日本郵便初の「エシカル配送」の取り組みをレポート! 環境、社会、人にやさしい配送を実現するための挑戦とは

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近年注目を集める、エシカル(ethical)という言葉。「倫理的な、道徳的な」という意味をもつ英語ですが、「環境や人、社会にやさしい取り組み」を指す言葉としても使われています。日本郵便では2022年7月11日から8月15日の間、初の試みとなる「エシカル配送」によるパイナップルとマンゴーの商品販売を実施。今回は、日本郵便がこの取り組みを始めた経緯や目的などについて、関係者の方々にお話を伺いました。

    【今回お話を伺った方】

  • オークツ株式会社 社長 大江 貴志(おおえ たかし)さん
  • 特定非営利活動法人 やんばる・地域活性サポートセンター 理事長 比嘉 明男(ひが あきお)さん
  • 株式会社東物産 比嘉 和実(ひが かずみ)さん
  • 日本郵便株式会社 経営企画部 サステナビリティ推進室 室長 關 祥之(せき よしゆき)さん
  • 日本郵便株式会社 物販ビジネス部 担当部長 井上 雅史(いのうえ まさふみ)さん、主任 日向 裕美(ひゅうが ひろみ)さん
  • 立教学院内郵便局 局長 須田 薫矢(すだ のぶや)さん

環境や人、社会にやさしい、日本郵便の「エシカル配送」とは?

近年、二酸化炭素(以下、CO2)などの温室効果ガスが地球環境に与える影響を減らすための取り組みが、世界的に広がっています。日本郵便が取り組むエシカル配送も、そうした課題解決を目指したものです。

今回、日本郵便のエシカル配送で取り扱った商品はふるさと小包の「わけあり燦々マンゴー」「わけあり 沖縄やんばるパイナップル」。

通常料金のものと、通常料金にプラス100円したカーボンオフセット(※)対応価格の2種類の価格が設けられており、後者を「エシカル商品」として、取り組みに賛同いただける方に費用負担をお願いし、練馬区と豊島区の96の郵便局において数量限定で販売しました。

「わけあり燦々マンゴー」「わけあり 沖縄やんばるパイナップル」の写真
「わけあり燦々マンゴー」「わけあり 沖縄やんばるパイナップルの写真」
わけありマンゴー・パイナップルのイメージ

カーボンオフセットとは
カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方です。

カーボンオフセット分の金額(100円)は、国が認証する「J-クレジット」という仕組みを活用し、新潟県と高知県の森林を守るプロジェクトの支援に充てられます。

また、エシカル配送は、環境だけでなく、生産者や社員にもメリットがある取り組みです。
具体的には、生育状況に合わせて自由なタイミングで出荷できること、また、注文をいただいた都度出荷するのではなく、注文が一定の数量に達したタイミングでまとめて出荷できること等です。
これにより、発送日に人員の集中配置が可能となること、郵便局としても、そのタイミングで一気に集荷できることで、働き方改革にもつながりました。

さらに今回の販売では、サイズや見栄えが不揃いであるもののおいしさは変わらない「わけあり」の商品を取り扱うことで、フードロス対策にも貢献しました。

エシカルの概念に共感した人々が集結し、実現したエシカル配送

日本郵便 経営企画部 サステナビリティ推進室長 關 祥之さん

――エシカル配送を始めたきっかけについて

關 祥之さん

「『エシカル配送をやってみませんか?』という提案に心動かされた」

2021年夏頃から日本郵便のサステナビリティ対応について、地域みらいプロジェクト(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 岸博幸研究室)と意見交換を行ってきました。その中で、オークツ株式会社の大江さんからエシカル配送を提案いただいたのがきっかけです。

