ローカル共創のススメVol.8 「環境に配慮した栽培×食品ロス削減×新幹線×ゆうパック」!? サプライチェーンの新しいカタチ

ローカル共創のススメVol.8 「環境に配慮した栽培×食品ロス削減×新幹線×ゆうパック」!? サプライチェーンの新しいカタチ

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「地域(ローカル)」をフィールドとしたプロジェクト、「ローカル共創イニシアティブ」※で各地に赴任している社員を紹介する本企画。
第8回は、2023年4月から株式会社陽と人(ひとびと)に出向し、福島県北地域で活動する藤原 勇紀(ふじわら ゆうき)さんを取材。陽と人の代表取締役を務める小林 味愛(こばやし みあい)さんをはじめ、藤原さんの取り組みとかかわりが深い、桃農家の渋谷 憲道(しぶや のりみち)さんと国見郵便局 局長 木賀 順一(きが じゅんいち)さんにもお話を伺いました。

※公募により選出された日本郵政グループの若手・中堅社員を、社会課題に先行して取り組む地域のベンチャー企業や地方自治体に2年間派遣することにより、新規ビジネスなどを創出することを目指すプロジェクト

藤原 勇紀(ふじわら ゆうき)さん

日本郵政株式会社 事業共創部

藤原 勇紀(ふじわら ゆうき)さん

2009年、郵便事業株式会社(当時)に入社。地元・岩手県内の郵便局や東北支社での勤務を経て、2021年から本社の郵便・物流業務統括部に配属。2023年4月、事業共創部への異動と同時に株式会社陽と人へ出向。

小林 味愛(こばやし みあい)さん

株式会社陽と人 代表取締役

小林 味愛(こばやし みあい)さん

東京都立川市生まれ。大学卒業後に衆議院調査局入局、経済産業省へ出向。その後、株式会社日本総合研究所へ入社し、全国各地で地域活性化事業に携わる。2017年8月、福島県国見町にて株式会社陽と人を設立。子育てをしながら、福島県と東京都の2拠点居住生活を送る。

縁のある東北の地で、大好きな農業に携わるチャンスをつかむ

――まず、藤原さんが「ローカル共創イニシアティブ」に応募された動機を教えてください。

藤原:これまでずっと目の前の仕事をこなすことだけに一所懸命になっていて、自分のキャリアを考えたときに「このままでいいのかな」と漠然と思っていたんです。そんなときにローカル共創イニシアティブの2期生の公募を知り、自分を変えるチャンスだ、と思いきって応募しました。

――出向先として福島県の陽と人を選んだのはどうしてですか。

藤原:私は出身も採用された郵便局も岩手県なのですが、地元の郵便局や東北支社で働いていたときに、東北の人の温かさに触れてとても幸せな気分になった経験があったので、またいつか東北で仕事をしたいと思っていました。

――出向先である陽と人の活動に共感することはありましたか。

藤原:はい。私の祖父母がリンゴ農家をやっていて、子どものころに手伝いをしていましたし、土に触れたり虫を探したりすることがそもそも大好きなんです。陽と人は、農業の課題にフォーカスした事業を展開していて、これは巡り合わせだなと感じました。

土に触れることが大好きと語る藤原さん。環境負荷の軽減にこだわった農地の土中からは、ミミズが現れることも

――小林さんが代表を務める陽と人の業務内容について教えてください。

小林:端的に言うと、地域の困りごとを解決している会社です。なかでも拠点とする国見町における農業の課題と、地域を問わず女性に関する課題にフォーカスしています。国見町では、規格外品を含めた桃や柿といった果樹を流通させることをはじめとして、新しい物流と商流を作っています。

