私のオンとオフ スイッチインタビュー 「正論で人は動かない」剣道五段のゆうちょ銀行社員が語る、能力を引き出すコツ

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全国24,000ある郵便局、そして日本郵政グループの社員はおよそ40万人。この企画では、それぞれの立場で仕事に取り組む社員の姿勢と知られざるプライベートでの横顔、そんなオンとオフの両面で活躍する社員の魅力ある個性を掘り下げていきます。今回は、東京都豊島区にあるゆうちょ銀行 豊島店で、営業メンバーの育成を担っている田中秀和(たなか ひでかず)さんを訪ねました。多様な地域での接客経験を武器に後進指導を行いつつ、休日は母校の体育会剣道部にも顔を出し後輩の成長にも寄与しています。オン×オフの相乗効果から生まれる、田中流・相手の能力を引き出すコツとは?

ゆうちょ銀行 豊島店
田中 秀和(たなか ひでかず)さん
2016年入社。ゆうちょ銀行 豊島店に配属され、1年間の窓口業務を経てFC(ファイナンシャル・コンサルタント)に。京橋店・深川店・葛飾店と複数の店舗での勤務経験を重ね、多様なマーケットや顧客事例を短期間のうちに多く経験。2021年4月に豊島店へ戻り、FCを育成するFCO(ファイナンシャル・コンサルタント・オフィサー)として活動。プライベートでは、3歳から剣道に打ち込み、最近は母校の立正大学体育会剣道部へボランティアで通い、後進の指導も行っている。
多様な地域での接客経験を、後輩育成の武器に
──田中さんはゆうちょ銀行 豊島店でFCO(ファイナンシャル・コンサルタント・オフィサー)という役割を担っているとか。どのような役割なのでしょうか?
田中:お客さまのライフプランに合わせ、中長期的な視点から資産運用のアドバイスをする社員をFC(ファイナンシャル・コンサルタント)というのですが、そうしたFC社員を育成するのがFCO(ファイナンシャル・コンサルタント・オフィサー)で、FC社員に対し研修やOJT(※)を行っています。管轄のブロック(6店舗)に属する全FC35名を対象に勉強会を開催することもありますし、今年は4名の新入社員にお話しする機会もいただきました。
(※)On-the-Job Trainingの略。上司や先輩などが実務を通じて必要な知識やスキルを伝えていく育成方法。

──田中さんご自身もFCだった時期があるのでしょうか?
田中:はい。入社1年目は銀行の窓口業務を行い、2年目からお客さまを担当するFCとして資産運用のお手伝いをしてきました。FCOになった2021年4月まで、FCとして従事していたのですが、さまざまなお客さまの人生やライフプランに関われることにやりがいを感じ、お客さまの話をよく聞いて信頼関係を育んでから契約に至ったときは特にうれしかったですね。
──プレイヤーでなく管理職であるFCOになって感じている、仕事のやりがいは?
田中:育成している社員と信頼関係が築けると、「お客さまにどうご提案したらよいか?」とアドバイスを求められることがあります。そんなときは、お客さまのご年齢などを聞き、「この年代の方であれば、これからの人生で、結婚やマイホーム購入などのイベントがあるかも」などと仮定した上で、その場合のお客さまのニーズを想定しながらご提案のストーリーをいっしょに考えるんです。そして、「アドバイス通りにご提案したら、お客さまにご納得いただけました!」と報告してもらったときが、FCO冥利に尽きる瞬間です。

──田中さんがFC時代に培ってきた経験が役に立っているのでしょうか?
田中:そうかもしれません。私の場合、FCになってから短期間のうちに、豊島店、京橋店、深川店、葛飾店と複数の店舗で勤務していました。都心から郊外まで、同じ東京都内でもいろいろな地域のお客さまの接客を経験させてもらったおかげで、後輩に話せる事例が多いのかもしれません。
──伸び悩んでいるFCがひと皮むけて成長するために、田中さんは普段どのように向き合っていますか?
田中:「いつも見守っているよ」と伝えるように心がけています。FCは営業職でもあるので、お客さまからなかなか認めていただけないときは精神的に辛いんですね。だから私は、そうした辛いときも「いつも見守っている」と伝えることで、育成しているFC社員のモチベーションを切らさない存在でいたいと考えています。
剣道がきっかけで日本郵政グループに
──仕事が忙しい中でも、プライベートでは剣道に打ち込んでいらっしゃるとのこと。剣道を始めたきっかけや剣道歴を教えてください。
田中:高校まで剣道をやっていた父が、同級生に「久しぶりに打ち合おうよ」と誘われた時に、3歳の私を連れて行ったのが始まりでしたね。最初は道場に通い、中学校から大学までは部活動として打ち込んできました。いっしょにやる友人がいたから、続けられたのかもしれません。小学6年で一級を取り、社会人4年目を終えようとしている2020年2月に五段を取得。肩を痛めたりして遅れることもありましたが、おおむね取得できるタイミングで審査に合格できたと思います。
──日本郵政グループ入社のきっかけも剣道だったとお聞きしています。
田中:そうなんです。大学時代の監督がたまたま日本郵政グループの社員で、その縁で社員の方々が集まる稽古にお誘いいただいて。それで社会人の練習に初めて合流したら、皆さんあたたかく迎え入れてくださいました。優しい方ばかりで、社会人の目線でものごとを捉えるきっかけになったと思います。
──通っていた大学の剣道部の監督が日本郵政グループの社員だったんですね!
田中:ええ。大学時代に私は「主務」という、マネジャーのような仕事もしていたんです。練習試合を組むために相手とやり取りしたり、大学に高校生を呼ぶ錬成会の運営をしたり。監督とは毎日のように電話して密にご指導いただき、「資料作成はこうやるんだよ」「メールの文面はこう書いてみよう」など、社会人になってからも活かせることを学ばせてもらいました。監督のような「信頼できる大人がたくさんいる環境なんだな」と思ったことが日本郵政グループに入社したいと感じた理由の一つですね。

