ローカル共創のススメVol.7 目指すは1億総コミュニティナース! 島根県雲南市で広がる"おせっかい"の輪

ローカル共創のススメVol.7 目指すは1億総コミュニティナース! 島根県雲南市で広がるおせっかいの輪

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「地域(ローカル)」をフィールドとしたプロジェクト、「ローカル共創イニシアティブ」※で各地に赴任している社員を紹介する本企画。
今回は、2022年4月からCommunity Nurse Company株式会社(現・株式会社CNC)に出向し、島根県雲南市で活動する岡田 江梨花(おかだ えりか)さんを取材。CNC代表取締役を務める矢田 明子(やた あきこ)さんと、郵便局の健康ステーション化を進める三刀屋(みとや)郵便局 局長の板倉 孝夫(いたくら たかお)さんにもお話を伺いました。

※公募により選出された日本郵政グループの若手・中堅社員を、社会課題に先行して取り組む地域のベンチャー企業や地方自治体に2年間派遣することにより、新規ビジネスなどを創出することを目指すプロジェクト

岡田 江梨花(おかだ えりか)さん

日本郵政株式会社 事業共創部 グループリーダー

岡田 江梨花(おかだ えりか)さん

2009年、日本郵政株式会社に入社。近畿地方の郵便局勤務、本社広報部、秘書室での勤務などを経て、2022年4月より事業共創部への異動と同時にCommunity Nurse Company株式会社へ出向。

矢田 明子(やた あきこ)さん

株式会社CNC 代表取締役
一般社団法人 Community Nurse Laboratory 代表理事

矢田 明子(やた あきこ)さん

島根県出雲市出身。父の死をきっかけにコミュニティナーシングを着想。2014年島根大学医学部看護学科を卒業後、自身でコミュニティナースの活動を拡大。コミュニティナーシングの担い手の育成をスタートさせた後、Community Nurse Company株式会社を設立。島根県雲南市に拠点を構えながら、全国の企業や自治体と連携し、コミュニティナーシングの社会実装を進めている。

板倉 孝夫(いたくら たかお)さん

三刀屋郵便局 局長

板倉 孝夫(いたくら たかお)さん

1989年、当時の郵政省に入省。比田郵便局での勤務から始まり、島根県内の複数の郵便局での勤務を経て2008年から現職。

人とつながり、まちを元気にする。CNCが提唱する「コミュニティナース」とは

――岡田さんが「ローカル共創イニシアティブ」に応募された動機を教えてください。

岡田:私は大阪市内の出身で、これまで東京での勤務が長かったこともあって、都市部以外で生活した経験がなかったので、ローカル共創イニシアティブの施策を見たときに、グループが持つネットワークの強みについて、自分があまり実感を持って理解できていないと感じたんです。そのため、中山間地域で2年間生活しながら実情を知るよい機会だと思って応募しました。

――出向先として島根県雲南市を選んだのはどうしてですか。

岡田:地域というよりも、出向先であるCNCが取り組むコミュニティナースという事業にすごく興味があって決めたんです。この取り組み自体が日本全国に広がると、介護の問題などが解消されていくのではと選びました。

――矢田さん、コミュニティナースについて教えてください。

矢田:コミュニティナーシングという看護の実践からヒントを得て、CNCが独自に提唱・普及してきたコンセプトです。やってみたいことがあるけれど一人ではできない。困っているので助けてくれる人がほしい。そのような地域の住民からの相談を受け、困っている方と"おせっかい"をやいてくれる人を結んで解決につなげます。医療資格の有無は関係ありません。コミュニティナースを広げていくことで、行政などに頼らずとも自分たちで健康に長く生きられる社会の実現をビジョンに掲げています。

――介護や医療の専門職ではなくても、住民同士で互いに支え合うものなんですね。

矢田:はい。保健師など専門職の働きも大事ですが、専門職だけに頼り切らないことが日本の持続可能性につながります。地域コミュニティのなかで、健康なうちから住民同士がケアし合うことで予防になりますし、人と人とのつながりによって何かあったときに手を差し伸べられる環境をつくることが必要だと思います。

