寒い! 滑る! 見えない! 零下20度の極寒地、北海道北見市を駆ける配達員が語る運転の心得とは?

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北は北海道から南は沖縄まで、日本全国2万4,000の郵便局と40万人のグループ社員。気候や地形など、土地によって様変わりするさまざまな環境のなかで、配達員たちは工夫をこらしながら日々お客さまに郵便物をお届けしています。今回登場するのは、冬はマイナス20度にもなるという極寒の地、北海道北見市で配達を行う北見郵便局の久保 麻美(くぼ あさみ)さん。積雪や凍結により、細心の注意が必要な路面状況のなか、安全に郵便物をお届けするためにどのような努力をされているのか、お話を伺いました。

入社当初は1日10回も転倒、配達員泣かせの雪道

北海道の東部に位置する北見市は、人口約11万4,000人のオホーツク圏最大の都市。同エリアにおける商工業・サービス業の中核として栄えながら、農業や漁業、林業もまた豊かな自然に育まれ発展してきた地域です。久保 麻美さんは、そんな北見に生まれ、育ち、そして現在も北見に住みながら、郵便配達の仕事に携わっています。

「自然も豊かで空気がおいしいし、町も昔に比べると栄えてきて住みやすい。私にとって北見は"ちょうどいい田舎"という感じなんですよね。これからも、ずっと北見の近くで暮らしていきたいと思っています」(久保さん)

久保さんが勤める北見郵便局

郵便局に入社するきっかけとなったのは、高校時代の進路指導の先生のすすめ。そこから配達一筋で勤務を続け、今年で11年目。高校のバトミントン部で培った忍耐強さを武器に安全運転技術を磨き続け、昨年には二輪車の安全な運転を競う「二輪車安全運転コンテスト全国大会※1」の北海道代表に選ばれました。現在は後輩の指導や、班長をサポートする立場となった久保さんですが、入社した当初は「雪道が嫌で嫌で、しょうがなかった(笑)」と振り返ります。

※1......日本郵便株式会社が社内で開催している、二輪車の安全運転に関連する運転技術や法令等、さまざまな項目について、全国13支社から選出された各支社代表社員により競う全国コンテスト。

「当時は今よりも降雪量が多くて、免許を取ったばかりだったということもあるのですが、1日に何回も転んでいました。多いときで10回、転んだ日もあるんじゃないかっていうくらいで......。二輪車を起こそうと苦戦していると、町の人が家のなかから出てきて手伝ってくれるということもよくありました。わざわざ車を止めて手伝ってくれた人もいたし......、本当に北見の人の温かさに助けられてばかりでしたね」(久保さん)

雪の中、配達中の久保さん

雪国、北見。久保さんが子どもの頃には家の窓が埋もれるくらいまで積雪したこともあったそう。現在は年に3〜4回の雪かきで済むほど降雪は減っているそうですが、それでも雪道が危険であることには変わりません。2022年の冬は例年よりも降雪が多く、特に苦労していると言います。

「降雪する日数が少ない分、降る間隔が空くので、車で圧雪されて路面が凍結した危険な状態(アイスバーン)となります。またどれだけ注意をしていても、ツルツルになった路面に雪が降ることでアイスバーンに気づかず転倒をしてしまうという危険性もあります。車通りの多い市街地はそのような状況なのですが、田舎道となると今度は吹き溜まりや、ガタガタ道など、また違った雪道の難しさに直面します」(久保さん)

もう一つ、久保さんが危険を感じるのは「雪山」の存在だと言います。雪山とは、除雪された雪が路肩に積み上がっている状態のこと。そこから突然人や車が飛び出してくることもあるので、高く雪山が積み上がっているところは特に注意して走行していると久保さんは言います。このように雪道にはそこかしこに危険が潜んでいますが、「視界不良」という悪条件が加わるとさらに危険性が増します。

