マイケル・オズボーン教授×日本郵政グループ 「AIと人との協働」で目指す未来

AIと人との協働とは?

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日本郵政グループでは、中期経営計画「JP ビジョン2025 〜お客さまと地域を支える『共創プラットフォーム』を目指して〜」に基づき、幅広い世代・地域のお客さまへ新たな価値を提供することを目指すため、さまざまなDX施策に取り組んでおり、AI(人工知能)技術のさらなる活用についても検討を進めています。

そこで、株式会社エクサウィザーズを通じ、同社のアドバイザーであり、AIをはじめとする機械学習の権威である英国オックスフォード大学マイケル・オズボーン教授をお招きして、日本郵政グループとの意見交換会を実施しました。

【出席者】
●マイケル・オズボーン教授

2005年、西オーストラリア大学で数学、物理学、機械工学で理学士号/工学修士号を取得。2010年には、英国オックスフォード大学で機械学習の博士号(Ph.D.)を取得する。同大学でポスドク、リサーチフェローなどを経て2012年准教授、2019年から機械学習教授を務める。主な論文に「未来の雇用」(2013)などがあり、オックスフォード大学のスピンアウト企業であるMind Foundry社の共同創業者でもある。

●日本郵政グループ
・飯田 恭久(いいだ やすひさ)さん (日本郵政株式会社 執行役、グループCDO、株式会社JPデジタルCEO)
・砂山 直輝(すなやま なおき)さん (日本郵政株式会社 執行役 事業共創部長)
・三苫 倫理(みとま のりまさ)さん (日本郵便株式会社 執行役員 人事部長)
・杉崎 猛(すぎざき たけし)さん (日本郵便株式会社 デジタルビジネス戦略部長 兼 事業共創部長)
・ 關 祥之(せき よしゆき)さん (日本郵政株式会社 サステナビリティ推進部長)【進行】

AIは万能な解決策ではない。「人間との協働が不可欠」

冒頭、オズボーン教授から、現場でのAI活用のポイントやAIとリアルとの関係についてご講話いただきました。

【講話内容(要旨)】
・AIは大変強力なツールではあるが、その能力は限られており、すべての問題を解決できる魔法の解決策ではない
・AIをうまく活用するためには、人間との協力、調整が不可欠であり、AIが解決できることは何かなど、AIに対する理解が必要
・「AIのように仕事をする」のではなく、AIと人間が補完し合うように「AIとともに仕事をする」ことが求められる
・特に、独創性と社会的知性(社会や文化に対する理解)は、AIに取って代わられにくい部分であり、AIの活用にあたり、これらの情報を人間がうまく補完する必要がある
・単純作業をAIに任せることで、人間がやるべきこと、やりたいことにエネルギーを注げるようになる

AIを導入するだけですべての課題を解決できるわけではないこと、人間にしかできないことも多く人間の存在が欠かせないこと、それらを理解したうえでAIと向き合うことが大切ということを強調されました。

リアルとデジタルが融合する「みらいの郵便局」

飯田:150年の歴史を持つ日本郵政グループは、全国におよそ2万4千の郵便局を持ち、40万人の社員を通じてユニバーサルサービスを提供しています。社会のデジタル化が進んでいる中、我々も業務のデジタル化による効率化を進め、より付加価値の高いサービスの提供を目指しています。ただし、我々が目指しているのはデジタル技術が人間や郵便局に「置き換わること」ではなく、人間や郵便局とデジタル技術の「融合」です。

例えば、本社ビル1階の大手町郵便局では、遠隔でのサービス相談、デジタル発券機、セルフレジなどの実証実験を行っています。また、局内に25台のカメラやセンサーを設置し、AIによる分析から、ご訪問いただいたお客さまの人数だけでなく、性別や年代、動線を把握しています。こうして得たデータは、分析のうえ、日々のオペレーションの見直しに活用しています。

オズボーン教授:それはすばらしい取り組みですね。小規模な実験からはじめて拡大していこうとしている点、そしてデジタル技術を単に機械による「自動化」だけではなく、組織全体のオペレーションの見直しに活用している点もすばらしいと思います。

関係の構築や対話はAIでは代替できない

砂山:現在、自社以外の企業や組織が持つ技術や知識を取り入れる「オープンイノベーション」の推進や、既存事業領域外でのビジネス開発に取り組んでいるところです。

デジタル技術を活用することで、郵便局における日常業務を効率化して時間を生み出したうえで、郵便局社員の「対話力」を社会に活用していけないかと考えています。一方で、こうした人間の対話力も、今後AIで再現される日が来るのではないかとも考えるのですが、その点についていかがお考えでしょうか?

