アクシデント、年齢、言葉の壁。すべての困難を打ち返していく――。73歳のパラ卓球選手・別所 キミヱと日本郵政の「堅い絆」(後編)

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襲ってくる災難にも折れることのない心

パラ卓球選手としてロンドン、リオ大会に出場した別所 キミヱ(べっしょ きみえ)さんは、日本郵政のサポートも得ながら、73歳の現在も第一線で現役を続けている。障害や年齢、果ては言葉の壁というハードルを飛び越えて活躍する姿は、地元の兵庫だけでなく、日本中で多くの人に元気を与えている。

前編では卓球との出会いから現在までを尋ねたが、「次の目標は」と聞いてみたところ、一転して慎重な口ぶりになった。

周りからは次のパラリンピックを目指すはずと見なされているそうだが、「パリを目指すとは、軽々しくは言えないわね」と、別所さん。

「今はプレースタイルを改革中で、ラケットの板もラバーも変えて試行錯誤をしているところなんよ。もっともっと強くなりたいと毎日練習しているんやけど、ワールドマスターズが再延期になっちゃったから、その変化が通用するかどうか試せてない。そんななかで、大きなことは言えないかな......」と、あくまで冷静な姿勢だ。

髪飾りとともに、蝶々が別所さんのトレードマーク。「マダム・バタフライ」の愛称でも呼ばれる

実は、ここ数年、別所さんは災難に見舞われているという。

「2018年に交通事故に遭われて脚を骨折しているんです。車椅子も新しくせざるを得なくて、その調整も大変だったそうです」と、日本郵政株式会社 オリンピック・パラリンピック室の矢嶋 あやか(やじま あやか)さんが教えてくれた。

国際大会に復帰したときには、仲間から「キミヱ、大丈夫?」と心配する声がたくさんかけられたそうだ。ケガやトラブルに遭った選手が、そのまま競技をやめてしまうことも多く、復帰できる人は珍しいという。

「日本郵政さんのサポートは本当にありがたい。2015年に仕事を辞めて競技に専念したんやけど、働いているときには職場の人たちの理解に助けられたのね。でも、仕事をしてきたことが、卓球にもすごく役に立ってるんよ。私はいつもメモを持ち歩いて気付いたことを書き留めているんやけど、これも仕事のときの習慣から。すべてのことは卓球につながっていて」(別所さん)

「パラアスリートを支援することは、多様性の原点とつながる」

日本郵政株式会社 オリンピック・パラリンピック室 矢嶋 あやか(やじま あやか)さん

日本郵政のサポートは、2012年のロンドンパラリンピックに始まり、2015年に別所さんが郵便局を退社してからも続けられている。矢嶋さんは、発信力のある別所さんをサポートする意義を見出している。

「別所さんへのサポートは2022年で10年になります。私が直接の担当になったのは2019年からですが、いつも会うたびに『今日も元気をもらっちゃったな』と感じています。日本郵政グループで働いている全国40万人の社員のなかには障害を持った人たちもいます。

もちろん、郵便局をご利用いただいているお客さまのなかにも、いろいろな障害を抱えていらっしゃる人がいます。私たちがパラアスリートを支援することは、日本郵政グループの多様性の原点とつながっていると考えています」(矢嶋さん)

常に前を向くことを忘れない別所さんは、自分のやってきたことに自信を見せつつも、努力し続ける大切さを忘れていない。

「私は、死ぬまで卓球していたいと思うのよね(笑)。褒められるとうれしいし、いいと思うことは素直に受け入れるようにしてるから。大きな目標って、一気に達成することはできないから、一歩ずつ積み重ねていくしかないと思う。やるべきことやってから、その先が語れるのよ。

とにかく、とことんやる。誰よりも練習している自信はあるけど、やらないうちから諦めちゃダメ。やれば必ず結果が出るのよ」(別所さん)

困難を乗り越えることで、さらに前に進む力を得ている

競技を長く続けていくには、カラダのケアも重要だという。気持ちのうえで年齢は気にしていないというが、時を重ねたカラダにはそれなりのきしみも出てくる。きちんとトレーナーからのケアを受けることで、ベストの状態を維持する努力も欠かさない。

「私が頑張っていることで、若い人たちの励ましになっているのなら、まだまだ頑張るわ。卓球があるから、元気でいられるのよね」(別所さん)

別所さんがいつも持ち歩いているというメモ帳。その表紙には、「一点をとれるのは何か?」と書かれている。その真意を聞いてみた。

「これはコーチの言葉ね。卓球は野球みたいに逆転満塁ホームランはないから、1点ずつ積み重ねないと勝利にはたどりつかないのよ」(別所さん)

別所選手がいつも持ち歩くメモ帳。表紙には「一点とれるのは何か」

矢嶋さんは最後に、パラアスリートとしてだけでなく、一個人としても影響を与え続ける別所さんについて、改めて語ってくれた。

「別所さんは、アクシデントのたびに心が強くなっているんじゃないかと思います。私が担当になってから得た気付きは、『困難をプラスに変える力』がとても大切なんだということ。

コロナ禍でも前を向こうとする姿勢は、多くのつらい経験を乗り越えてきた方ならではだなと思います。困難に直面して諦めるのではなく、なんとかして克服しようという気持ちの持ち方は、社内に対しても強いメッセージとして伝わっています。

別所さんがチャレンジする限り、応援を続けていきたいと思いますね」(矢嶋さん) 

インタビュー動画

※撮影時のみマスクを外しています。

アクシデント、年齢、言葉の壁。すべての困難を打ち返していく――。73歳のパラ卓球選手・別所キミヱと日本郵政の「固い絆」(前編)
            

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