地域医療を担う東京逓信病院の取り組みと、がんケアの現場で大切なこと

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日本郵政株式会社が経営する東京逓信病院は、1938年に逓信省の職域病院として職員やその家族の健康を守るために診療を開始した、長い歴史を持つ病院です。1986年に一般開放し、企業立病院としてだけではなく、地域医療を中心に都心部の救急医療や災害医療なども担っています。
今回は、病院長の山岨 達也(やまそば たつや)さん、緩和ケアチーム 看護師長の南里 栄(なんり さかえ)さん、病棟を担当する看護師の小原 夏乃(おばら なつの)さんに、地域医療やがんケアの取り組みについて、お話を伺いました。

東京逓信病院 病院長

山岨 達也(やまそば たつや)さん

東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院や関東圏の総合病院で臨床経験を重ねる。1993年東京大学耳鼻咽喉科講師、2007年東京大学耳鼻咽喉科教授、2017年東京大学医学部副学部長・医学教育国際研究センター長、2019年東京大学総長特任補佐、2021年東京大学教育研究評議員を務め、臨床・研究に加えて医学教育に尽力。2023年4月から現職。

東京逓信病院 患者支援センター 緩和ケアチーム 看護師長

南里 栄(なんり さかえ)さん

1992年、東京逓信病院に入職。これまでに6病棟で入院患者の看護や、外来での看護経験を持ち、その間にがん化学療法看護認定看護師の資格を取得。2022年度緩和ケア病棟師長を務め、現在は緩和ケアチームの専任看護師として従事。

東京逓信病院 看護師

小原 夏乃(おばら なつの)さん

2019年、東京逓信病院に入職。血液内科と内分泌・代謝内科の病棟看護を担当。

患者さんにも職員にも満足度の高い病院を目指して

――まず、どのような理念に基づいて運営されているのかお聞かせください。

山岨:企業立病院という立場を土台に、「患者さんに満足いただける心のこもった良質な医療を提供し、社会に貢献する」という理念のもと、地域を中心とした急性期病院としての役割を果たすため、職員一丸となって尽力しています。

2023年からは救急医療の専門医を3名に増員し、千代田区の救急搬送を積極的に受け入れるなど、救急医療に重点を置いています。当院は2004年に病院機能評価(※1)の認定を取得して更新を重ねており、今後も継続できるように努めていきます。

また、以前より教育に力を注いでおり、研修医に加えて、薬剤師や看護師、放射線技師などを目指す医療系の学生の研修などを積極的に受け入れています。

(※1)第三者機関である(公財)日本医療機能評価機構が、病院の各種機能について客観的にチェックを行い、すべての評価項目で一定水準以上にあると認められた場合に認定証が発行される制度

診療棟10階には患者図書室「ゆうゆうひろば―みんなの医療情報AからZまで―」を設置。病気・治療に関する解説本や、食事療法・栄養の本、検査・薬に関する本など、約1,000冊をそろえている

――2023年4月1日より、「東京都がん診療連携拠点病院」(※2)に指定されましたが、東京逓信病院におけるがんケアの特徴を教えてください。

山岨:医師、看護師、薬剤師、放射線技師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど多職種連携による「チーム医療」を掲げており、患者さんに寄り添ったがん医療を提供することを心がけています。

がんの手術では、体の負担を少なくした低侵襲(ていしんしゅう)手術を積極的に取り入れるとともに、近年では、外来でも可能な放射線治療や化学療法、免疫療法といった手術以外の治療成績もよくなり、治療の選択肢が広がっていることから、患者さんにとって適切な治療法を選択できるようにしています。また、当院は急性期病院でありながら、緩和ケア病棟を設けているところも特徴の一つです。

(※2)高度で専門的ながん医療を提供することのできる医療機関として、国によって指定される「がん診療連携拠点病院」と同等の診療機能を有する病院を、東京都が独自に指定するもの。

