「お客さまの声」をAI分析。隠れたリスクの早期検知に取り組む

「お客さまの声」をAI分析。隠れたリスクの早期検知に取り組む

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日本郵政株式会社ではAIを活用して、日本郵政グループに寄せられる年間平均約550万件に上る「お客さまの声」を分析し、潜在リスクやミスコンダクト事象を早期に検知する、リスク検知の高度化に取り組んでいます。
今回は、AIを活用したリスク検知の高度化に取り組むクライシスマネジメント統括部の山下 弘之(やました ひろゆき)さん、真瀬 弘敬(ませ ひろたか)さん、山本 真弘(やまもと まさひろ)さんに、AIを導入した経緯から、導入後の効果と今後の展望についてお話を伺いました。

山下 弘之(やました ひろゆき)さん

日本郵政株式会社 クライシスマネジメント統括部長

山下 弘之(やました ひろゆき)さん

当時の郵政省に入省。民営・分社化後は日本郵政株式会社の経営企画部、郵便局長、グループコンダクト統括室長などを経て、2023年4月に新設されたクライシスマネジメント統括部長に就任。

真瀬 弘敬(ませ ひろたか)さん

日本郵政株式会社 クライシスマネジメント統括部 専門役

真瀬 弘敬(ませ ひろたか)さん

東京海上日動火災保険株式会社から日本郵政株式会社に出向。クライシスマネジメント統括部の前身であるグループコンダクト統括室を経て、2023年4月から現職。AIによる解析業務に従事。

山本 真弘(やまもと まさひろ)さん

日本郵政株式会社 クライシスマネジメント統括部 グループリーダー

山本 真弘(やまもと まさひろ)さん

当時の郵便局株式会社に入社。2020年4月に日本郵政株式会社に転籍し、リスク管理統括部、グループコンダクト統括室を経て、2023年4月から現職。

AIを活用して、お客さまの声からリスクを早期に検知

――リスク検知という領域において、AIを活用することになった背景を教えてください。

山下:2019年にかんぽ生命の不適正募集問題があり、その対応として、当時、特別調査委員会を設置し、外部の弁護士の方々にご検証いただくプロセスがありまして、そのなかで、日本郵政グループを取り巻くお客さまの声は宝の山だというご示唆をいただきました。それまでCS部門(カスタマーサティスファクション部門)を中心に、お客さまの声のなかでも特に苦情をピックアップし、それに対応するというステータスだったため、全体の声の2割程度しかきちんと分析できていなかったのが実情でした。

そこで、2020年に日本郵政グループを横断する「JP VOICEプロジェクト」チームを立ち上げ、AI導入の検討と準備を進めました。2022年には「JP VOICEプロジェクト」チームを発展的に解消し、業務を承継するかたちでクライシスマネジメント統括部の前身であるグループコンダクト統括室が新たに「コエ活プロジェクト」を立ち上げ、今に至っています。

――「コエ活プロジェクト」は、どのようなメンバーで構成されているのですか?

真瀬:クライシスマネジメント統括部からは部長の山下と私、山本の3名ですが、そのほかに日本郵政内のコンプライアンス統括部、リスク管理統括部、人事部、グループIT統括部、日本郵便からお客さまサービス統括部という5つの部署から兼務者を迎え、合計15名で運営しています。

――集まった皆さんは、それぞれどのような役割を担っているのでしょうか?

山本:兼務者が所属する5つの部署は、いわゆる未然部署と呼ばれていまして、業務におけるリスクを未然にチェックする立場の人たちです。「コエ活プロジェクト」では、兼務者が所属している部署に関する業務リスクをAIで解決していくことに取り組んでいます。

――「コエ活プロジェクト」のミッションを教えていただけますか?