国見町の特産品・あんぽ柿の製造過程で剥かれる柿の皮を使用した、オーガニックスキンケアコスメの製品化を実現

生産者の高齢化や跡継ぎ不足が課題。一人ひとりが考えることが第一歩に

――陽と人が取り組む、福島県北地域の抱える課題について教えてください。

藤原:やはり基幹産業である農業にかかわる課題が多く、なかでも高齢化と跡継ぎの不足が深刻だと考えています。東京にいたときも高齢化や跡継ぎ不足はニュースなどで見聞きしていましたが、現場に来るとそれをリアルに感じます。まずは、一人ひとりが課題について真剣に考えることが、解決のための最初の一歩かなと思っています。

――そんな課題を抱える福島県北地域を拠点とする陽と人で、藤原さんはどういった業務に携わっていますか。

藤原:桃の時期は、陽と人とお付き合いのある桃農家さんの畑に行き、3カ月間ほど作業のお手伝いをしました。毎朝5時から桃の実を落とす摘果作業や袋掛けなどを経験して、果樹を育てるのは本当に大変だなと実感しました。毎日へろへろです(笑)。

小林:藤原くんが赴任してすぐ、"修行"として本格的な作業を経験してもらったんです。藤原くんは体力もあるし、作業が早いので、今では桃農家さんにすっかり頼りにされています。

淡いピンク色の花を咲かせる桃の木。これから夏の収穫期にかけて、忙しい日々が始まります

藤原:軽トラックで農家さんの家に桃を集荷する仕事では、郵便局に勤務していたときの配達経験が活かされていると思います。時間との勝負なので、どのルートを使えば効率的なのかを考えたりする時間が楽しいですね。桃の時期以外では、お米の栽培などもしていて、田んぼでのトラクター運転も今ではお手の物ですよ(笑)。さらに、陽と人と日本郵政グループとの協業による農業サプライチェーンプロジェクトがスタート目前(2024年6月10日から関東地域の一部の郵便局でチラシ受付開始※)で、さまざまな調整で忙しく過ごしています。

陽と人のオフィスにて、新プロジェクトに使用する桃の梱包材をチェック。和やかな雰囲気が漂っています

※チラシは埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県および山梨県内の一部の郵便局で取り扱っています。また、本商品のお届けは、関東地域(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県および山梨県)に限ります。

環境に配慮した農業サプライチェーンプロジェクトとは

――藤原さんが陽と人に出向してからの成果の一つである「将来的な環境負荷軽減を目指した"責任ある"農業サプライチェーンプロジェクト(farm to table)」の概要を教えてください。

藤原:これは簡単に言うと、桃が生産地から消費者の手に届くまで"環境負荷の軽減に一貫"したサプライチェーンの構築を目指す取り組みです。陽と人と日本郵政グループとで対話を重ねながら形にしました。商材は、特別なこだわりをもって育てられている「福島県産桃 桃源の極み」と、規格外品の「福島県産 訳あり桃」の2種類の桃です。

小林:「福島県産桃 桃源の極み」は、農薬や化学肥料、除草剤などを減らし環境負荷を軽減して生産している特別な桃で、農林水産省が実施している「農産物の環境負荷低減の見える化」の取り組みで、★3つを取得した桃なんです。そして「福島県産 訳あり桃」は、見た目は個性的ですがおいしさは変わらない、食品ロスの削減と環境負荷の軽減につながる商品です。これらの桃を消費者の手元へ届けるところにまで、環境負荷の軽減にアプローチができないか考えたんです。そこで、福島から東京への輸送は、より環境負荷が抑えられる新幹線に輸送手段を代替するモーダルシフトに着目しました。

生産地から輸送、そして消費者のもとへ。環境負荷の軽減に一貫したサプライチェーンで届ける、おいしくて新しい第一歩の取り組みです

小林:このプロジェクトでは、日本郵政グループと協業することで、私たちができる"いいこと"を最大化したいという想いがあります。生産や発送手続きは陽と人が、福島駅から東京駅までの新幹線での輸送はJR東日本グループが、そして、福島駅までの運搬と東京駅に着いた桃をお客さまにお届けするところは日本郵便が受け持つ。業種も業界も異なりますが、みんなの"できること"をつなげていきたいですね。

