ローカル共創のススメVol.6 「郵便局×地域自主組織」の可能性に注目! 島根県雲南市で地域課題の解決に挑戦

ローカル共創のススメVol.6 「郵便局×地域自主組織」の可能性に注目! 島根県雲南市で地域課題の解決に挑戦

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「地域(ローカル)」をフィールドとしたプロジェクト、「ローカル共創イニシアティブ」※で各地に赴任している社員を紹介する本企画。

今回は、2022年4月から特定非営利活動(NPO)法人おっちラボに出向し、島根県雲南市で活動する三輪 信介(みわ しんすけ)さんを取材。おっちラボ代表理事の小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さんと、三輪さんが地域自治の活動に取り組む久野地区の地域自主組織、久野地区振興会会長を務める落合 孝司(おちあい たかし)さんにもお話を伺いました。

※公募により選出された日本郵政グループの若手・中堅社員を、社会課題に先行して取り組む地域のベンチャー企業や地方自治体に2年間派遣することにより、新規ビジネスなどを創出することを目指すプロジェクト

三輪 信介(みわ しんすけ)さん

日本郵政株式会社 事業共創部 グループリーダー

三輪 信介(みわ しんすけ)さん

2009年、日本郵政株式会社に入社。郵便局での勤務を経て、病院管理部、グループIT統括部や株式会社かんぽ生命保険営業推進部(出向)での業務、株式会社JPデジタルの立ち上げなどさまざまな業務を経験。2022年4月より、事業共創部へ異動と同時にNPO法人おっちラボへ出向。雲南市へ移住し、地域自治の取り組みに携わる。

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん

NPO法人おっちラボ 代表理事

小俣 健三郎(おまた けんざぶろう)さん

東京都生まれ。東京で弁護士の経験を積んだ後、雲南市木次町のNPO法人おっちラボに2015年より加入。2018年から現職。

落合 孝司(おちあい たかし)さん

久野地区振興会 会長

落合 孝司(おちあい たかし)さん

島根県雲南市生まれ。高校卒業後、地元の信用金庫に46年間勤務。2019年から現職。

地域といっしょにビジネスをつくりたい! 訪問経験がある雲南市に応募

――三輪さんが「ローカル共創イニシアティブ」に応募された動機を教えてください。

三輪:学生時代に郵便局でアルバイトをしていたときに、郵便局が地域に愛されていることをとても感じました。入社してからも地域にかかわる仕事をしたい想いがあって、地域といっしょにビジネスをつくるプロジェクトに共感して手を挙げました。

――派遣先地域のなかでも雲南市を選んだ理由は何ですか。

三輪:鉄道が好きで、以前、島根県と広島県を結ぶローカル線の木次線(きすきせん)に乗る機会があったのですが、アクシデントがあり、ここ雲南市にある木次駅で3時間ほど停車しました。そのとき木次駅の皆さんにとても温かく接していただいたのがすごく印象に残っていて、ぜひ雲南市でと迷わず選びました。

――雲南市に移住してみていかがですか。

三輪:自宅周辺の環境でいえば、自宅から歩いて5分圏内にスーパーやホームセンター、コンビニ、ガソリンスタンドがそろっていて、通勤も車ですぐですし、職住近接ですごく住みやすいです。

――実際に住んでみて雲南市のどんなところに魅力を感じますか。

三輪:自然が豊かですし、人の温かさを感じます。人とのコミュニケーションが密で、自分のペースを大事にしながら自然体で暮らせるのが雲南市の魅力ではないかなと。住んでみて、いろいろなことに余裕が生まれた気がします。

豊かな自然に抱かれた雲南市大東町久野地区。地区を流れる清流は、特別天然記念物オオサンショウウオのふるさととしても知られます

雲南市が進める「ソーシャルチャレンジバレー」とは

雲南市は、2004年に6町村が合併して生まれた市で、その後「ソーシャルチャレンジバレー」に取り組んできました。このプロジェクトについて、NPO法人おっちラボの小俣さんにお話を伺いました。

――「おっちラボ」が携わっている雲南市の「ソーシャルチャレンジバレー」構想について教えてください。

小俣:雲南市は、合併してから地域自治を推進してきました。合併から10年ほどがたって地方創生の動きも起こるなかで、雲南市がずっと魅力的であり続けるために、リーダーシップを持った人材育成に力を入れました。人材育成を深めていくなかで社会課題解決のためのチャレンジが増えてきて、それをさらに促進しようと「ソーシャルチャレンジバレー」を掲げたんです。

