未来の物流レボリューションVol.1 ドローンやロボットが当たり前のように街を行き交う未来がやってくる!?

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私たちの生活に欠かせない「物流」は、今後どのように変化していくのでしょうか。本企画では、日本郵政グループの物流の未来を創るために改革を起こすキーパーソンへのインタビューを通して、これからの街や暮らしを支えていく物流の未来像を描いていきます。

第1回は、日本郵便株式会社オペレーション改革部でドローンや無人配送ロボットの実用化に取り組む伊藤 康浩(いとう やすひろ)さんに、現在の取り組みや目指す物流の未来の姿、そこに込めた想いについて伺いました。

日本郵便株式会社 オペレーション改革部 係長

伊藤 康浩(いとう やすひろ)さん

2010年に入社後、郵便局での勤務を経て、IT企画部で基幹システムの開発に従事。2018年には国土交通省の航空局に出向し、2年間ドローンの法整備・制度整備に携わり、そこでの知見を活かしながら現在オペレーション改革部で係長を務める。

人をアシストするドローンとロボットで、人口が減少する未来に備える

――まず、2016年にドローンによる配送への取り組みを開始された経緯と、その目的について教えてください。

伊藤:現在、当社では1日に全国でおよそ3,100万カ所に配達をしています。2020年度は、郵便物、荷物を含めて約200億通弱で、35万人を超える社員が日本郵便の仕事に携わっています。

日本ではこれから、15~64歳の生産年齢人口がどんどん減っていくと言われています。もちろん今と同じネットワーク、配達数・配達先が将来的に維持されることはないと思いますが、仮に2060年に同じ状況だと、約半分のリソースで業務を行うことになります。

今の構造のままで果たして持続可能な事業なのか。そうした危機感のもと、日本郵便ではドローンやロボットを配達に役立てられるような取り組みをスタートしました。

世の中のインフラは「人」に合わせて作られているため、ドローンもロボットも人とまったく同じことはできません。ただ、"人のアシスト"には役立つと考えています。いずれ来る人手不足に向けて、今からしっかり準備をしておく。問題が起きてからでは遅い。そういう観点で「できるところから活用していこう」というコンセプトで進めています。

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――かなり先の未来を見据えたプロジェクトなのですね。

伊藤:実は、今すでに配達が困難になりつつある場所もあるんです。郵便物はバイクでの配達が主ですが、バイクですら配達ができない場所が全国にはたくさんあります。

例えば、2017年の話ですが、近畿のとある山の頂上にある神社に、当時75歳の配達員が13年間、毎日片道1時間半かけて1〜2通の郵便物を届けて「1万回登頂しました」というエピソードが記事になりました。

その人がいなくなると、誰も担い手がいなくなるような場所は他にもあります。配達する量に対して、どう人を配置するかといったルールはありますが、特に中山間地域をはじめとして、人が集まりにくくなっている場所も出てきています。中長期的なドローンの活用を見据えながらも、まずはそうした場所から導入を始めていきたいですね。

山間部へのラストワンマイルでドローンが飛び回る未来へ

――今、ドローンの実用化に向けてどのような体制で取り組んでいますか?

伊藤:日本郵便はエンジニアリングの機能は持っていないため、私たちが「こういう場所で、こういうやり方でドローンを使っていきたい」というコンセプトやユースケースを示し、それに対してドローンのメーカーさんに適合する機体を用意していただくスタイルを取っています。

物流のドローン市場は今、ほぼ「ゼロ」なんです。市場がないので、誰も開発するインセンティブを持っていません。そのため、物流専用の機体ではなく、一般的な機体に荷物を取り付けられるようにするなどカスタマイズしてきました。

ただ、それでは実用化が難しいので、株式会社ACSLへ日本郵政キャピタルから出資をして、2021年6月15日に日本郵政グループとして資本業務提携を行いました。ACSLの社内に、私たちのための開発やユースケースを専業で考える物流分野の専門チームを作ってもらい、ドローンの専業開発体制を整えているところです。

株式会社ACSLが開発する配送用ドローン
株式会社ACSLが開発する配送用ドローン
※配送物の搭載機構はイメージ

――奥多摩町(東京都)でドローンの実証実験をされてきましたが、実用化に向けて今はどれくらいのところまできていますか?

