みらいの郵便局、始動!Vol.6 新たな社会インフラを目指す、「デジタルアドレス」誕生の舞台裏

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「住所を、もっと便利に」をコンセプトに、日本郵便株式会社が2025年5月26日に「デジタルアドレス」をリリース。住所に大きな変革をもたらすデジタルアドレスは、私たちの暮らしのなかでどのような役割を果たすのか、発案者とプロジェクト担当者にお話を伺いました。

日本郵便株式会社 DX戦略部 担当部長
株式会社JPデジタル ジェネラルマネジャー
西郷 佐知子(さいごう さちこ)さん
2021年に楽天グループ株式会社から株式会社JPデジタルへ出向し、現職。デジタルアドレス施策の事業責任者を務める。

日本郵便株式会社 DX戦略部 主任
株式会社JPデジタル リーダー
久保 廣菜(くぼ ひろな)さん
2017年、株式会社ゆうちょ銀行に入社。2022年から株式会社JPデジタルへ出向し、現職。デジタルアドレス施策では事業部門を担当するとともに開発のスクラムマスターを務める。

日本郵便株式会社 DX戦略部
株式会社JPデジタル
菊池 昌太郎(きくち しょうたろう)さん
2023年、日本郵便株式会社に入社。郵便局での勤務を経て、2024年より現職。デジタルアドレス施策では事業部門を担当。
「住所」に革命が起きる!? デジタルアドレスとは
――まず、デジタルアドレスとは何か、その概要を教えてください。
菊池:住所を7桁の英数字で表現する、新しいサービスです。仕組みとしては、日本郵政が提供する「ゆうID」(※)に登録した住所が7桁の英数字に変換されます。住所は長かったり漢字が多かったりと煩雑になりがちですが、7桁の英数字で表すことで住所の記入などの負担を軽減することができます。
※日本郵便が提供していたが、グループ各社の連携強化を図り、さらなる利便性向上を目指すため、2025年7月1日からグループ持株会社である日本郵政に事業移管された。

――デジタルアドレスで具体的にどんなことができるようになりますか。
久保:Webサイトでの会員登録や、ECサイトでの配送先登録時にデジタルアドレスを入力することで、「ゆうID」に登録した住所情報が自動で反映されます。
長い住所を入力する手間が省けますし、入力ミスの防止にもつながります。取り扱い先も順次拡大しており、さまざまな住所入力の場面で利用ができます。

――それは便利ですね。デジタルアドレスは引越しをしても使い続けられますか。
西郷:はい、そのまま使えます。デジタルアドレスに紐づく住所を引越し先の新住所に変更すれば、同じデジタルアドレスを使うことができます。また、よく誤解されますが、住所に対してデジタルアドレスを発行しているわけではありません。例えば、3人家族で同じ家に住んでいる場合、住所は3人とも同じですが、デジタルアドレスは3人各々に発行されます。

――デジタルアドレスと並行して、郵便番号を使用している事業者に向けてAPI(※1)の提供も始まりました。こちらの概要も教えてください。
久保:正式名称は「郵便番号・デジタルアドレスAPI」(※2)です。郵便番号またはデジタルアドレスから住所情報を取得できる日本郵便公式のAPIです。また、APIの実装が難しい事業者向けには、デジタルアドレスから住所を検索する機能を提供しています。事業規模を問わず、無料でご利用いただけます。
※1 Application Programming Interfaceの略。ソフトウェアやアプリ同士をつなぐための仕組み
※2 「郵便番号・デジタルアドレスAPI」の詳細は、こちら
――事業者にとって、どんなメリットがありますか。
菊池:事業者がユーザーの住所をビジネスに活用しているケースは多々ありますが、登録された住所が誤っていたり、転居後に更新をせず旧住所のままだったりと、事業者側だけでデータの正確性を保つことは困難です。「郵便番号・デジタルアドレスAPI」を導入することにより、ユーザーの確実な情報を取得でき、さらには住所表記をメンテナンスする手間が省け、データを正確に活用できるようになることが大きなメリットです。
デジタルアドレスの発案は日常の素朴な疑問から
――デジタルアドレスの構想が生まれた背景を教えてください。
久保:「ゆうID」を使って何かできないかと社内でディスカッションをしているときに、西郷さんから「住所って何かと面倒」という発言があったのがきっかけでした。
西郷:子どもが予防接種を受けるとき、何度も書類に住所を書くことに煩わしさを感じていました。ほかにも引越しの際の住所変更など、日常で住所を書いたり入力したりすることがあり、「住所ってDXされていない」と思ったんです。住所情報を活用した新たなサービスを生み出すことで、生活者の利便性向上につながるのでは、という発想がきっかけになっています。