――コミュニティナースを広めるためにCNCではどんな活動をしていますか。

矢田:人と人とをつないでいるほか、その人がやりたいことを聞いて、実現のために住民の方々といっしょに伴走しています。CNCではコミュニティナースの育成システムを継続していて、すでに47都道府県で900人ほどの人が受講済みです。実際に活動を起こしている人たちも数多くいるんです。

――若者の育成のほか、地域の健康づくりや困りごとの解決に取り組む活動にも積極的だと聞きました。

矢田:そうですね。ユース世代にも育成の輪を広げようと、大学との連携による研修も行っています。また、自分のやりたいことを探求できる場を開放して、コミュニティナースが管理人といった形で駐在しています。さらに、CNC主催の「地域おせっかい会議」もやっています。これは主体的なおせっかいを通して、地域全体で支え合う仕組みづくりを進めるための取り組みです。

お話を伺ったのはCNCの活動拠点である「みんなのお家」。築100年ほどの建物は、かつて診療所としても使われていました

プレイヤーや視察の受け入れ、企業の発掘など、幅広く活動

――岡田さんはCNCでどういった業務をしていますか。

岡田:地域おせっかい会議ではコミュニティナースとして、個人宅を訪問するなど、地域に出て活動しています。対面でお話をしながらやりたいことを実現するお手伝いをしたり、人とつないだりといった業務です。

視察者に対して事業説明を行っている岡田さん(中央)

――CNCは企業や自治体との協働も進めているそうですね。

岡田:雲南市をはじめとする自治体のほか、日本郵便や製薬会社などの企業ともさまざまな形で協働しています。視察のお話をいただく機会も多いので、アテンドをしたり、パートナー企業の発掘や、その後どう実装していくかを考えたりといったことも、私が担当しています。2023年には、CNCが企業と共催で全国のおせっかいをたたえ合う「GOODおせっかいAWARD」を開催したのですが、その企画も担当しました。

――幅広く活動されていますね! これまでの2年間で仕事への向き合い方に変化はありましたか。

岡田:雲南市へ来て半年間くらいは、仕組みを考えることばかりに頭を使っていました。知らない間に自分で防護壁をつくって、実は矢田さんともかなりバチバチして(笑)。もう無理だと思って、一度、東京の本社へ戻ったことがあります。でもすぐに「自分は何に挑戦していたんだろう」とハッとして、CNCに戻ったんです。

矢田:岡田さんは戻ってきてからメンタルモデルが変わったし明るくなりましたね。不確定な物事に取り組むことに対する耐性もすごく上がったと思います。何より、あの出来事を乗り越えたことで、深い信頼関係が築けました。

インタビュー中も常に笑顔が飛び交う矢田さんと岡田さん

岡田:あの時期にしっかりと向き合っていてよかったなと思います。矢田さんにも地域の皆さんにも気づかせてもらった部分が大きいですね。おかげで、仕事で何を追求していきたいのかが、やっと見えてきた気がします。

おせっかい会議で生まれたアイディアを実現した、郵便局の「まちの保健室」

CNCが主催するおせっかい会議には、地域の郵便局も参加。三刀屋郵便局では、おせっかい会議で出たアイディアを実現した「まちの保健室」の開催を続けています。

――まちの保健室は、どういう想いから始まりましたか。

板倉:郵便局では、年金支給日である偶数月の15日に、いつもよりもお客さまがたくさん来ます。そこでお客さまと少し雑談をするのですが、聞こえてくるのは、健康や病気のことが多いんです。そこで、郵便局で年金の確認をしたりお金をおろしたりするだけではなくて、何か一つでもためになる情報を持ち帰っていただきたいという想いが以前からありました。

――まちの保健室を始めるきっかけは何だったのでしょう。

板倉:CNCと雲南市、そして日本郵便が、地域の見守りなどを連携する協定を結んだのをきっかけに、雲南市内の郵便局長全員でコミュニティナースの講習を受けました。

――おせっかい会議にも参加されたそうですね。

板倉:はい。おせっかい会議では、「郵便局の健康ステーション化」というテーマを設けました。そのとき出し合ったアイディアをもとに、市内に18局ある郵便局のうち比較的スペースに余裕がある、この三刀屋郵便局でまちの保健室を開催することになりました。