伊藤:奥多摩町での3カ年の実証実験を経て、実際にドローンが「どんな物を、どういう所に運ぶことができるか」がわかってきました。着陸場所を家の敷地のなかに指定して、そこにドローンを着陸させ、荷物や郵便物を切り離して置き配するという方法です。

奥多摩町でのドローン配送の実証実験
奥多摩町でのドローン配送試行

ただ、同時に「ドローンだけでは配達できない場所がある」ということもわかってきました。奥多摩町も含め、私たちがドローンを使っていきたいところは主に中山間地域のラストワンマイルですが、そういう場所は切り立った斜面に家が建っているため、ドローンが着陸できない場合も多いのです。あとは林の中に家が建っていて、家の屋根しか見えないような場所もあります。

こうした課題があるため、今はまだ、ドローンは中山間地域で「使える場所では使える」という状況です。また、天候に対する対応性にも欠点があり、多少の雨なら飛べますが、強い雨が降ると使えません。人と同じことはできないにしても、今後は改善していかなければいけませんね。

今のところドローンは、自動で着陸して荷物や郵便物を置いて帰ってくるので、受け取り方法にも課題があります。新型コロナウイルスの影響もあって「置き配」というキーワードもだいぶ浸透してきましたが、安心してお受け取りいただくためには、どういう方法がよいのかを、考えていかないといけません。

――ドローンの実用化に向けて、他にどのような課題がありますか?

伊藤:制度や技術の話もありますが、一番大事な部分は「世の中に受け入れてもらえるかどうか」だと思っています。今は、空を見上げてもドローンが飛んでいることはほぼないので、ドローンが飛ぶと目が行きますよね。

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でも、いずれは飛んでいるのが当たり前で、誰も空を見上げないという姿を作っていかなければいけない。そうなって初めて、インフラになっていくと思うからです。大きなハードルでもありますね。

そのためには、実際にサービスを提供していくことだと考えています。見世物としてやるのではなく、しっかりと地に足をつけて、数カ所からでもよいので実際にドローンを使って毎日配達をすることで、街に溶け込んでいる風景を発信していきたいです。

――ドローンが当たり前のように日本中に飛び回るようになると、局員の仕事やお客さまの暮らしはどう変わりますか?

伊藤:例えば、今は配達のブロックを4人で分担していたとしても、少子高齢化の現状に鑑みると、いつ、3人でやらなければいけなくなるかわからない状況です。でも、山の上にぽつんとある一軒家にだけでもドローンで配達できれば、山道を登って下りてくる労力を割かなくて済みますよね。そうすると、3人でそれ以外の場所をバイクで回れます。局員の方に対しては、今後人手が少なくなってくるなかでも、無理なくしっかり業務運行を確保していただけることを第一に考えています。

お客さまにとっては、今は人手で毎日お届けができていますが、今後私たちの人手が少なくなっていったとしても、全国津々浦々どこにお住まいになられていても、質を落とさずに持続可能なサービスをご利用いただけるようにし続けること、これが重要な点だと考えています。

人に、街になじむデザインの無人配送ロボットが、配送や集荷をする未来へ

――配送ロボットの取り組みにも力を入れていらっしゃいますね。

伊藤:はい、配送ロボットの使い方は、屋外と屋内の2パターンがあります。屋外ではドローンと同じように、まずは中山間地域での配達に役立つように検討しているところです。屋内は、いわゆる都心部のオフィスやタワーマンション、商業施設など、一カ所あたりの配達に時間がかかる場所で使っていくイメージです。

屋内では日本郵便がロボットを持つというよりも、ビルのアセットの一部となれば、他の配送業者さんも便利になるというコンセプトを打ち出しているところです。将来的に屋内と屋外をシームレスに走るロボットが出てくると、例えば自治会・エリア単位でロボットを所有し、シェアリングするということにもなるかもしれません。

――無人配送ロボットの実用化に向けては、どういった体制で取り組まれていますか?

