私のオンとオフ スイッチインタビュー アーチェリー歴10年目で世界へ! 患者さん目線を忘れない診療放射線技師が開く夢の扉

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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回話を聞いたのは、東京逓信病院に勤務する西岡 尚美(にしおか なおみ)さん。常に患者さん目線を忘れず職務を遂行する西岡さんは2024年、フィールドアーチェリー日本代表として世界大会へ出場を果たしました。その活躍の様子とオンとオフの意外な共通点に迫ります。
東京逓信病院 診療放射線技師
西岡 尚美(にしおか なおみ)さん
2002年、東京逓信病院に入職。診療放射線技師としてさまざまな実務を重ね、放射線治療に約10年間従事。その後はCTや血管造影検査にも携わり、2022年より再び放射線治療を担当している。
適切な距離感で治療をフォローアップ
――診療放射線技師になろうと思ったきっかけについて教えてください。
西岡: 高校卒業後の進路を考えていたとき、文系教科がすごく苦手だったので理系に進もうとしていたのですが、母から「医療系の道を考えてみるのもいいのでは?」と勧められたことがきっかけです。小学校から高校までバスケットボールをやっていたので、整形外科にかかる機会やレントゲン写真を見ることも多く、骨にも興味があったんですよね。医師になることはハードルが高い気がしていましたが、診療放射線技師という職があることを知り、目指してみようと思いました。
――放射線科、診療放射線技師の業務について教えてください。
西岡:放射線科は画像診断部門と放射線治療部門があり、診療放射線技師はそれらのほぼすべてに携わります。検査は各科の医師から指示を受けて実施し、治療では、放射線治療医が立てた治療プランを装置に入力し、実際に患者さんへ放射線を照射するところを診療放射線技師が担当します。
――スタッフとのコミュニケーションで心がけていることはありますか。
西岡:放射線科には約30名の診療放射線技師が所属しています。一般撮影、CT、MRI、超音波、放射線治療......といった装置によって部門が分かれているので、実務がスムーズに行えるよう、部門の垣根を越えて常に丁寧なコミュニケーションを図っています。浅香(あさか)技師長を筆頭に放射線科全体が非常に明るい雰囲気なので、気兼ねなく相談などもしやすい環境です。
――では、患者さんとのコミュニケーションではいかがですか。
西岡:接する際に、患者さんに不安感を抱かせないよう堅苦しくならず、かといってなれなれしくなりすぎないように心がけています。
放射線治療というのは連日通っていただく治療で、数日で終わる場合もありますが、長くかかる場合は2カ月近くに及ぶこともあります。治療や検査はどうしても緊張してしまうものですが、毎日顔を合わせていくことで患者さんの緊張が少しずつ和らいでいき、会話が増えていったり、顔や名前を覚えてくださってお声をかけていただけたりするときは、やはりうれしいです。
――仕事における信念があれば教えてください。
西岡:患者さんのペースに合わせることは常に意識しています。足が不自由な患者さんなどは「遅くてごめんね」と恐縮されることがありますが、ゆっくりでいいことをお伝えして見守ります。「目の前の患者さんを大切に考えて対応すること」を大事にしています。
30代後半から始めても"世界で戦う"のは遅くない!

――アーチェリーを始めたきっかけを教えてください。
西岡:たまたまテレビでアーチェリー姿の方を見て「かっこいい」と思ったことがきっかけでした。実は、スタートはとても遅くて、30代後半に入ってからなんです。テレビで見かけて興味は持ったものの、始め方がわからないまま何年か経ってしまって。その後、地元のアーチェリー協会が初心者講習を開催していることを知るのですが、それもタイミングが合わず......。そこから3年が経ち、ようやく初心者講習を受講して、アーチェリーを始めました。ですので、アーチェリー歴は今年(※)で10年目なんです。
※2024年取材当時、以降同じ
――満を持してのスタートだったのですね。フィールドアーチェリーとはどのような競技なのでしょうか。
西岡:皆さんがよく目にされている、世界的なスポーツイベントで正式種目となっているのは「ターゲットアーチェリー」と呼ばれるもので、平地に設置された一定の距離の的を狙って弓を射つ競技です。一方、「フィールドアーチェリー」は山のなかや草原など自然の地形を活かしたところに設置された距離が異なる12の的を、ゴルフのように複数回まわって競技します。的の高さは自分の立っている位置とは異なることが多く、上や下に角度をつけて弓を射つことになります。地形や天候の影響を受けやすいのも特徴的です。

