
米原:私が勤務する郵便局でも、本屋さんに相談に行きました。飛び出す細工がしてあるものや簡単に破けないように工夫されているものなど、新しい発見があって、絵本選びは楽しかったですね。
藤森:この取り組みはお子さまへの教育が目的でもありますが、郵便局には幅広い年代のお客さまがいらっしゃるので、0歳児から大人まで、誰が読んでも面白いと思っていただけるものをそろえるよう心がけました。

鳴門市の担当者である北池さんにもお話を伺いました。

鳴門市 教育委員会 総合教育人権課 主事
北池 嘉規(きたいけ よしき)さん
――鳴門市が「絵本のまち」を目指している理由を教えてください。
北池:店舗や公共施設などの市内のさまざまな場所に、誰もが自由に見ることのできる絵本や児童書を置くことで、幼少期から気軽に絵本に触れられる機会・環境の創出を目指しています。それは、子どもの読書が、表現力や想像力などの豊かな心を育むと同時に、論理的な思考力や、主体的に学ぶ力の向上にもつながり、幼少期から本に親しむ環境づくりが特に大切であると考えているからです。
――郵便局で鳴門まちなか絵本図書館を実施することの意義を教えてください。
北池:郵便局は誰もが利用できる、地域の身近な存在です。郵便局利用者のサービス向上にとどまらず、事業自体を広く市民の皆さんに知っていただくことや、協力店舗の拡大などにもつながると感じています。
――郵便局の魅力やリソースの強みを、どのような点に感じますか。
北池:郵便局は、高齢者・障害者支援や防災・災害対策などでも連携いただいており、市民の生活に欠かせない存在です。また、町中で見かける真っ赤な二輪車などには親しみを感じますし、切手や年賀状など、生活のなかで身近に感じるキーワードがたくさんあります。鳴門まちなか絵本図書館では、そのような郵便局の持つ魅力的な側面が、子どもの読書活動や絵本を通した親子のコミュニケーションなどの環境づくりに大いに活かせると感じており、今後も「絵本のまち なると」の実現に向けて共に取り組んでいきたいです。
絵本をきっかけにお客さまと会話が生まれる!
――鳴門まちなか絵本図書館が始まってから3年以上が経ちましたが、内容に変化はありますか。
村越:取り組み開始から1年ほど経ったときに、絵本を貸し出しできるようにしました。1回につき1人5冊までで、貸し出し期間は2週間です。借りる方には、貸し出しカードに名前と電話番号を書いていただくようにしています。これは郵便局独自の取り組みで、誰でもわかりやすい簡単なルールで始めました。

――絵本の品ぞろえも当初より増えているようですね。
村越:当初は1局につき数冊でしたが、今では20~30冊ほどにまで増えました。取り組みに賛同いただいた絵本作家さんからご提供いただいたり、鳴門市の募集により集まった市民の皆さんからの絵本や児童書をいただいたり。閉園になった保育園などから寄付されたものもあります。ありがたいですね。

――たくさんの絵本が楽しめるようになり、 お客さまの反応はいかがですか。
米原:長い期間ずっと絵本を借り続けてくれているお子さまもいて、絵本が郵便局に足を運ぶきっかけになっていると感じています。借りた当初はまだ字が書けなかったお子さまが、最近は貸し出しカードのコメント欄に借りた絵本の感想を書いてくれるようになって、お子さまの成長も感じられてうれしいです。
貸し出した絵本が返ってこないことはありませんし、お客さまと郵便局はお互いに顔が見える信頼関係があるからこそ、この取り組みが続いているのかなと思います。

藤森:年配のお客さまが「懐かしい」と言いながら絵本を見ることもあって、予想外のうれしいことでした。絵本をきっかけにお客さまとの会話も広がっています。

村越:郵便局独自の取り組みとして、そういった方に向けて小説を置くのもいいかもしれませんね。読んでいる途中のページに付ける"付箋キープ"を導入したら、郵便局に足を運ぶたびに楽しんでもらえそうです。

アップデートしながら取り組みを継続。なくてはならない存在に
――取り組みの内容を改善したことはありますか。
村越:「新しい絵本が読みたい」という声をお客さまからいただいたことをきっかけに、近隣の郵便局と絵本を交換し合って、入れ替えを行っています。お客さまが飽きずに郵便局で絵本と触れ合う時間を楽しめるよう、これからも工夫していこうと思います。

――最後に、郵便局は地域の皆さんにとってどんな存在でありたいですか。
藤森:お客さまに「郵便局がなくなったら困るけん」とおっしゃっていただくことも多く、ありがたく思っています。これからもお客さまの生活に欠かせない相談窓口として、幅広くお役に立てる存在でありたいと思います。
米原:郵便局は地域の皆さんの交流の場にもなっていますし、郵便局に足を運んでいただくことで、ある種の見守りの役目も果たしていると思います。これからも地域の皆さんにとって、なくてはならない存在でありたいですね。

村越:お客さまとの距離感が近いところが郵便局の強みだと思います。そういったところが鳴門まちなか絵本図書館の取り組みともマッチしたのだと思います。"距離感と温かみ"という特性を活かして、これからも地域のお客さまのために必要な存在であり続けたいと思います。


