ローカル共創のススメVol.4 宮城県石巻市で農業を通じて地域課題の解決につなげる!

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日本郵政グループは、創業以来、地域のお客さまに支えられ、また、地域のお客さまに寄り添うことを目指して、全国の郵便局ネットワークを通じて郵便、金融などのサービスを提供してきました。本企画では、その「地域(ローカル)」をフィールドとしたプロジェクト、「ローカル共創イニシアティブ」※について紹介していきます。

※公募により選出された日本郵政グループの若手・中堅社員を、社会課題に先行して取り組む地域のベンチャー企業や地方自治体に2年間派遣することにより、新規ビジネスなどを創出することを目指すプロジェクト

第4回は、2022年4月から宮城県石巻市の一般社団法人イシノマキ・ファームに出向している藤本 洋平(ふじもと ようへい)さんを取材。イシノマキ・ファームの代表理事である高橋 由佳(たかはし ゆか)さんをはじめ、藤本さんの取り組みとかかわりが深い石巻立町郵便局、石巻郵便局の皆さんにもお話を伺いました。

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日本郵政株式会社 事業共創部

藤本 洋平(ふじもと ようへい)さん

当時の郵政省入省以来、日本郵政グループのシステム関連業務に携わり、2020年からは中期IT計画の策定を担当。同年10月から新規ビジネス室兼務となり、地方創生の企画に参画。2022年4月より一般社団法人イシノマキ・ファーム(宮城県石巻市)に出向。

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一般社団法人イシノマキ・ファーム 代表理事

高橋 由佳(たかはし ゆか)さん

精神保健福祉士・職場適応援助者(ジョブコーチ)。日本ファンドレイジング協会准認定ファンドレイザー。LEGO SERIOUS PLAY認定ファシリテーター。教育・福祉分野の専門職を経て、2016年には、「ソーシャルファーム」を理念とした就農支援の一般社団法人イシノマキ・ファームを設立。

ソーシャルファームの理念に共感して応募

――藤本さんが「ローカル共創イニシアティブ」へ応募した動機を教えてください。

藤本:ずっと携わっていたITの業務とともに、出向する直近は地方創生に携わっていました。郵便局の力を活かしながら地域ごとに行うスモールビジネスを、全国に面で広げられる可能性を感じて応募しました。

――派遣先地域のなかでも宮城県石巻市を選んだのはなぜですか。

藤本:自分は福島県出身なので、同じ東北ということが理由の一つです。石巻は東日本大震災で被災していますが、ずっと間接的な支援しかできず、それが心に引っかかっていました。マッチングの段階で高橋さんに会い、ソーシャルファームの理念に共感して、イシノマキ・ファームでやってみたいと思いました。

高橋:イシノマキ・ファームは、ソーシャルファームを理念に掲げて、耕作放棄地や東日本大震災で浸水した休耕地を活用し、野菜やホップを栽培しています。そういった農地で、引きこもりやホームレスの人、少年院を退所した人など、社会的弱者の方々へ、農業を通じた就労支援を行っています。

ホップの収穫風景。さまざまな人たちが協力し合い、作業を進めています。

――具体的にはどういった活動をしていますか。

高橋:ボランティアや実習ではなくて、どんな方にも同一賃金・同一労働条件で雇用の場をつくっています。農作業をした人に、訓練日当という名で最低賃金程度のお金を報酬として渡しています。農作業をしてお給料を得るという疑似体験を通して、少しずつ本格的な就職へと道筋を作る、中間的就労支援を行っています。

藤本:毎週火曜に、農作業をする人たちを石巻市内から私が車で送迎し、日中いっしょに農作業をします。車移動中にいろいろな会話をするのですが、そのうちの一人がイチゴ農家に就職し、収穫したイチゴを持って挨拶に来てくれたことがありました。「仕事が楽しい」と聞いたときには、泣きそうになるくらいうれしかったですね。

――石巻市に移住して、オフの日の過ごし方に変化はありましたか。

藤本:石巻は海も山も近くにある環境なので、休日は海でSUP(サップ)をやったり、この冬は十何年かぶりにスノーボードを始めました。

豊かな自然に囲まれた石巻市。街の中心部には雄大な旧北上川が流れています。

――高橋さんから見て、藤本さんの印象はいかがですか。

高橋:藤本さんはすごく人たらしです(笑)。うちのスタッフや地域の農家さんともすぐに打ち解けて、本当にすごいなと思います。「何でも手伝うよ」とフットワークが軽いですし、ムードメーカーになっています。若手のスタッフにとっては、いい先輩として見習うことがたくさんあるようです。

郵便局と連携しながら農作物を循環させ、石巻を盛り上げる

――藤本さんは、ふだんはどういったお仕事をしていますか。

藤本:もともとITでいろいろなプロジェクトをやっていた経験を活かして、企画を立ち上げ、その企画の進行と管理業務をしています。計画をつくって実行してみて、計画がちゃんと合っているか見直すといったものです。直近では、イシノマキ・ファームで栽培したホップと市内の社会福祉法人の利用者さんたちが牡鹿半島海域の海水で作った塩(金華塩)などを使った6次化商品である「巻風ホップソルト」の開発をスタッフと進めており、4月に東京で売り出す予定です。日本郵政グループでのプロジェクトマネジメントの経験は非常に役に立っています。

――農作業もされているそうですが、日々の業務で驚くことはありますか。

藤本:農業はまったく初めてだったので、石巻に来てから学ばせてもらっています。イシノマキ・ファームでの仕事は、企画から実行までのスピードが非常に速く驚きました。代表である高橋さんがそばにいて、「いいね」となったらすぐ実行という感じです。ときには失敗することもありますが、臆せずチャレンジできてやりがいにつながっています。