今回の取り組みを日本郵便に提案した、エシカル配送の専門家、オークツ株式会社 社長 大江 貴志さん

――この取り組みを経て得られたことについて

大江 貴志さん

「商品を購入して応援するというかたちで、一緒に社会貢献に参加できるような仕組みを作りたい」

今回の取り組みを実施して、郵便局のリアルな消費者は、エシカルの概念に対し高い関心をお持ちであり、発送のタイミングについて「生産(者)の状況を踏まえる」ということへの理解も高まってきていると感じました。一般的に季節限定の果実は天候に左右されるため、出荷のタイミングが前後しますが、まとめて収穫できる最盛期に出荷日を設定することで、効率良く配送ができたという、生産者の方からの喜びの声もありました。今後はますます企業とお客さま、地域の方が一緒になって社会に貢献するあり方を確立していくことが必要と考えています。

商品となる青果の選定を行った特定非営利活動法人 やんばる・地域活性サポートセンター 理事長 比嘉 明男さん

――エシカル配送の取り組みに参画した理由について

比嘉 明男さん

「見た目が悪いだけで青果として出荷できない状況を目の当たりにしていた」

パイナップルもマンゴーも、味は一緒でもちょっと見た目が悪ければ「わけあり」として、すべて加工用にまわったり、処分されたりしてしまいます。そんな光景を目の当たりにしてきたからこそ、今回大江さんから「エシカル商品を企画し、配送してみたい」というお話をいただいて、生産者にもメリットの多いこの取り組みを当センターとしても支持したいと思いました。近年、パイナップル農家は激減しています。少ない生産量でも安定的に数を提供できる方法として、生産(者)の状況に応じて出荷を選べるエシカル配送というアプローチに興味を持ちました。

 
 
 
 
關さん

「関係者の方々がエシカルの概念に共感し、「今始めるしかない」という強い意志をもって一丸となって準備を進められたことが大きかった」

初の試みとなったエシカル配送は、日本郵便のポテンシャル、そして課題を洗い出すよいきっかけになったとも思います。
今回はエシカルという重要なテーマについて、一つのモデルケースを作ろうと取り組みました。これには、関係者の皆さんが理解、納得した上で展開する必要があり、各自が「自分ごと」として捉え、社会課題の解決に参画することでのやりがいを実感してもらい、進めていきたいと思っていました。

そこで、大江さんや物販ビジネス部の協力のもと、2022年3月からエシカル配送商品の本格的な議論を開始し、数カ月でエシカル配送の仕組み作り、郵便局への説明、お客さまへのお知らせ、販売までが実現しました。

予想を上回り購入された「カーボンオフセット対応商品」

今回のエシカル配送商品は、発売開始後から順調に売れ行きが伸び、マンゴーは早々に予定数量を完売。想定を上回り、8割近い方に「カーボンオフセット対応商品」を購入いただきました。

日本郵便での販売の準備を行った、物販ビジネス部 担当部長 井上 雅史さん

井上 雅史さん

「お客さまにエシカル配送をどう理解してもらうか。」

今回は、カーボンオフセットに賛同していただける方に向けた価格設定の他に、賛同いただけない方にも同じ沖縄で作った青果をお買い求めいただけるようにしました。どの部分がエシカルなのかをしっかりと理解していただけるようにすること、そしてお客さまが納得し、選択してご購入いただくことができるかどうか、これが私たちとしては一番検証した点です。うまく機能するか心配でしたが、今回はよい検証になったと感じています。

同、物販ビジネス部 主任 日向 裕美さん

日向 裕美さん

「成功したのは、郵便局の社員が積極的にアイデアを出してくれたおかげ」

実際に販売を行った豊島区と練馬区内の郵便局の社員が「こういうふうに飾り付けたらお客さまに伝わりやすいはず」とアイデアを出してくれました。物販ビジネス部では、この商品に関するポスターや、「お届けが遅くなるかもしれませんが、ご納得いただけるようでしたらお買い求めください」というご案内のチラシを作りましたが、それ以外にも販売する郵便局で独自に実施いただいたアイデアのおかげで、特にマンゴーは8月初旬には完売しました。お客さまからの反応もとてもよく、大変驚きました。

