電気自動車(EV)の充電制御で、電力ピークを抑制! 「電力需給ひっ迫問題」に郵便局が取り組む

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2022年、日本郵便株式会社は、電力需給調整プラットフォームの開発に取り組んでいる東京大学発のスタートアップ企業・株式会社Yanekaraとの協働で、郵便局の集配用電気自動車(EV)の充電を遠隔で監視・コントロールすることにより、郵便局全体における電力ピークを抑制する実証実験を実施(2022年7月25日~同年9月30日)。この取り組みの意義や、その成果について、今回の実証実験にかかわった日本郵便のお二人にお話を伺いました。

日本郵便株式会社 経営企画部 サステナビリティ推進室 係長

千徳 恒憲(せんとく つねのり)さん

2009年、郵便局株式会社に入社。出向先の日本郵政株式会社でサステナビリティやCSRに関する業務にかかわった後、2022年4月よりサステナビリティ推進室に所属。

日本郵便株式会社 晴海郵便局 総務部 部長

松本 孝治(まつもと こうじ)さん

1991年、当時の郵政省に入省。2022年4月に晴海郵便局に赴任し、現在は総務部部長として、職場の環境整備や人事など、総務業務全般にかかわっている。

集配用電気自動車(EV)が戻ってくる夕方に電力ピークが発生

日本郵政グループでは、2021年策定の中期経営計画「JP ビジョン2025」において掲げられた「2050年のカーボンニュートラルの実現」に向け、集配用車両への電気自動車(EV)の導入を推進しています。一方で、近年私たちの身のまわりでも話題となっている電気料金の上昇や、電力需給がひっ迫している問題などを背景に、地域の電力需給を考慮した電気自動車(EV)への充電が喫緊の課題となってきています。

「実際に、電気自動車(EV)への充電状況を比較的配備数の多い東京都内の局などを中心に見ていくと、夕方が元々局内の電力需要の高い時間帯であることに加え、集配を終えた車両が郵便局に戻ってきた直後のタイミングに一気に充電することから、郵便局全体で大きな電力ピークとなっていることがわかりました」(千徳さん)

「郵便局内では、日々の暖房や冷房もさることながら、郵便物を仕分けする『郵便区分機』の稼働に、特に電気を使用します。しかも、郵便区分機が最も稼働する時間は集配の人たちが戻ってくる夕方の時間帯です。そこに電気自動車(EV)への充電が重なることで、大きな電力ピークが発生してしまうわけです」(松本さん)

電力使用が多い時間帯は電気料金が高く設定されているため、電力ピークを抑えたり(ピークカット)、電気料金の安い時間帯にピークをシフトしたりできれば、電気料金のコストの抑制が期待できます。さらには、郵便局全体の電力を抑制できれば、地域の電力需給のバランスを保つことに資するという、地域貢献にもつながります。

電力ピークが重ならないようクラウド上で制御

集配用の電気自動車(EV)への充電タイミングをコントロールすることで、郵便局の電力ピークを抑えようという今回の実証実験。実施場所の選定に関しては、検討の結果、晴海郵便局が選ばれました。

「実証実験の対象となる電気自動車(EV)が多く配備されているという点が決め手となりました」(千徳さん)

しかし実施にあたっては、さまざまな課題があったと、千徳さんは言います。

「既に配備済みの普通充電に対して充電量コントロールを行う場合、これまでのソリューションだと一台あたりの導入費が高く、また設置工事の必要もあることから工期も長くなってしまいます」(千徳さん)

その点、今回の協働先である株式会社Yanekaraの製品「YaneCube」は、EV普通充電コンセントに後付けで接続するだけで充電制御ができるため工事が不要、そのため導入費を抑えることができます。

YaneCubeの実物
既存のEV普通充電コンセントにYaneCubeを挿し込むだけで設置は完了。あとはYaneCubeに充電ケーブルを挿して通常どおりに充電をするだけで、充電制御が可能に

YaneCubeによる充電制御の仕組みは次のとおり。電気自動車(EV)とつながったYaneCubeはクラウドと連携し、郵便局全体における使用電力ピークと電気自動車(EV)の充電が重ならないよう自動コントロールします。これによって、ピークカットを実現することができます。

また、実証実験を実施するにあたって、郵便局への負荷を極力少なくするということは、千徳さんが特に意識していたことでもあり、設置や運用が簡単であることは、大きな決め手となりました。

「最初、YaneCubeの取り付けの様子を見させてもらったときは、『え、これだけでいいの?』と驚きましたね。実証実験の最中も、何の問題もなく社員たちはYaneCubeを取り扱うことができました。自動制御ですし、充電状況はクラウドを通じてYanekaraさんの方でモニタリングされていたので、そういった面で局に負担がほぼなかったのもよかったですね」(松本さん)

電気自動車(EV)の充電データをエコドライブにも活用

実証実験では、通常は夕方の業務終了後に一斉に開始する電気自動車(EV)の充電を、使用電力の少ない夜間帯にシフトすることとし、晴海郵便局の場合、夕方に帰局した後、21:00からの充電にシフトするよう設定を行いました。

その結果、晴海郵便局でのYaneCube16台でのピークカット効果は37.8kWとなり、年間の電気代削減の見通しは約45万円となりました。

また、今回、実証実験を通じて充電データを取得したことにより、当初は想定していなかった、新しい示唆を得ることもできました。

「今回の実証実験の結果から、電気自動車(EV)ごとに、電力使用量にバラつきが出てくるということが確認できました。これの何がすごいかというと、どういう風に乗ると燃費がいいのか、検討するための材料になるということです。エコドライブや安全運転を心がけていくうえで、非常に大きな示唆になると感じています」(松本さん)

最後に、地域に根ざした郵便局という立場から、地域や街の人々と協力しながら取り組みを進めることについて、お二人に想いを伺いました。

電気自動車(EV)を用い事業活動を行っている企業としては、自社のコスト削減のみならず、地域の電力需給バランスを保つといった責任を果たしていく必要があると考えています。それと同時に、今回のような取り組みを郵便局がやっているということを、地域の方々も含め、社内外にちゃんと伝えていけたらなと思っています」(千徳さん)

実は世間の電力需要ひっ迫に対する危機感って、現場でお客さまと接している郵便局の社員が一番肌で感じていることなんです。ちょうど昨年夏に電力ひっ迫が話題になったのと重なる時期でしたし、千徳さんからお話をいただいたときは、地域の人が頑張って節電しているのだから日本郵便としても頑張らなければと、大歓迎でした。それだけ意義のある取り組みだと思いますので、千徳さんのお話のとおり、今回のような取り組みをもっとたくさんの方に知っていただき、よりお客さまに信頼していただける存在になれたらと思います」(松本さん)

(まとめ)
電力需給ひっ迫という、社会からの関心の高い問題とも連動した今回の実証実験。今後、ピークシフトの取り組みを晴海郵便局だけにとどまらず、他の地域へと配備を広げていくことができれば、会社を越えて地域社会に対してより大きな貢献ができるのではないか。そんな期待を込めてこれからも取り組みを進めていきます。

実証実験を協働いただいた株式会社Yanekaraは、令和4年度「東京大学総長賞」を受賞しました。

※撮影時のみマスクを外しています。

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