――新幹線に桃を積み込むまでの流れを、具体的に教えてください。

藤原:陽と人が桃を梱包し、ゆうパックとして国見郵便局に持ち込んだあと、福島東郵便局へ既定の運送便で輸送され、福島東郵便局はトライアルとして軽四車両を用いて福島駅へ運びます。収穫時期前で桃が手に入らない今は、リンゴのゆうパックを東京駅まで輸送するトライアルをしています。

――新幹線の車内では、ゆうパックはどこに保管されるのでしょうか。

藤原:車内販売準備室として利用されていたスペースを活用しています。さらに、郵便局の輸送容器を用いて輸送することで、新幹線への積み込み作業時間の効率化と利用しやすい送料を実現しています。

車内販売が終了したことで空きスペースとなっていた車内販売準備室を有効活用(写真提供:JR東日本)

――新しいチャレンジが詰まったプロジェクトですね!

藤原:そうなんです! このプロジェクトのポイントは、イベントとして一過性のものにすることなく、いかに"持続可能な形"で実装できるかだと考えています。地球温暖化の影響により栽培環境が悪化したり、果樹への高温障害が起きたりしている地域もあります。このプロジェクトに共感していただける消費者を少しずつ増やしながら、地域の特産品を守り続けるための第一歩になれるようなプロジェクトにしたいと思っています。

「福島県産桃 桃源の極み」を生産し、このプロジェクトに桃を提供している地元の桃農家・渋谷 憲道(しぶや のりみち)さんと、国見郵便局 局長の木賀 順一(きが じゅんいち)さんにもお話を伺いました。

桃農家
渋谷 憲道(しぶや のりみち)さん

渋谷 憲道(しぶや のりみち)さん

土壌や栽培方法にこだわって栽培をしても、一般的な流通では、普通の栽培方法で育てた桃と同じ等級に分けられてしまいます。陽と人さんは、私の桃に対するこだわりをしっかりと理解してくれていて、ブランディングを含めて、桃を食べる人までつないでくれるので、日ごろの努力が報われてうれしいです。このプロジェクトに期待しています。

国見郵便局 局長
木賀 順一(きが じゅんいち)さん

木賀 順一(きが じゅんいち)さん

2024年の3月下旬から週に1回、トライアルでリンゴを新幹線で運んでいて、その拠点として国見郵便局がプロジェクトに協力しています。これから新幹線などの環境負荷の少ない輸送が必要とされていくと思います。そういう意味でも今回のプロジェクトには期待感が大きいですし、できる限りの協力をして成功させたいという想いがあります。郵便局でもプロジェクトを積極的にPRして、国見町を盛り上げていきたいですね。

福島県産の桃を皮切りに、日本各地での横展開を目指す!

――生産の現場にも入って活動する藤原さんが、やりがいを感じるのはどんなときですか。

藤原:毎日が貴重な経験なのですが、特に果樹の栽培は手作業でとことん手をかけるからこそ、その一つひとつが我が子のように思えて、おいしく大きく育ってほしいと感じるようになりました。桃を食べた方から「おいしい」と言われると、報われた気持ちになります。

――陽と人への藤原さんの出向は残り1年ですが、それまでに小林さんが藤原さんといっしょにやりたいことはありますか。

小林:長期的には、郵便局の社員の方と連携し、例えば果樹の生産に関する部分などでも、農家の方じゃなくてもできる業務で農家さんをサポートするなど、地域での人材の交流に取り組めればと思っています。

――今後、プロジェクトをどのように成長させていきたいですか。

藤原:まずは、今回の桃でプロジェクトの実現可能性を検証したうえで、青森県のリンゴであったり山形県のサクランボであったりと、日本各地の名産品で着実に実績を積み重ね、じわりじわりとインパクトを広げられたらいいなと思っています。

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