私のオンとオフ スイッチインタビュー 郵便局長は映画監督、お客さまとのふれあいが珠玉の物語が生まれるヒントに

私のオンとオフ スイッチインタビュー 郵便局長は映画監督、お客さまとのふれあいが珠玉の物語が生まれるヒントに

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約24,000ある郵便局をはじめ、全国で働く日本郵政グループの社員。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回、お話を聞いたのは、東京の本駒込郵便局 局長の石出 裕輔(いしで ゆうすけ)さんです。郵便局に入社する以前より、映画監督としての活動をライフワークとされている石出さん。その活躍の様子とオンとオフの共通点に迫ります。

石出 裕輔(いしで ゆうすけ)さん

本駒込郵便局 局長

石出 裕輔(いしで ゆうすけ)さん

2010年、郵便局株式会社(当時)に入社。郵便局で保険の渉外業務や窓口業務を経験した後、2019年より現職。

※海外26カ国の46の国際映画祭で公式セレクションに選出され、49の賞を受賞(2024年1月現在)

郵便局を誰もがほっとできる空間やサービスを提供できる場所に

――石出さんが局長を務められている本駒込郵便局の特徴を教えてください。

石出:まず本駒込という街が、非常にお寺の多いエリアなんです。例えば、本駒込駅から当局に来られる道沿いに大きな門のある「吉祥寺」というお寺は昔、お坊さんの学校でもありました。その教育機関が後に分離してできたのが、現在の「駒澤大学」です。

また、エリアによって雰囲気が変わってきます。南に位置する湯島や御茶ノ水は人が多く、にぎわいがありますが、当局がある本駒込周辺は閑静な住宅街です。来局いただく方も、この地域に長く住まわれているお客さまが多いですね。

――郵便局長として働くうえで意識していることはありますか。

石出:昔からの常連さんも、新しく地域に引っ越されてきた方も、誰もがほっとできるような空間やサービスを実現したいと思っています。例えば、ちょっとしたことかもしれませんが、お客さまの手の届きやすいようにモノを配置したり、お子さんのために絵本を用意したり、飾りつけに職員みんなで取り組んでいます。

映画制作にのめり込んだ学生時代。生活基盤を支えるため郵便局へ就職

――郵便局で働きながら、映画監督をされているという異色の経歴をお持ちの石出さんですが、もともと映画を撮りたいと思ったきっかけは何だったんですか。

石出:子どものころから映画が好きで、中学生のときには地元の稲毛(千葉県)から、映画を観るためにわざわざ銀座まで出てくるくらい、のめり込んでいました。映画作りをするようになったのは、大学で映画サークルに入ったのがきっかけです。監督もしましたが、私にはカメラで撮影をする方が面白かったですね。当時はまだデジタルよりもフィルムが主流で、友だちの下宿で寝泊まりしながらフィルムの編集をしたのは、いい思い出ですね。

石出さん愛用のカメラとレンズ

――本格的に映画を撮影されるようになったのは、大学を卒業してからですか。

石出:そうですね。郵便局に入るまでは、アルバイトや契約社員をして、お金が貯まったら制作費に注ぎ込むという、自転車操業みたいなことをしていました。毎回、映画を撮るたびにお金がなくなって、「これからどうしよう、お先真っ暗だ」みたいな感じで(笑)。ただ30歳ごろから、映画を観てくれた方から単発で撮影の仕事を頼まれるようになって、そこでいろいろと修行させてもらいましたね。

――郵便局に就職されたのは、どんなタイミングだったのでしょうか。

石出:郵便局で非正規社員として働いていたときに、正社員募集があるよと誘ってもらったことがきっかけです。制作費を稼ぎながら、仕事の合間に映画を撮ろうという目論見だったのですが、入社したら最初は思った以上に覚えなきゃいけないことも多く忙しくて、その目論見は外れました(笑)。数年が経ち、落ち着いてきたタイミングで、いよいよ映画を再開しようということで作ったのが、最新作の『風呂屋の御主人』(2022)でした。

郵便局仲間を主役にした作品が海外の映画賞を受賞! 映画作りのインスピレーションは場所と空間から

――銭湯を舞台にした映画ということですが、作品の着想はどこから得たのですか。

石出:仕事をお手伝いしたことのある映画の脚本家さんが、親から継いだ銭湯の経営をしながら映画の脚本を書いているというユニークな方だったんです。しかも、その銭湯を撮影場所として無料でお借りできるというお話だったので、空間も魅力的だし、制作費も浮くし、脚本家もいるので、ここで映画を撮ろうと決めたんです。じゃあ銭湯を舞台にどんな作品にしようか。そう考え始めたとき、私が白羽の矢を立てたのが職場の仲間でした。ちょうどそのころ、私は郵便局の窓口で保険業務のリーダーをしていたのですが、同じリーダーとして働いていた稲毛 弘隆(いなげ ひろたか)さんという方が、風呂屋のイメージにピッタリだったんです。職場のムードメーカー的存在で楽しい方でしたし、「映画に出てみませんか?」と思いきってオファーを出しました。すると、演技未経験にもかかわらず、快諾いただきまして、一気に映画作りがスタートしました。