──入社後は日本郵政グループで働く方々が出場される「全国郵政武道大会」で団体戦2連覇(2018年・2019年)、個人戦だと2019年に3位入賞されたとのこと。
田中:全国から300〜400人が集まる社内大会です。私以外にも母校から入社した先輩・後輩とお会いする機会でもあるので、自然と「頑張らなきゃ」という気持ちになります。大会で結果を残すためにも、毎週水曜の稽古にはなるべく欠かさずに参加したいなと思っています。
──近年は母校の立正大学体育会剣道部で、後進に向けた指導も行っていらっしゃるそうですね。
田中:2020年4月から毎週土曜・日曜に通っています。新型コロナウイルス感染症が拡大し始めたころ、もともと5人いた監督・助監督・コーチのうち4人も指導者が抜ける事態になったんです。それで監督からお話をいただき、恩返しのつもりで「もちろんやりますよ!」とボランティアをお引き受けしました。

剣道も仕事も、相手を見守ることで能力を引き出す
──学生さんに対する剣道の指導が、仕事でのFCに対する研修やOJTに活かされる側面はあるのでしょうか。両者に共通して心がけていることがあれば教えてください。
田中:やはり、私がかかわることになったFCや学生全員に「見守っているよ」という姿勢をきちんと伝えていくことですかね。相手にその気持ちが伝わらないと、モチベーションや行動の変化につながらないと思います。すれ違ったときに声をかけたり、元気がなさそうであれば連絡してみたり。一つ一つの行動はたいしたことないですが、その積み重ねが大事だと信じています。

──田中さんが見守り、導いたことで結果に表れた例はありますか?
田中:剣道では、新しくキャプテンになった学生が人間的に成長してくれていることでしょうか。毎年「どんな部にしたいか」という活動方針を作ってもらうのですが、ビジョンを明確化させるために、私が質問を重ねて深掘りしていくんです。そうすると「剣道部のことをもっとしっかり考えないといけない」というキャプテンとしての自覚が芽生えるんですね。
──「立場が人を成長させる」の最たる例ですね。田中さんは強烈にリーダーシップを発揮するというより、相手の方に伴走して能力を引き出していくタイプのマネジメントをなさる印象があります。
田中:学生時代はもっと厳しくあたってしまっていました。でも、それだけでは他者に気持ちよく動いてもらえないことに気づいて。
──そう感じるターニングポイントがあったのでしょうか?
田中:大学3年の終わりごろに実感しました。当時の私は「ただ活動しているだけでは、強豪校に勝てない」と考え、練習量を確保しようと部員に働きかけていました。私自身は「勝ちたい」という思いに突き動かされていたのですが、剣道部全員がそうとは限らなかったんです。
──勝負にそこまでこだわらない方もいらっしゃいますよね。
田中:そうなんです。私がいちばん怖い先輩だったので「どうして稽古しないの?」と詰め寄ったら、後輩や同期は何も言えなくなってしまう。「そんなこと言われても知るかよ」とヘソを曲げてしまう人も現れました。そういうことが重なり、組織運営をする中で「正論だけじゃ人って動かないんだな」と学んだのです。

──仕事にも通じる考え方ですよね。
田中:はい。育成対象の社員それぞれが大なり小なり悩みを抱えて、お客さまに向き合っているはずです。そういった葛藤を私に打ち明けることで、少しでも前進してもらえたらと思っています。
──最後の質問です。オンとオフ、仕事と剣道それぞれの場面で田中さんが「こうありたい」と考える理想像を教えてください。
田中:オン・オフ問わず、何かあったときに「田中に相談してみよう」と頼ってもらえる人でいたいですね。そういう器の大きさや優しさをいつでもかね備えた人でありたいと思っています。
※撮影時のみマスクを外しています。