4つのチャレンジが連鎖する雲南市の「ソーシャルチャレンジバレー」

小俣:大人チャレンジは、地域自治を行政に任せるのではなく、自分たちで行うというものです。若者チャレンジは、次世代の起業や地域でのプロジェクトづくり、さらにその次の世代として子どもチャレンジがあります。>

――3つの世代にわたるチャレンジに加えて企業チャレンジもあるのですね。

小俣:はい。2019年からは企業チャレンジも始めました。そのなかで、雲南市と日本郵便が連携協定を結んだことで、地域の郵便局と深くつながることができたんです。

――小俣さんが代表理事を務めるおっちラボは、主に若者チャレンジについてさまざまなサポートを行っていると聞きました。具体的に、どのような活動をしていますか。

小俣:2011年から「幸雲南塾」などの運営を通じて、地域の未来をつくる担い手である"ローカルチャレンジャー"が想いを形にしていけるよう、学び合いの場づくりや地域内外の助言してくれる方をつなぐ活動をしています。また、起業する若者が増えてきたこともあって、起業サポートや企業からの資金支援の仕組みづくりなどを行っています。

おっちラボのオフィスにて、幸福な自治研究所 代表の佐藤さん(右)と大人チャレンジの新たな展開についてミーティングをする三輪さん

――三輪さんはおっちラボにいながら、大人チャレンジの支援も行っているということですが、大人チャレンジの活動についても教えてください。

小俣:2004年に6町村が合併して雲南市になったのですが、市町村が合併すると、合併前と比べ、より広いエリアに対して役場が一つという状態になって、さまざまな課題を役場だけでカバーするのが難しくなります。そこで雲南市では、住民が自分たちでできることを自分たちで行うことにしたんです。今では、おおむね小学校区単位で編成される30の地域自主組織ができ、地域づくりと福祉、生涯学習(社会教育)の三本柱で活動しています。

三輪:地域自主組織という制度自体がすごくユニークで、ほかの自治体にはない魅力ですよね。地域の人たちが地域づくりの主役になっている仕組みは、すごく大事だなと思います。

久野地区振興会の拠点となっている久野交流センター。地域の人たちの交流の場所として活用されています

農作業や山仕事、地域自治。現場に入り込んで困りごとの解決を目指す

――三輪さんがかかわっている久野地区振興会(雲南市久野地区の地域自主組織)は、久野交流センターを拠点に幅広い活動を行っています。落合さんは、久野地区振興会の会長を務めておられますが、久野地区にはどのくらいの方が住んでいますか。

落合:私は生まれも育ちも久野地区で、4年前から振興会の会長を務めています。久野地区には、200弱の世帯がありまして、人口はおよそ450人、高齢化率は50%を超えています。

三輪:落合さんが言われたように、過疎化・高齢化が進んでいて地域の担い手が減っています。そこを支える機能の一つが地域自主組織だなと感じます。

――三輪さんは久野地区振興会とは、どのようなかかわり方をしていますか。

三輪:出向して最初の1年間は農作業や山仕事のお手伝いをしていましたが、理解を深めるために自分自身が地域自主組織に入ろうと、落合さんにお願いして久野地区振興会にインターンとしてかかわりはじめました。現在は久野交流センターに週に1回通い、地域自治の仕事をしています。地域の皆さんで集まって重りを使って運動する「うんなん幸雲体操」のお手伝いをしたり、夏には耕作放棄地を活用してヒマワリ畑をつくるイベントのお手伝いをしたりもしました。

週に1度、久野地区振興会で地域自治の仕事に取り組む三輪さん。同僚の皆さんとの息もピッタリ

――地域の現場に入り込んで活動されているのですね。農作業や山仕事のお手伝いを通して気づいた、地域の課題はありますか。

三輪:農業関係の補助金に関するさまざまな事務を集落ごとでやっているのですが、大きな負担を感じているという声を多く聞いたのをきっかけに、そうした補助金関連の事務機能を久野地区振興会に集約するプロジェクトを進めています。さらに、久野地区にある郵便局が久野地区振興会の業務を一部請け負う仕組みをつくり、協働して地域を支えていければと、調整を進めているところです。

落合:われわれも将来の農業のあり方などを地区全体で話し合える場や組織づくりができないかとずっと考えていましたが、三輪さんが提案するような組織を立ち上げるパワーや人材がありませんでした。三輪さんは農家のみんなに丁寧に合意形成をしながら事を進めて、わずか半年でまとめてしまいました。われわれではできないことだなと感心しています。