『風呂屋の御主人』の撮影風景
『風呂屋の御主人』の制作スタッフ

――『風呂屋の御主人』は海外の映画賞を受賞されて、映画祭に出席するためにチェコのプラハにも行かれたそうですね。海外の方からはどのような点が評価されましたか。

『風呂屋の御主人』は、海外の映画雑誌『INDIE CINEMA MAGAZINE』にも取り上げられた

石出:海外の方から作品についてよくされるのが「独特」という表現です。日本特有の銭湯という文化や、建築物としてのデザインが「独特で面白い」と感じていただけているのかもしれませんね。

――映画の企画も「銭湯」という場所からスタートしているだけに、場所に注目してもらえるのはうれしいことですね。

石出:実のところ今回の作品に限らず、場所や空間からインスピレーションを得て映画を作ることは多いですね。例えば、郊外の団地に住む家族を題材にした『ユウナとちいさなおべんとう』(2004)も団地という場所に魅力を感じて撮影しました。まず魅力的な場所があって、そこから登場人物や物語が立ち現れてくるというのが、私の制作パターンなんです。

――映画作りの醍醐味は何ですか。

石出:観客の反応を見られることですね。作品を観て、泣いたり、笑ったり、そういう反応をいただけるのがうれしいです。でも私が本当に作りたいのは、お客さまがどう捉えていいのかわからなくなってしまうような映画だったりもします。感動したけど泣けないとか、泣いていいのか笑っていいのかわからないとか。撮影をするときも、複数の感情が絡み合っているようなワンカットにしたいなというのは、いつも意識しています。

郵便局のコミュニティ化を目指しながら、映画制作に挑戦し続けたい

――郵便局長と映画監督、このオンとオフをどのように両立されていますか。

石出:映画制作にはまとまった時間が必要となってくるので、同じ地域内の局長さんや、職場の方にも相談して、ご協力いただきながら制作しています。例えば『風呂屋の御主人』のときは、銭湯の定休日が水曜日だったので、水曜日に年休をとり、あとは土日を利用しながら撮影を進めました。

――郵便局の仕事が、映画制作に活かされていることはありますか。

石出:郵便局ではお客さまとの交流のなかで、地域の昔話ですとか、お客さまご自身の人生のことですとか、さまざまなお話を聞く機会があります。そんなお客さまとのふれあいから得られたものが、制作をするうえでヒントやきっかけになっていることは結構ありますね。

――逆に、映画制作の経験が、日ごろの仕事に活きていることはありますか。

石出:映画の現場では、スタッフ一人ひとりの個性や能力を見極めながらマネジメントするということが大事なのですが、その経験が郵便局でのマネジメントでも活かされていると思います。

――オンとオフを両立させるために大事なことは何でしょうか?

石出:どちらも一所懸命やることですね。私の場合、オンオフというより、常にオンの状態なんですけど(笑)、例えば海外の映画祭に応募する文面の作成は、通勤中の電車のなかでスマホを使って行っていましたし、家に帰ってきても、家事や子どものお世話をして、ちょっと時間が空いたらパソコンに向かって映画に関する作業をしています。仕事も家庭も疎かにしない、そういう覚悟を持って映画制作に取り組んでいます。

――これから、オンとオフ、それぞれで目指していきたいことは何でしょうか。

石出:仕事の面で言えば、最近まちづくりにも興味があるので、郵便局を近所の人が集まってくる交流の場にしたいなという思いがあります。実際、郵便局で生まれる交流というのはあって、たまたま窓口で会ったお客さま同士で「あら、最近どうしてるの?」と会話が始まったり。自然と人が集まり、自然と交流が生まれる、そういう場にもっとしていきたいです。

オフの面では、若いときほど映画制作に時間は割けないのですが、やはりもっと上のステージには行きたいなとは思っています。誰もが聞いたことのあるような世界的に有名で大きな映画祭で結果を出すということは目指したいです。まだまだ映画で表現したいものはたくさんあるので、挑戦は続けていきたいですね。

オン・オフ両立の極意

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