――ほかに、力を入れている取り組みはありますか。

山岨:当院は、早くから病気を未然に防ぐことに着目して1961年に現在の人間ドックにあたる成人病予防診断を開設しました。現在は日帰りドックなどを実施し、病院に併設しているメリットを活かして早期診断と早期治療につなげています。また、女性が受診しやすいように、女性の検査技師や女性の医師が基本的に対応する女性検診日を設けています。

オプション検査を豊富に取りそろえている「人間ドックセンター」

【例】オプション検査結果レポート(腸内フローラ検査)

それと、意外かもしれませんが、当院がある千代田区においても区民の超高齢化が進んでいます。年齢とともに発症リスクが高まる狭心症や心筋梗塞、心不全、脳梗塞などにより救急搬送されることがありますが、これらの疾患は一命を取り留めた場合でも、手術後のリハビリが日常生活への復帰を左右します。

そこで、当院は急性期病院ではあるものの、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などによるリハビリを拡充し、急性期治療のあとの慢性期のケアにも力を入れています。

地域の医療機関と連携して、地域医療に貢献

――東京逓信病院の地域における役割、また地域の医療機関とどのように連携されているのか教えてください。

山岨:昨今、地域の基幹病院に求められている紹介受診重点医療機関としての役割を果たすため、急性期やより専門的な治療が必要な場合などに、千代田区の診療所や病院から患者さんをご紹介いただいて当院で治療を行い、治療後は紹介元の診療所や病院に患者さんをお戻しする「ツードクター制」を推進しています。

現在、千代田区などの診療所や病院より250人ほどの医師に当院の連携医として登録いただいていますが、さらに増やしていくよう努めているところです。また、千代田区医師会と緊密に連携を図ることや、千代田保健所とも対話を重ねて要望などがあれば真摯に対応しています。

ほかにも、定期的に行われる地域の自衛消防訓練や医療救護訓練にも参加するようにしています。千代田区のなかでは大きな病院になり、災害時には対応する責務があると思っておりますので、その体制作りは常に考えています。

災害時に対応するため、定期的に千代田区による自衛消防訓練や医療救護訓練に参加

――企業立病院としての使命は、どのようにお考えでしょうか。

山岨:新型コロナウイルス感染症のワクチン接種の際には、日本郵政グループの大手町本社ビル会場で地域の郵便局や支社・本社社員の方々への職域接種を実施しました。今後は、新型コロナウイルス感染症の影響で休止してきた健康講座を再開するなど、日本郵政グループの社員やご家族の健康増進のお役に立てる取り組みを行っていきたいです。

――東京逓信病院では今後、どのような医療サービスの提供が必要になってくるのでしょうか。

山岨:日本は世界有数の長寿国ですが、健康寿命を延ばすためには、病気になる前からのアプローチが大切だと思っています。そのためにも、人間ドックの拡充を図っていきたいと考えています。

また、当院は、国際的な都市の一つである東京の都心部でアクセスのよい場所に位置していますので、今後は医療ツーリズム(※3)の導入なども検討していきたいです。

(※3)外国で検診や治療などを受けるために旅行し、医療サービスを受けること

患者さんに寄り添う、チーム医療の「がんケア」

――がん患者さんのケアに携わられているとのことですが、どのような業務を担当されているのか教えてください。

南里:緩和ケアチームの看護師として、入院中のがん患者さんに対して、各診療科の医師や看護師と協力して、チームのメンバーとともに横断的に緩和ケアを提供しています。緩和ケアチームは、身体的な面を診る医師、精神的な面を診る医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカー、リハビリのスタッフで構成されています。

小原:私は、看護師と看護助手を合わせて30人ほどが所属している血液内科と内分泌・代謝内科の病棟を担当しています。血液内科では、主に白血病や骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫など血液のがんに対する化学療法を行っている入院患者さんのケアを行っています。

――「緩和ケア」というのは、具体的にどのような医療提供を行うのでしょうか。一般的には終末期ケアをイメージするのですが。

南里:皆さん「緩和ケア」と聞くと、そのようなイメージを持たれるようですね。本来「緩和ケア」とは、終末期に限らず、がんを含めて死を意識するような病気をお持ちの患者さんが、体のつらさだけでなく、心や社会的つらさを抱えている場合に、それを和らげるためのケアと定義されています。

