未来の物流レボリューション Vol.2 変化に飛び込むことで進化する! 日本郵便が描く未来への地図

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私たちの生活に欠かせない「物流」は、今後どのように変化していくのでしょうか。本企画では、日本郵政グループの物流の未来を創るために改革を起こすキーパーソンへのインタビューを通して、これからの街や暮らしを支えていく物流の未来像を描いていきます。

第2回は、日本郵便株式会社のオペレーション改革部で部長を務める西嶋 優(にしじま ゆたか)さんが見据える物流の未来像や、そこに向けて取り組む変革について伺いました。

日本郵便株式会社 オペレーション改革部 部長

西嶋 優(にしじま ゆたか)さん

1992年、郵政省入省。郵便事業での勤務を中心に業務改善、研修制度などに携わる。北陸支社長や本社の施設・輸送関連の業務などを経て、2021年11月からオペレーション改革部部長に就任。

世の中のあらゆる変化に対応するために、自ら変化に飛び込む

――まず、物流の未来の姿について、どのようになっていると思われますか。

西嶋:物流は日常に不可欠なものであり、30年後であったとしても必ず残っていると思います。ただ、現在のように個々の事業者が独自のネットワークによってサービスを提供する『労働集約型の物流業』の在り方は変化せざるを得ないでしょう。企業間でお客さまからお預かりした荷物を区別し、各社が自分たちの荷物だけを運ぶという従来の配送方法を変えていかなければ、労働力不足に対応するのは難しいと考えています。

また、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大や自然災害の多発など、VUCA(ブーカ)(※1)と呼ばれる予測困難なこの時代では、サービスを受けるお客さま側のニーズも目まぐるしく変化していきます。

例えば、数年前まで、プライバシーや安全性の観点から日本ではあまり受け入れられていなかった『置き配』は、新型コロナウイルスの流行により需要が高まりました。こうしたニーズの変化にすぐに対応するために、私たちも受け身ではなく、変化に積極的に飛び込み、"選ばれるために"先を見越したサービスを提供し続けていくことが必要だと考えています。

(※1)Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもの

――環境の変化とその対応について、ほかにも検討しなければならないことはありますか?

西嶋:サステナビリティの観点でも、物流の姿は変革を迫られていると言えます。日本郵政グループでは2030年までに2019年対比で温室効果ガス排出量を46.2%削減する目標を掲げています。目標達成のためには、競合でもある各企業が持っているネットワークを融合し、エネルギー効率の最適化を図ることが重要だと思っています。

私たちは、全国各地にある事業施設と車両を使って日々サービスを提供していますが、それらを十分に活用できていない部分もあります。例えば配送トラックでは、さまざまな事情はあるものの、荷物を最大限まで積み続けて走る車両は多くありません。また、配達するバイクも出発時には郵便・荷物を積んでいますが、帰りは空の状態で郵便局に戻ってきます。他社とトラックなどをシェアするような仕組みを実現できれば、行きと帰りで常に荷物を積んだ状態を維持するようなことも可能になるでしょう。そうすることで、エネルギーコストを削減できるだけでなく、今まで3台必要だったトラックが2台で済む、4人でやっていた作業を2人で行えるなど、リソースの最適化にもつながると考えています

物流業界の動きにアンテナを張り、スピード感をもって開発

――未来の物流像を描くにあたり、オペレーション改革部が担っている役割を教えてください。

西嶋:私たちオペレーション改革部が担っているのは、これまでの枠組みにとらわれない抜本的なオペレーション・コスト構造の改革です。常にアンテナを広く張り、物流業界の動向調査から、郵便物流の最適化に向けたプランの立案・実装まで、新たな取り組みを実現するための一連の業務を行っています。

――具体的に現在は、どのような改革に取り組んでいるのか教えてください。

西嶋:AIを活用した業務の最適化として挙げられるのが、音声認識AIを活用してコールセンターでの再配達依頼の受付業務を自動化することや、自動で配達ルートを作成する自動ルーティングシステムの導入です。自動ルーティングシステムでは、経験の浅い社員に配達業務を行いやすくするだけではなく、配達業務の熟練者もより能力を発揮してもらう環境を実現することを目指しています。ほかにも、ドローンやロボットの配送への活用、物流センターでのロボットアームの導入による作業の自動化など、IoTや新技術を積極的に取り入れることも行っています。ドローンや配送ロボットなどは、国の制度整備や技術進展の動向を見つつ、不確実な未来をどう見通していくのかを考えながら取り組んでいます。

また、変化の激しい現代では、途中で前提が変わったり、他社も同じような取り組みをして競合する可能性があることから、取り組むにあたっては「スピード感」も大事にしています。当社では毎日8万名程の配達員が郵便物や荷物の配達をしていますが、配達員はスマートフォンを携行しており、どこを配達しているかなどの位置や業務の進捗情報と、走行速度などの運転状況が確認できるようになっています。この「テレマティクス」と呼ぶ取り組みもAIを活用した取り組みの1つで、アジャイルな開発(※2)を行ってシステムの使い勝手を深化させながらスピード感をもって進めてきました。

(※2) 「agile」という「素早い」「俊敏な」を意味する英単語から、短い期間でテストを繰り返し、スピーディーに開発すること。

配送用ドローン
自動ルーティングシステムを利用する配達員
「テレマティクス」システム分析レポート画面

DXを推進し、お客さま本位のサービスへ

――さまざまな取り組みが進んでいるのですね。

西嶋:はい。私たちは、郵便・物流事業においてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくことを、『P-DX(ポスタルデジタルトランスフォーメーション)』と呼び、利便性や生産性の向上を目指しています。例えば、先ほどは社内業務の効率化の取り組みをお話しましたが、差出情報や配達先情報・社内の作業情報やお客さまのリアクションなどの各種データを活用し、フィードバックする仕組みができれば、お客さまのライフスタイルに合わせたより柔軟な荷物の差し出し、受け取りを実現させることができると考えています

――物流の未来の実現に向けた取り組みのなかで、日本郵便ならではの強みはありますか?

西嶋:日本郵便の強みと言えば、まずは、輸送・配達網の密度でしょう。また、物流の改革にあたっては、スピード感をもって試行改善を行うとともに、社会全体との調和を常に意識していく必要がありますが、新しい技術は社会のコンセンサスを得られなければ普及しません。デジタル化によって魅力的なサービスが生み出されたとしても、例えば情報管理の整備が不十分であれば、お客さまに受け入れていただくことは難しいでしょう。ですので、当社の『輸送配送ネットワークの密度』や『日々の配達により培われたお客さまの信頼』といったポテンシャルは、大きなアドバンテージになると考えています

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

西嶋:昨年(2021年)は、郵便事業が立ち上がった1871年から150年という節目の年でした。今年(2022年)は次に向けて踏み出す年ですが、どんな時も"お客さま本位のサービス"を追求することは変わりません。お客さま、そして社員の幸せをいかに実現するかということを、オペレーション改革部、そして日本郵政グループ全体で取り組んでいきます。長年培ってきた信頼という資産を活かしながら、これからも社会の期待に応え、いかなる環境の変化も乗り切っていきたいと考えています

※撮影時のみマスクを外しています。

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