山下:お客さまの声から、グループを取り巻くリスクを検知することです。そして、現在はこれが大きなミッションの一つですが、将来的には、そこにとどまるのではなく、AIを活用することでリスク検知から始まって商品やサービス、業務改善、さらには経営改善といった領域にまでつなげていけるのではないかと考え、検討を進めているところです。

AIエンジン「KIBIT」導入の経緯、その特徴とは?

――今回のプロジェクトに導入したAIエンジン「KIBIT Knowledge Probe(キビットナレッジプローブ、以下、KIBIT)」は、株式会社FRONTEO(以下、FRONTEO)の製品ですが、なぜ「KIBIT」を採用することになったのでしょうか?

真瀬:AIには画像解析や音声解析など得意分野が異なるさまざまなものがありますが、われわれは、お客さまの声を中心とする言葉にアプローチしたいと考えていました。そのためには、自然言語というテキストを解析するのに長けたAIが必要でした。

その点、FRONTEOさんの「KIBIT」は高度な自然言語処理が可能で、われわれのやろうとしていることにマッチしていましたし、サポート体制が充実していたことも導入の決め手になりました。

山本:「KIBIT」は機械学習のAIなので、AI自らルールやパターンを学習していき、どんどん精度が上がっていく特徴があります。また、「KIBIT」には、暗黙知(個人の経験や勘に基づく知識)と呼ばれるような人間の曖昧なところも理解して判定する能力がある点も魅力でした。

――「KIBIT」の導入や活用にあたり苦労した点はありますか?

真瀬:私自身、過去にAIの業務経験がまったくなかったので、AIを使えば、意に沿ったデータが勝手に抽出されるものだと思っていまして。(笑)でも実際はそうではなくて、まずはAIを使うわれわれが「どういったデータをアウトプットしてほしいのか」をAIに対して適切に入力する必要があったんです。

年間平均約550万件にもおよぶお客さまの声をマンパワーだけですべてチェックすることはできませんので、AIの力が大きいのは事実なのですが、やはり最後は自分の目で、検知すべきリスクを検知できているかチェックしなければなりません。そこは自分のリスク感度を高める必要があり、緊張感もある難しい作業ではありますが、だからこそ自分の存在意義がある。誇りを持てる部分でもあると感じています。

山本:真瀬からリスク感度という話がでましたが、リスク要因は時間の経過とともに変化していくものなので、世の中の動きを見ながら、何がリスクになるのか、何がお客さまのためになっていないのかという"ミスコンダクト"を自分で判断し、AIに学び直させるチューニングが常に必要になります。これは絶対に必要な作業なのですが、難しい作業でもあると感じています。

山下: また、リスクを検知したのはいいけれど、それをスピーディーに業務改善につなげるアクションがないと意味がありません。各部署と連携しながら分析結果の共有を図り、いかに早く変化につなげるかといったところが難しい面であり課題の一つであると感じています。

お客さまの声は宝の山。隠されたチャンスをAIで抽出し、経営に反映させていく

お客さまの声の分析にFRONTEOのAI「KIBIT」を活用した取り組みについては、昨年11月に、日本郵政 増田社長とFRONTEO 守本 正宏(もりもと まさひろ)社長の対談が実施されました。今回はその一部をご紹介します。

増田社長:日本郵政には直近3年間の年間平均で約550万件のお客さまの声が寄せられており、2019年度は600万件を超えましたが、以前はそれらを人の目でチェックしていました。しかし、これは人間の努力の限界をはるかに超える件数でした。

現在は「KIBIT」の導入により、ビジネスチャンスやこれからの改善項目、将来の成長のタネ、ヒントが埋もれているお客さまの声を効果的に解析し、経営資源・経営課題に反映させられるようになりました。

また「KIBIT」は、分析のために作成した4つのモデルできちんと整理して提示してくれるので、対応の判断などを的確かつスピーディーにしやすくなり、経営会議でも月次で紹介し共有しています。年間平均約550万件という膨大な宝の山を、本当に宝にしていくうえで、KIBITの有効性を感じているというのが率直な感想です。