オズボーン教授:もちろんAIは日々進化していますが、社会的知性の面では人間にかなり後れをとっています。郵便局の皆さんは、それぞれの地域でお客さまとの幅広い関係性を構築されていると思いますが、そのような「関係性の構築・維持」はAIが不得意な部分ですから、決して自動化されるものではありません。

砂山:なるほど、ありがとうございます。また、我々は業務を通じて得られる大量のデータの収集・活用も行っています。例えば郵便・物流分野では、配達物数などのデータを用い、AIにより配達ルートの最適化に活用しています。

このようなデータ活用の際には、「一定の仮説」を構築して取り組んでいますが、我々自身が思いつかないデータの活用方法もあるのではないかとも考えています。人間による仮説構築は必要だと思いますが、生のデータからAIが新しい仮説を生み出すことも可能なのでしょうか?

オズボーン教授:ご認識のように、仮説は人間が設定する必要があります。仮説がないままAIが使われる場面も増えてきていますが、それではAIがきちんと仕事をすることはできません。AIを活用していくためには、人間が仮説をAIに指示することが欠かせないのです。

「AIの強み・弱み」を理解することがAIの正しい活用につながる

三苫:DXの本質は、デジタルを駆使して「持続的な成長を実現する会社になること」、つまり「変化し続けられる組織になること」だと理解しています。そのような組織となるための人材育成として、グループ全体で、企画部門の社員全員に対しデジタルに関する研修を行っています。
また、日本郵便では一昨年度から、希望者を対象にプログラミング・データ活用プログラムを実施しています。これはプログラマーの育成が目的ではなく、課題に対してどのようなアルゴリズムが使えるか、どのようなデータが必要か、それによりどのような価値を実現できるかといったことを学んでもらうものです。

AIやデータの活用のためには、自らがこれらの専門家になるのではなく、素養として理解し、課題設定したうえで価値の提案力を持ち、専門家と共創して価値を作り出すことが必要と認識しています。

そのうえでの質問ですが、AIやデータ活用が日常的に行われる世界において、企業人として持つべき素養、重視すべきものは何でしょうか。

オズボーン教授:今、三苫さんがおっしゃったことは、まさに私が考えていることと同じです。誰しもがAIの専門家になる必要はありませんが、より多くの人たちが「AIの強み・弱み」を理解することで、AIで解決できる問題か否か、AIで解決するにはどうすればよいかが分かるため、AIで問題を解決していける環境を作り上げることができるのです。

データ分析に取り掛かる前に、現場で働いている社員こそが、分析すべきデータはどれが正しいのか、何を分析の目標とすべきかを見定めることができるのであり、その見定めがなされたうえでAIを正しく活用すれば、求めたい結果・正しい予測を得ることができます。AIについての基礎的な正しい理解があることは大切なのです。

AIと人間が協働し、よりよいサービスの提供へ

飯田:この度はオズボーン教授の貴重なお話を聞くことができ感謝しています。
「AIと人間が協働することが重要」という理解のもと、社員・郵便局とデジタル技術の融合を進め、お客さまにとってよりよいサービスの提供と業務の効率化を進めていきたいと思います。

今回繰り返し話にでたように、AIをうまく活用していくためには人との協働が欠かせません。グループの強みであるお客さまとの対話や関係性を活かしつつ、AIなどを活用したDXを推進し、お客さまへよりよいサービスを提供する――その未来に向け、日本郵政グループは進んでいきます。

※撮影時のみマスクを外しています。

            

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