三輪:落合さんの言葉は本当にありがたいですし、地域の皆さんからのリアクションが素直に聞けたときはやっぱりうれしいですね。一番やっていてよかったと感じる瞬間です。

小俣:三輪さんの認知特性だと思うのですが、「あそこでこんな困りごとがあるらしい」とか、なんでそんなに町の情報を知っているんだろう、と驚かされます。きっと得ている情報量が多いんでしょうね。

三輪:休日に散歩をしていても、電車に乗っていても自然と耳に入ってくるんですよね。農作業をしているときには、イノシシなどの獣害を見聞きしました。それをヒントに、鳥獣害対策に取り組んでいた雲南市飯石地区の地域自主組織に、おっちラボからデジタルツールを用いた対策を提案し、「うんなんケモナビ」という鳥獣被害対策アプリを開発・提供したんです。結果的に、2022年度の「冬のDigi田甲子園」で審査委員評価8位に入賞して、これはビジネスになるなと手応えを感じました。

害獣を発見したり捕獲したりといった情報が共有できる「うんなんケモナビ」を提供。地図データ上での共有や可視化を通じて、効果的な対策につなげています

手を携えて課題解決や地域づくりを! 「郵便局×地域自主組織」が描く未来像

――地域自主組織が取り組む地域課題の解決に向けて、郵便局も何かサポートできないかと考えたわけですね。

三輪:そうですね。雲南市には、30の地域自主組織に対して、簡易郵便局を含めて24の郵便局があります。地域自主組織は、限られた運営交付金のなかで"地域づくりも、福祉も、生涯学習も"とやることがたくさんあります。一方で、職員さんの数は潤沢ではなく、手を付けられない部分は少なくありません。地域に根付く郵便局が、地域自主組織といっしょに地域の課題解決や活性化に取り組めればいいですね。久野交流センターから歩いてすぐのところにある大東久野郵便局の局長さんとも積極的に交流を続けています。

地域自主組織と地元の郵便局とのかかわりについて、大東久野郵便局の局長 勝部 恵輔(かつべ けいすけ)さんにお話を伺いました。

勝部 恵輔(かつべ けいすけ)さん

大東久野郵便局 局長

勝部 恵輔(かつべ けいすけ)さん

三輪さんは、「ずっとここに残ってほしい」と、お客さまから言われるくらい親しみやすく話しやすい方です。久野地区に限らず、雲南地域の方々と積極的にかかわっていて、私以上に地域のことを知っていて、教わることも多いです。
久野地区振興会はさまざまな活動を行っているので、郵便局もお手伝いができることがあれば、積極的にかかわることで、地域の活性化につながればと思います。

――落合さんが、今後、郵便局に期待することはありますか。

落合:このあたりに金融機関は郵便局しかありませんし、地域に残る最後のインフラの一部として、地元の住民の暮らしを支えていただく重要な存在です。三輪さんも言っていたように、交流センターの事務スタッフの人材不足が深刻化しています。特に若い世代の担い手が不足していることもあり、地域課題の解決に向けた施策の提案をいただけるとありがたいですし、業務の一部の受託等を通じサポートしてもらえると助かりますね。

――長年、雲南市のソーシャルチャレンジバレーに携わってきたおっちラボとしてはいかがですか。

小俣:地域自主組織と郵便局の連携がどんどん進んだらいいなと思います。そして、おっちラボが続けている幸雲南塾の卒業生は170名を超えています。地域の課題解決に向け、こうした地域の未来をつくる若者の力も合わせていけると面白いですね。

――三輪さんの2年間という出向期間も残りわずかとなりました。今、どんな想いを抱いていますか。

三輪: 2年間は本当にあっという間だったと感じています。今も地域自主組織と郵便局でできることを進めていて、出向期間が終わるまでに何か形に残せるように仕上げたいですね。雲南市の皆さんは、高齢の人も若い人たちも本当に前向きで、やる気に満ちあふれているんです。その気持ちを伸ばすお手伝いができればと思っています。

――今後、雲南市とどうかかわっていきたいですか。

三輪:雲南市に来て、郵便局が地域に根付いた存在であることをあらためて感じています。雲南市ではいろいろなことにチャレンジして、新しい自分の原点になりました。今後も雲南市の方々とは、何かあれば相談に乗っていただけるような、そんな関係をずっと続けていけたらうれしいです。

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