実際の郵便局での販売風景やPOPなどのお写真
豊島郵便局での販売風景
關さん

「郵便局ならではの強みが活かせた」

販売を開始するにあたり、大江さんにもお越しいただき、販売する郵便局を対象とした説明会を開催しました。自然を相手にする生産者の皆さんの苦労や、今回のエシカル商品がどのように人や社会に貢献できるのかが、肌感覚で伝わったのではないかと思います。実際に販売にあたる郵便局の社員が、お客さまに「エシカル」という新しいコンセプトをかみ砕いて伝えてくれたことで、お客さまが仕組みをご理解いただいた上でご購入いただいていることもわかりました。これは、リアルな接点を持つ郵便局ならではの強みを活かせたポイントなのではないかと考えています。
今後も、意義ある取り組みとして継続・発展させていくために、エシカル対応についての会社としての基本的な姿勢の確立と、商品開発・販売・情報発信の仕組みづくりが必要だと感じています。

実際に郵便局で商品の販売に携わった、立教学院内郵便局長 須田 薫矢さん

――お客さまの反応はどうでしたか?

須田 薫矢さん

「新しい取り組みということで、お客さまにはとても興味を持っていただけた」

販売する社員も、100円の使い道やカーボンオフセットの仕組みを理解して「100円の差だったら、こちらをおすすめした方がいいよね」という認識をもってくれました。今回はプラス100円という価格設定も絶妙だったと思います。
郵便局では沖縄支社が提供してくれたかりゆしを着用して雰囲気を盛り上げ、お客さまからお声がけをいただくことも多かったです。

今回のエシカル配送商品の生産者の一人である、株式会社東物産 比嘉 和実さん

比嘉 和実さん

「生産者側にとっても、ありがたい取り組みだった」

エシカル配送で販売したパイナップルは、ハワイ種(通称N種)です。加工品(缶詰)として出荷することが多く、青果として出回ることはほとんどありません。加工品に回すと農家としては十分な利益が得られず、パイン農家は独自の販路を求めていました。そんな時、今回のエシカル配送のお話をいただき、とてもメリットが大きいと感じたんです。販路の確保だけでなく、収穫時期に対する配慮もしてもらえるのは農家としてはありがたく感じています。

責任ある企業として、エシカル消費をリードする存在へ

關さん

「見えてきた課題を今後に活かし、改善し続けていきたい」

郵便局というお客さまとのリアルな接点をもっていること、商品の企画から物流・販売までを一気通貫、ワンストップで取り扱える点は、我々の大きな強みです。
各段階の課題について、まとめて情報が集まってくるというのも、他社にはないことだと思います。これを活かした生産者の巻き込み、リアルな接点での消費者への働きかけにより、社会のエシカル消費の浸透をリードできる存在になれるように取り組んでいきたいです。

大江さん

「全国に物流拠点を持つ日本郵便がエシカル配送に取り組むこと自体が大きな意義」

郵便事業自体がユニバーサルサービスとして今後どういうかたちで、エシカルをはじめとする環境への対応を進めていくかは、国の政策にも大きく影響するような取り組みです。今回の取り組みを今後にどう生かすことができるか、社会的な責任が大きい企業において、こういった実証実験をすること自体が最大の意義だと感じています。

比嘉 和実さん

気候変動により沖縄では年々台風の規模が大きくなっていると感じています。パイナップル農家にも相当な被害が出ることも少なくありません。そのため、今回の取り組みは長期的な温暖化への取り組みとしても期待しています。ぜひ日本郵便でこの取り組みを続けてもらいながら全国に世界自然遺産やんばるで作られるパイナップルを届けていきたいと思います。

CO2の削減や配送効率の向上、フードロス対策への貢献に加え、生産者や購入するお客さまにもメリットが大きいエシカル配送。今後、こうしたあり方が「世の中の当たり前」となっていくための一歩となりました。

※撮影時のみマスクを外しています。

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