――ユーザー目線で不便に感じていたことが、構想の種になっているのですね。
菊池:細かいことですが、一つの住所でも手書きや手入力だと表記揺れが起こりやすいんです。数字であれば全角、半角の混同や、建物名や部屋番号が抜けてしまうといったものもあります。正確な住所に変換されるデジタルアドレスがあれば、このような課題を解決できるわけです。

――構想開始からリリースに至るまでの経緯をお聞かせください。
久保:2021年12月に構想が始まり、社内向けテストアプリをリリースするまでに2年半近くかかりました。テストアプリのフィードバックで改善を重ね、2024年11月に郵便局アプリのユーザー向けに体験版をリリースしています。次第にデジタルアドレスに携わりたいという仲間が増えていき、2025年5月に正式版として、郵便局アプリ内とWebブラウザ版の2つをリリースしました。
――開発を進めるにあたって社内での調整はスムーズにいきましたか。
久保:前例のないものを世に出すことに対し、社内の理解を得ることが大変でした。サービスの内容を丁寧に説明し、理解者を増やしていき、社長からリリースの許可をいただけたときは本当にうれしかったです。「デジタルアドレス」という名称に決まるまで2カ月かかったことも今ではよい思い出です。


未来を拓くデジタルアドレスの新たな可能性
――デジタルアドレスをリリースしてからの反響はいかがでしたか。
久保:大事に育ててきたサービスが新聞やテレビのニュースなど、さまざまなメディアで取り上げられて、それがSNSでも広がっていき、世間の期待感が伝わってきました。同時に、住所に対しての課題感に確信が持てて、ようやくスタートラインに立てたなと感じています。
菊池:自分たちがよいものだと確信を持って開発してきたデジタルアドレスを多くの人たちに知ってもらえて、一つの大きな山を越えたと感じています。皆さんに見てもらえて、すごく達成感がありました。

西郷:日本郵政グループ各社の人たちが喜んでくれたのがうれしかったですね。各報道を受けて「世の中の期待感の表れだから、日本郵便のビジネスの柱として大事にしていこう」という言葉ももらいました。

郵便局アプリの開発の裏側はこちら!
――今後、予定している拡張機能やサービスはありますか。
西郷:今は個人向けのデジタルアドレスの提供が始まったところですが、法人向けも予定しています。日本各地の法人の支社や事業所の住所のほかに、キャンペーンの応募先の住所、ECサイトの返品先の住所などでデジタルアドレスを活用してもらえればと考えています。
――デジタルアドレスが普及することで、どのような"うれしい変化"が起きると思いますか。
西郷:"正規化された住所"が世の中に巡るようになるはずです。例えば、日本郵便の本社所在地は、正式な表記では「東京都千代田区大手町 二丁目3番1号」です。これを「東京都千代田区大手町2-3-1」と書く方も多いと思います。こうした表記揺れがデジタルアドレスによって7桁の英数字に変換されることで、裏でつながっている住所が正規化されます。これをデジタル庁の「アドレス・ベース・レジストリ」につなぐ予定です。
久保:デジタルアドレスは、アルファベットと数字という世界共通の文字を使うことで、観光業にも貢献できるのではと考えています。訪日観光客がタクシーで観光地へ向かうとき、日本語が不慣れであっても目的地のデジタルアドレスをカーナビに入力すれば迷うことなく移動できるということが将来的に実現できる可能性もあります。

――デジタルアドレスを活用した将来的なビジョンをお聞かせください。
西郷:電話がチャットに、現金は電子決済に、そして住所はデジタルアドレスに、という関係性だと捉えています。どれもDXによって付加価値が付くということです。住所はずっと必要なものであると同時に、旧態依然のままです。その住所がDXされ、国や人種を超えて扱いが簡単になる。最後のDXと言っていいくらい万能なものだと思っています。日本郵便の新たな事業の柱となり、大きく貢献できる新しいビジネスとして成長させていきたいです。

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