――藤本さんの発案で、イシノマキ・ファームが育てた野菜を郵便局の中で販売されているそうですね。

藤本:春から秋にかけては、朝採れのジャガイモやピーマン、トマトといった野菜を石巻立町郵便局の一角にある棚で販売しています。お金を入れる箱を設置した無人販売で、どれもワンコインで買えるように1袋税込100円にしました。野菜の収穫が途切れる冬場は、イシノマキ・ファームで栽培したサツマイモを干し芋にして販売しています。

石巻産の紅はるかを使用し石巻で加工した干し芋は、糖度が高く食感がよいのが特徴です。

――お客さまの反応はいかがですか。

藤本:石巻は高齢者の方が多くて、スーパーに行くよりも郵便局の方が近いという方に喜ばれていますね。野菜が並ぶのが待ち遠しくて朝から待っているという方や、その日は郵便局に用事がなくても野菜を目的に来る、という方もいらっしゃるようでうれしいです。

イシノマキ・ファームの商品を手にする藤本さんと石巻立町郵便局の皆さん

石巻立町郵便局 局長 今野 毅(こんの つよし)さん

多くのお客さまが野菜の棚を見られていて、すぐに売り切れるので反応は上々です。搬入の時など、藤本さんがいるとお客さまに声をかけてくれるので販売率は格段に上がります。すばらしいセールスマンですね。小さな棚一つあるだけで、いろいろなお客さまとお話ができるのは新しい発見でした。この棚を目的に足を運ばれるお客さまもいるので、いろいろな郵便局でやってもいいのかなと思います。

――同じく郵便局との連携として、イシノマキ・ファームが醸造しているクラフトビールの集荷を石巻郵便局に依頼しているそうですね。

藤本:もともとイシノマキ・ファームで栽培したホップを使ったビールの生産を酒造会社に委託していたのですが、2022年の夏から自社の醸造所で本格的に生産・販売をスタートさせました。ECサイトで販売していて、石巻郵便局に集荷をお願いしています。

イシノマキ・ファームの醸造所「イシノマキホップワークス」で醸造したクラフトビール。

石巻郵便局 局長 川島 道徳(かわしま みちのり)さん

地元で栽培したホップでクラフトビールを造るというのはすばらしい取り組みだと思います。おいしいビールを全国に発送するお手伝いができるのは非常にありがたいですね。ECサイトのビール配送のほかには、ビール樽を飲食店へゆうパックでお届けしています。地域をいっしょに盛り上げることができてうれいしいです。

石巻郵便局 郵便部 主任 齋藤 佑葵彦(さいとう ゆきひろ)さん

他社に委託して造っていたビールを自社で醸造するというタイミングで、石巻郵便局が集荷をお手伝いすることになりました。ECサイトでのビールの販売分は、年間で計700件くらいの集荷を予定していましたが、今年は1,000件を超える勢いです。私は、地元が石巻ということもあって、こういう形で地元をいっしょにどんどん盛り上げていきたいですね。

髙橋:これまでの成果の一つとして、2022年度の取り組みでイシノマキ・ファームは「ノウフク・アワード」でチャレンジ賞をいただくことができました。これは農林水産省が農福連携の事例を表彰するもので、ソーシャルファームでのホップや野菜の栽培のほかに、ビール醸造の活動で社会的弱者の雇用を創出していることが評価されたものです。現在は、ビールのボトルのラベル貼りや箱詰め作業で単発のアルバイトをお願いしていますが、ゆくゆくは、定期的なアルバイトや正社員などを雇用できればと考えています。

もとは映画館だった建物に醸造所を開設。石巻産のビールで地元を盛り上げます!
左から、石巻郵便局 郵便部主任 齋藤さん、石巻郵便局 局長 川島さん、イシノマキホップワークス 岡さん、派遣者の藤本さん、ローカル共創イニシアティブ 事務局の横尾さん

農業×福祉。農福連携で地域の課題解決に取り組む

お互いのビジョンを語り合う、高橋さんと藤本さん。

――あらためて石巻ではどういった課題があるのでしょうか。

藤本:2020年の数字ですが、生活保護世帯の子どもの学校の中退率は石巻市で7.7%。全国平均の4%と比較して高いのが実情です。また、これは石巻市に限ったことではないですが、一次産業の従事者が減少傾向にあるとともに高齢者が増えています。後継者が見つかりにくいことも課題です。

――イシノマキ・ファームが進めるソーシャルファームは、地域の課題解決につながっていますね。

藤本:そうですね。イシノマキ・ファームは、石巻市から受託して石巻農業担い手センターもやっていて、新規就農希望者のサポートにも取り組んでいます。後継者が見つからない課題と新規就農希望者とのマッチングは、担い手センターだけでは目が届かないところもあるので、より地域に深く入っている郵便のインフラの活用可能性もあるのではないかと思います。連携して課題解決を進めていきたいですね。

――高橋さんは、藤本さんが日本郵政グループから出向している間に取り組みたいことはありますか。

高橋:都会はもちろん、人里離れた集落にまで郵便局があるので、日本郵政グループが持つリソースはすばらしいなと思っています。ダイバーシティの観点で、社会的弱者と呼ばれる人やグレーゾーンの人が働く場づくりをいっしょに創り上げていきたいというのが、私が藤本さんとやってみたい目標です。

藤本:そうですね。農業と福祉という農福連携で、さらに何かできないか動いているところです。やっていることは間違いではないと感じていますし、これからも農業を通じて地域の課題解決に向き合っていきたいと思います。また、出向期間中にイシノマキ・ファームと郵政のコラボビールも作ってみたいです。

※撮影時のみマスクを外しています。

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