患者さんはがんなどの診断を受けたときから、告知による精神的苦痛が生じることや、治療の過程ではがんなどの症状や治療に伴う副作用による苦痛、治療にかかる経済的な負担や不安、仕事や家庭といった場面での社会的役割の喪失など、さまざまなつらい思いを抱えるといわれ、診断時からの緩和ケアが国の対策としても推奨されています。

もちろん、終末期には重点的に緩和ケアがなされることが重要で、当院の緩和ケア病棟でもきめ細かい診療と看護を提供しています。がん診療にかかわる医師のほとんどが、緩和ケア研修会の受講を修了していますし、看護師も、告知のときからできるだけ介入して患者さんをサポートできるようにしています。

緩和ケア病棟では病室のほか、ご家族が利用可能な談話室やキッチン、家族控え室を設置

――がんケアでは「チーム医療」を掲げていますが、どのような医療提供を目指しているのでしょうか。

南里:病気の状態だけでなく、年齢や性別、ご家族の有無、仕事の有無など患者さんを取り巻く社会的背景を踏まえてサポートできるように、職種や部門、診療科の垣根を低くして医療スタッフが協力し合うことで、よりよい医療、よりよいケアを提供できることを目指しています。

さまざまな患者さんと向き合ううえで、大切にしていること

――がん患者さんやそのご家族、医療スタッフ間など、コミュニケーションにおいて心がけていることをお聞かせください。

南里:がん治療は進歩し続けており、以前よりも治療成績や生命予後、生活の質などが大きく改善されています。一方で、がんはまだまだ深刻な病気だと捉えられることも少なくありません。そのため、病気に対する受け止め方は、患者さんの年齢や性別、家族や友人、職場の人といったご本人の周囲にがんの方がいた経験の有無などによって、大きく異なるものです。

そうした背景を踏まえ、患者さん個々に合った治療やケアを提供できるように対話を重ねていくことを心がけています。

小原:血液内科と内分泌・代謝内科の病棟では、看護師が3チームに分かれ、その3チームでそれぞれメインで受け持つ患者さんを分担しながらケアすることになりますが、夜勤などの際には自分のチームの担当ではない患者さんを受け持つこともあります。

そこで、医師を交えてのカンファレンスを週に1回行い、総合的に患者さんの情報を共有しています。また、患者さんの心身の状況を適切に把握できるように、看護師が週に1回患者さんからお話をお聞きし、その情報をスタッフ間で共有してよりよいケアの提供につなげています。

――患者さんにとって、看護師の存在は大きいですよね。

小原:そうですね。南里さんが仰っていたように、患者さんそれぞれ病気に対する受け止めや思いが違いますので、こちら側は気構えずに、何かあればいつでも相談できる、と感じてもらえるようなコミュニケーションが大切だと思っています。

――最後に、ご自身のビジョンをお聞かせください。

南里:医療従事者という立場で、がん患者さんに対して治療のことなどでさまざまな提案をさせていただいていますが、治療を受ける患者さんにはそれぞれの人生があるので、患者さんが望まれる選択を大切にしていきたいです。

また、当院での勤務年数が長いことから、院内のさまざまなスタッフとの人間関係が構築できていることを強みに、スタッフと協力して患者さんによりよいケアを提供していくとともに、現場のスタッフの育成にも尽力していきたいです。

小原:退院後に患者さんができるだけ入院前と同じ生活が送れるようにしていくために、どのような看護が必要なのかを日々考えて業務にあたっています。患者さんにとって一番の理解者であり、相談しやすい存在でありたいと思っているので、患者さんの表情や言葉などから思いを感じ取って、患者さんの心に寄り添う看護を提供していきたいです。

[東京逓信病院]
東京都千代田区富士見2-14-23
代表電話番号 03-5214-7111

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