伊藤:2020年に日本で初めてとなる公道での実証実験を行った配送ロボット「DeliRo(デリロ)」は、スタートアップ企業の株式会社ZMPと進めています。ドローンと同じく、「当たり前の風景にすること」が目標です。

「DeliRo」は主に歩道を走るのですが、目の前に大きいスーツケース2個分ぐらいの謎のロボットがやって来るわけです。「ロボットが通行しています」と言いながら走行しますが、出会った歩行者の方は「自分はどう動いたら安全にすれ違えるだろう?」「このロボットは次にどんなアクションをとるのだろう?」と少し不安に感じることもあると思います。

無人宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」の公道での実証実験
無人宅配ロボット「DeliRo(デリロ)」の公道での実証実験

そういうなかで、性能はもちろん、コミュニケーションやUI(ユーザーインターフェイス)でも工夫が必要です。例えば見た目の親しみやすさや可愛らしさは、受け入れやすさにつながります。一番大きな課題である受容性を獲得していくために、デザインはとても重要な要素ですね。

屋内ユースのロボットとしては、Rice Robotics社の「RICE(ライス)」を使って、オートロックシステム付きのマンションでエレベーターを使って荷物を配送するような検証をしています。さらにもう一つ、「JAPAN POST INNOVATION PROGRAM※」で採択された株式会社DFA Roboticsの「YAPE(ヤペ)」という二輪配送ロボットの検証も行っています。

※日本郵便株式会社がスタートアップ企業をはじめパートナー企業との共創を目指すオープンイノベーションプログラム。郵便・物流網への挑戦を続けつつ、2021年からは新たに金融分野でも顧客体験の刷新を通じて多様なニーズに応えるとともに、社会課題の解決につながる価値の共創に取り組んでいる。

――これらの配送ロボットを活用していくうえで、越えなくてはいけない"壁"はありますか?

伊藤:配送ロボットの走行は、3Dマップを作ってロボットにインストールをして、そのマップをベースに頭のライダーとセンサーとビジュアルのカメラの3つの技術を組み合わせて成り立っています。自動運転の車と同じような技術構成で、大粒の雨が降るとそれを障害物だと誤検知することがあるのです。「天気に左右されず対応ができること」が、課題の一つですね。

ドローンや無人配送ロボットで実現する物流の未来像とは?

――ドローンとロボットを組み合わせて使うことで、物流のカタチはどのように変化していきますか?

伊藤:ドローンは、1軒に対して1個の荷物や郵便物を運ぶ「点」の配達です。一方、配送ロボットは、家を回って運ぶ「面」の配達です。例えば、2つを組み合わせることで、山の斜面にあるようなドローンで着陸できないようなところでも、配送ロボットが家の前まで行って置き配をすることが可能になります。

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また、ゆくゆくは、荷物や郵便物の「引き受け」にも使っていきたいと考えています。コンビニも、郵便ポストも、郵便局の窓口も、毎日同じ場所を回って同じ時間に回収する必要があります。時間も場所もルートも一緒なので、将来的には、毎日の集荷や取集に活用できないかという検討も、今後深めていこうとしています。

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無人配送サービスによる未来のイメージ

――最後に、伊藤さんの物流への想いについてお聞かせください。

伊藤:実は私、中学3年生から「郵便を届ける仕事」に興味があったんです。この話をすると、あまりにもよくできたエピソードで、まわりにイジられることもありますが(笑)。昔、危篤状態だった祖父に私は「受験に合格したよ」という手紙を送って、枕元で祖母がその手紙を読んだら、翌日急に元気になって退院したんです。

さらに、その手紙を出すときに郵便局の窓口に行ったら、局員の方が「ちょっと待っていて」と言って裏に走って行き、トラックを止めて私の手紙をトラックに入れてくれたんです。もし、そのトラックに乗らなかったら、手紙が届くのが遅くなって、間に合わなかったかもしれません。

「人と人をつなげるって、すごい」という実体験をしたことで、私はこの会社を好きになりました。

今は、手紙やはがきを送る機会が少なくなり、情報を届けるかたちも変化していますが、私のなかで変わらず心に決めているミッションが二つあります。

一つは、日常の風景に溶け込んでいるからこそ目立たないけれども、当たり前によいサービスを提供し続けること。もう一つは、今後もインフラとして、全国のどこに住んでいる誰に対してもサービスを提供し続けること。

情報を運ぶかたちは変わっても、物理的に何かをお届けする必要があるということは変わらないはずです。これを30年後であろうと50年後であろうと、続けていきたいと思っています。

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※撮影時のみマスクを外しています

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