まちの保健室の様子。骨密度や血圧の測定や健康相談が行われ、3時間で約60人もの来場がありました

――郵便局の健康ステーション化ですね。どういった内容か教えてください。

板倉:会場は三刀屋郵便局の一角にあるコミュニティールームです。骨密度や血圧が測れて、ちょっとした体操なども体験できます。中央のスペースにはお茶を飲むところを設けて、初回は60人ものお客さまに足を運んでいただきました。血圧を測ったり体操を習ったりすると、どんどん満足げな明るい表情になっていくお客さまもいらっしゃいます。

三刀屋郵便局のコミュニティールームにて。普段は、地域にお住まいの方のクラフト作品や写真、書道などの展示の場になっています

板倉:普段は4つのブースで区切られているのですが、地域住民の方がハンドマッサージのブースを出したり、協賛企業が提供するタブレットで笑顔を測定する「笑顔ステーション」を行ったりとさまざまです。毎回みんなでアイディアを出し合いながらやっています。

――郵便局に行く楽しみの一つになりますね。郵便局はどんな存在でありたいですか。

板倉:郵便局は、お客さまが気軽に立ち寄れる場所ですし、そういう立ち位置が大切なのかなと思います。郵便局が気軽に立ち寄れる場所だからこそ、来ていただいたお客さまには何かためになる情報を一つでも多く持ち帰ってほしいですね。まちの保健室を通して、少しでも健康に意識が向いて、健康診断の受診率を向上させるきっかけになればとも思います。

三刀屋郵便局前の入口スペースには、足腰の状態を手軽にチェックできる「ロコモ度」テストをペイント。「郵便局が閉まっている時間にもできるものを」と板倉さんが発案し、中学校の地域貢献の授業を通じて中学生が制作しました

――まちの保健室を行うことは、郵便局で働く社員にも影響はありますか。

板倉:まちの保健室を実践の場として、お客さまとコミュニケーションをとることにつながり、社員育成にも役立っています。

"自分のあり方"をコミュニティナーシングで変えていく

――まちの保健室をはじめ、雲南市では人を元気にするおせっかいがどんどん広まっていますね。プレイヤーとしても活動する岡田さんが、やりがいを感じるのはどんなときですか。

岡田:コミュニティナースとして訪問した先の方が刺し子を趣味にしていたのですが、「ぜひみんなにも見てもらったら」という、おせっかいな言葉をかけました。するとその言葉をきっかけに三刀屋郵便局で作品の展示をして、地域の方からかなり好評だったようで、やがてワークショップも開催するようになったんです。そんなふうに、ちょっとしたおせっかいによって人が元気になったり、いつもと違う世界に一歩踏み出せたりといった姿を目の当たりにすると、すごいなと感じます。どんどんおせっかいが広がることで社会課題が解決されていくのを実感することが、私のやりがいです。

――雲南市での経験をどう活かしていきたいですか。

岡田:この2年間の反省でもあるのですが、雲南市でのCNCでの業務に没頭しすぎて、自分自身の活動を東京や他の地域へアピールできていなかったと感じています。東京へ戻ってからは、コミュニティナースをもっと多くの人に知ってもらえるような取り組みをしたいですね。

――雲南市にいる間に成し遂げたいことはありますか。

岡田:東京に戻ってからも郵政グループにおいてコミュニティナーシングに参画できるような仕組みを検討しているので、まずはそれをしっかり形にしたいと思います。個人的にも、コミュニティナースを広げることに今後もかかわっていきたい想いを強く持っています。社内副業も視野に入れて、東京でもコミュニティナースとして活動していこうと思います。

――将来の目標について教えてください。

岡田:自分のあり方自体をコミュニティナーシングで変えていくことだと思います。CNCが掲げている「1億総コミュニティナース」というビジョンそのものが、私の目標になりつつあります。自分の人生のチャレンジとしてやっていきたいですね。

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