――さまざまな条件が絡み合い、一筋縄ではいかなさそうですが、アーチェリー競技者に必要な資質はありますか。
西岡:まずは「集中力」ですね。フィールドアーチェリーでは1つの的に対して3射しかできないため、その瞬間の集中力が重要です。
あとは「再現性」で、これがとても大切です。いわゆるトップ選手の場合、6回射った動画を重ね合わせると弓を射つ動作がほぼ一致します。私はまだ弓を射つ動作がバラバラなので、いい感覚をつかめるようにとにかく射つしかない、練習あるのみです。
――不規則な勤務形態だと思いますが、普段の練習はどうされているのですか。
西岡:アーチェリー場が併設された都立公園があるので、休みの日はそこで練習することが多いですね。平日は21時ごろまで開いているスポーツセンターに通っています。
練習の頻度としては平均すると週に2〜3日、多いときは週5日ですね。ただ、平日は2時間くらいしか練習時間を確保できないので、「なんだか弓が引きづらくなってきた」と感じたら、家で弓の代わりにゴムチューブを引いて感覚を養うような軽いトレーニングも行っています。
――大会前は普段の練習と異なるのですか。
西岡:そうですね。例えば、全日本大会などの大きな大会の前などは、自然のなかでの競技感覚を取り戻すために、関東近郊にいくつかあるフィールドアーチェリー場に行って実戦練習を行うこともあります。
――国際大会へ出場する「日本代表」はどのように選出されるのですか。
西岡:毎年春に行われる全日本フィールドアーチェリー選手権大会で、世界選手権の開催年(隔年)のみ選手選考会が併催されるのですが、そのなかの予選ラウンドで「選考基準点」を超え、かつ1位になった人が選出されます。弓の種類別に3部門あり(ベアボウ/リカーブ/コンパウンド)、それぞれ男女別最大6名が選出されます。

――西岡さんは「第28回世界フィールドアーチェリー選手権大会」の女子リカーブ部門で日本代表に選出されましたが、その時の気持ちをお聞かせください。
西岡:まさか自分が世界選手権に出られるとは思っていませんでしたし、うれしさよりも驚きのほうが強かったです。喜びを感じたのはずっと後になってからでした。
――出場された大会の概要と、大会中のエピソードをお聞かせください。
西岡:2024年9月16日〜22日にカナダで開催され、女子リカーブ部門は15カ国・27名の選手が出場しました。スウェーデンやニュージーランドの選手といっしょにコースを回ったのですが、世界選手権に何度も出場経験がある方がいて、英語が話せない私にもたくさん話しかけてくれて楽しく過ごせました。とても広大で自然豊かなコースで、途中、リスが木に登っていくのが見えたりもして、気持ちがよかったですね。
ただ、極度の緊張から、普段なら絶対しないようなミスをして点数を落としてしまったのは非常に悔しかったです。



――大会を終えて、率直なお気持ちはいかがですか。
西岡:世界選手権では、アンマークコースと呼ばれる、的までの距離が明かされずに自分で推測して的を射つコースがあります。的までの距離の読み間違いはどうしても起きてしまうものですが、世界各国の上位選手たちは本当にすごい技術を持っていて、1射目でもし違っていたとしても2射目・3射目では距離感を修正し、高得点である的の中心部分に的中させていました。高度な技術を目の当たりにして、私はまだまだ実力不足だと痛感しましたが、高いレベルを肌で感じることができたことはすばらしい経験でした。
アーチェリーで培われた集中力が、業務にメリハリを導く
――仕事と競技活動を両立するうえで意識していることをお聞かせください。
西岡:どちらも完全に忘れることはできないものですが、「切り替え」でしょうか。仕事をしているときはアーチェリーを忘れる、アーチェリーをしているときは仕事を忘れる。そうすることで気分転換にもなり、両立できているのかなと思います。
――練習時間を捻出するために工夫していることはありますか。
西岡:移動時間を少しでも短縮するために弓を持って出勤し、職場から直接練習に出向くこともあります。私が競技で使っているリカーブは組み立て式の弓なので、登山用リュックくらいの大きなバッグに入れて持ち運ぶことができます。ただ、重さは10 kg以上になるので、これもトレーニングですね(笑)。
――アーチェリー競技者であることが、仕事に活かされている部分、相乗効果を感じる部分などはありますか。
西岡:やはり集中力でしょうか。もともと集中力はそれほどないのですが、アーチェリーをするようになって一瞬一瞬の集中力はついたかもしれません。
日々の努力を惜しまず、楽しみながら再び世界を目指したい
――診療放射線技師とアーチェリー競技者、それぞれ目標や夢を教えてください。
西岡:医療分野は日々進歩しており、機器もどんどん更新されていくため、私たち診療放射線技師も勉強を重ねていかなければなりません。 現在の質を落とすことなく、患者さんファーストで仕事していきたいですね。
競技者としては、フィールドとターゲットの両方の競技を今後も続けていきたいと思っていますが、やはりフィールドアーチェリーで再び日本一を目指し、もう一度世界選手権に出場したいですね。
――仕事とプライベートの両立を目指している方へ、メッセージをお願いします。
西岡:仕事も趣味も、楽しむことが一番です。自分もそうなのですが、詰めすぎると疲れてしまい、いいパフォーマンスが出せなかったりすることもあります。そういうときは何も考えずのんびり過ごすのも、両立していくためには必要なことではないかと思います。


[東京逓信病院]
東京都千代田区富士見2-14-23
代表電話番号 03-5214-7111
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