私が就任したころは、不祥事によるお叱りやお怒りの声が山ほどありましたが、怒りの声ばかり見ていると、好意的な人たちの声をスルーしてしまい、全体感を見失う懸念もあります。KIBITの活用で、客観的・公平な解析の観点からも、声を貴重な経営資源にするチャンスが増えました。

FRONTEO守本社長:その企業に好意的だからこそ上がるお客さまの声もあり、正しい判断のためにはそれを見極める技術が必要です。チャンスは必ずしもチャンスの顔をしてやってきません。

FRONTEOのAI技術で重要な声を拾い上げ、活用できるようにするソリューションを通して、全社的な成長戦略への支援や、社会に貢献するビジネスチャンスの発掘に今後も貢献していきます。

AI導入の効果と、それぞれが思う今後の展望

――リスク検知にAIを導入したことで、どのような効果が得られているとお考えでしょうか?

山下:これまでもグループ各社でリスク検知は行ってきていますが、人が行えば、そこにはどうしても正常性バイアス(※)が働いてしまいます。しかし、AIを活用して抽出したデータには、いっさい正常性バイアスが働きません。個人の判断ではなく、AIが解析したデータにより客観性を担保できるようになったのは大きなメリットであり効果だと感じています。

(※)予期せぬ事態やリスクに対して、「これぐらい大丈夫」と正常の範囲内のことと捉え心の安定を保とうとする心理的メカニズム

真瀬:恣意的なデータではなく、AIが客観的に検知したデータであることで、心理的にも、相手が素直に検知結果を受け入れてくれるようになったと思っています。また、それによって、グループ各社でもこれまで以上に緊張感を持ってお客さまの声に接するようになってきたように思います。

山本:個人的に感じているのは、グループ各社や他部署とのコミュニケーションが以前よりも多くなったことでしょうか。日本郵政グループでは郵便や貯金、保険などあらゆる分野の事業を行っていますので、「KIBIT」で抽出した声にも専門的な文言が多くみられ、文言だけでは意味がよくわからないことがあるんです。

その場合は、担当者に聞いて回るのですが、AIを使ってお客さまの声を分析していることを説明すると「あっ、そんな取り組みがあるんだ」とか「われわれも、ここはリスクだと思っていた」という反応も多くて、そこから新たなコミュニケーションが生まれるようになりました。

――最後に、AIによるリスク検知の高度化に取り組まれているなかで、皆さんの今後の展望や意気込みを教えてください。

真瀬:私は、グループ各社の連携や絆を強めることがすごく重要だと思っています。日本を見渡しても、これだけ幅広い事業をグループで行っている企業は稀有な存在です。それだけに、グループのシナジー効果を高めると、新しい価値をお客さまに提供できると思うんです。

AIを活用してリスク検知する取り組みも、グループ内の連携を強くし、シナジー効果を高め合うことがいちばん重要であり、それをサポートできればと考えています。

山本:AIはあくまで手段であって、実際にはAIを使う人のリスク感度の高さや能力、どんなデータを取りたいのかという自分たちの明確な「Will(意思)」を持っていることが前提です。AIというすごい武器を得たものの、それを使いこなせなければ意味がありません。ですから、しっかりAIを使いこなせる体制を整えていきたいと思っています。

山下:私は「コエ活プロジェクト」の前身である「JP VOICEプロジェクト」の立ち上げからプロジェクトリーダーのような役割を担ってきました。今では、真瀬や山本が中心となってプロジェクトを動かしてくれているので、彼らの自主性に任せ、私自身は一歩引いた立場で全体のマネジメントを行うようになっています。

大切なことは、彼らのような人材を増やしていくこと。それがこの「コエ活プロジェクト」をより活性化させるために必要なことであり、私に与えられた使命だと思っています。

※日本郵政 増田社長とFRONTEO 守本社長の対談模様はこちら

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