雪山のある交差点では注意深く安全確認をします

「雪道が危険であることは配達員に限らずすべてのドライバーに共通することです。しかし、配達員は1日の半分以上を道路の上で過ごすという仕事。常に危険と隣り合わせで配達しているという状況では、自分の命が一番大事ですし、お客さまの郵便物も守らなければいけないし、自分がもしかしたら危害を加えてしまうかもしれないという危険性もある。そういったことを常に意識しながら、すごい緊張感を持って毎日業務にあたっています」(久保さん)

先輩の教えや社内研修で雪道への苦手意識を克服

実際に久保さんが雪のなか配達するうえで、どのようなことを実践しているのか、お話を伺いました。

「まず、出発する前の車両点検は毎日欠かせません。配達用の二輪車は、冬タイヤ(スタッドレス)に専用のタイヤチェーンを巻くことがあります。また、冬タイヤは柔らかく曲がりにくいので、夏タイヤから冬タイヤへ切り替えたときは、いつも慣れるのに苦労します。また配達中は、気温がマイナス20度になることもあるので、配達員の防寒対策も必須です。会社で支給されているブルゾンやジャンパーの下に、自分でスウェットやセーターを重ね着して、多いときには全部で5枚も着込むことがあります。ただし厚着をしすぎると運転に影響が出るので、いかに薄くて温かい服を選ぶかが肝ですね」(久保さん)

専用のタイヤチェーンを巻いた状態の冬タイヤ
配達中は十分に厚着をして防寒対策をしています

また冬道での走行中は、凍結路面でのスリップや転倒などの「不測の事態」に備えながら安定した走行をするために、運転姿勢やバランスを保つことに細心の注意を払っているそうです。

「私は、右足はいつでも踏めるようブレーキに足をかけておいて、左足を地面スレスレの場所に降ろしてバランスをとるという体勢で走っています。体の重心は少し後ろに傾けておくと、より姿勢が安定するように感じますね。走りながらも危険をすぐ察知できるよう、意識は四方八方に向けています」(久保さん)

左足を地面スレスレに降ろしてバランスを保つ姿勢を意識した走行

転倒しないためのテクニックだけでなく、実際に転倒してしまったときの対処法、安全な転び方やバイクの起こし方なども、もちろん雪道を走る配達員たちは心得ています。こういった知識や技術は先輩たちによって代々受け継がれているだけでなく、久保さんも入社初年度に受けた「冬道サポート研修※2」でも指導をしています。

「冬道サポート研修では、はじめて冬道を走る人に向けて、冬道とはどういう道なのか、どういう危険が潜んでいるのかといった基礎知識や、運転のコツなどをレクチャーする講習です。アイスバーンはどれくらい滑るのか、倒れてしまったバイクはどれだけ重いのかなど、実地研修を通じて身をもって体験してもらうことで、冬道に慣れてもらいます」(久保さん)

※2......日本郵便株式会社北海道支社主催で実施している社員研修。主に冬期間、初めて郵便車両を運転する配達員などを対象に、冬道(積雪路面や凍結路面)における安全な運転方法などの会得を目的に毎年開催している。

ひとたび路上に出れば、トラブルはすべて自分一人で対処しなければいけません。なので、まずは周りに助けてくれる人がいる状況で少しずつ雪道に慣れていくのです。

大好きな北見の町や人に貢献していきたい

昨年度、久保さんは冬道サポート研修に指導者として参加しました。教えられる立場から、教える立場に。配達員11年目を迎え、久保さんは着実に次のステップへと歩みを進めています。

「最初は嫌だった雪道を乗り越えられたのも、郵便局の先輩や仲間が技術の面でも気持ちの面でもすごく支えてくれたことが大きかったと思います。もちろん、町の人にもすごく助けていただきました。毎日配達をしてくれると、おじいちゃんおばあちゃんとかがよく話しかけてくれまして、そういった毎日お会いする方々とのたわいもない会話が仕事をするうえで、一番楽しい。大好きな北見の町に貢献できている、地域密着で働けているというところに、日々やりがいを感じています

北見の町とともに、困難を克服できたという久保さん。今日もまた雪道を走りながら、町の人たちに笑顔と郵便物を届けています。

※撮影時のみマスクを外しています。

            

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