慶應義塾大学教授 宮田裕章:わたしたちの「郵便局ものがたり」

INDEX

手紙は相手へのリスペクトを込めて。

ニュース番組や著書で、データを活用した幸せな未来社会へのヴィジョンを提示し、実践に取り組むデータサイエンティストの宮田裕章さん。JPや郵便局ネットワークにも着目し、その途方もない可能性に期待を寄せています。そもそも宮田さんの最初の本格的な研究は、郵送で行われたものでした。

「ある研究で、地域の方々へ調査のご協力のお願いで手紙を出すことになり、料金後納郵便を利用するのに承認を受けに行ったり差し出し作業をしたりと、郵便局員の方々に大変お世話になりました。それは僕が今関わっている、地域の人たちとコミュニケーションしながら新しい社会をつくるいろいろなプロジェクトへとつながる、最初の研究でした。

アンケートにお答えいただくお願いの手紙でしたが、その調査が社会のためにどのくらい役に立てるのか、一緒に未来を考えたいのかを、熱意と誠実さをもって文章にしたつもりです。書き方によって回答率やご協力の割合が本当に変わってくるので、多くの人々に届くよう心を込めて書きました」

無視されてもおかしくない依頼の手紙に協力しようと思ってもらうには、相手へのリスペクトを示す書き方が一つのポイントでした。

「誰かの仕事について原稿を書く際、手紙と同じような意識で文章を書いています。送る相手へのリスペクトをどう示せるかはとても大事。相手が大切にするものを一緒に大切にできているかは、手紙や文章を書くときにいつも気をつけていることです」

デジタルとアナログを融合させた未来のアイデア。

手紙かデジタルコミュニケーションツールか、というのはよく語られる議論ですが、宮田さんはどちらも共存可能であり、お互いに良い影響を与えられるといいます。

「例えば、僕がEメールで何かを送る場合、仕事柄、誰かが転送するかもしれないという前提で書いています。でも手紙はもっとパーソナルで、一対一の関係性のなかで伝えられるもの。内容はもちろん、どんな紙にどんな筆跡で書いているかも表現の一つです。だからEメールという代替手段が出てきたことで、逆に手紙の特徴が強化されたといえるのではないでしょうか。デジタルの便利さや、それを前提にした社会はもう止められません。でもそこで二項対立させるより、手紙だからこそ価値が発揮できることや、デジタルの利点も取り入れた上で良い方向に結びつけることを考えた方が建設的です」

それを踏まえて例にあげてくれたのが、空間と手書きの文字を組み合わせた手紙のアイデア。

「数十年後には、ある空間そのものをデジタル保存し、そこに手書きの文字や記号、イラストを付記して『今のフィーリングはこんな感じ』と相手に渡すとか、そういうデジタルとアナログの組み合わせのなかで、表現が開いていく未来が訪れるかもしれませんね」

美しい切手やグリーティングカードは送る側も受け取る側も楽しい。この先は、そういう文化的体験とデジタルを組み合わせて、それを共有できるさまざまな人と人とのつながり方を見つけたい。

「日本には年賀状という素晴らしい文化があります。JPデジタルがメタバース(仮想空間)のようなものをつくって、年賀状的なコミュニケーションとして、人々がバーチャル空間上で年始の挨拶ができたら素敵ですよね。皆同じではなく、門松を用意する人がいたり、住んでいる地域にゆかりのあるものを使ったり、アバターが挨拶してくれたり。年賀状が持っている良い要素はたくさんあります。テクノロジーと組み合わせながらその要素を拡張していくと、新しい文化がつくれそうな気がします」

数ある郵便局はポテンシャルの宝庫。

郵便局がつくられた主旨の一つとして、地域の人に寄り添いながら人と人、人と社会をつなげていくことがあります。それは実はデジタルの本質と同じ。郵政創業150年を経た今も大切なことであり、デジタルという選択肢が社会に広がった今、より発展していくもの。そのためにJPが持つデータが大いに役立ちそうです。

「地域の人々のウェルビーイングや多様な豊かさに寄り添うことを軸にしながら、新しいつながりをデザインできれば、次のフェーズへの発展になると思っています。そのためにデータというのは非常に役立つもの。独居高齢者や健康に不安を抱える人たちへのサポートなど、いろいろな形で人と地域をつなぐ可能性を持っています。

データを使うことで、今郵便局が持っている"最後に人をつなぐ力"は、より価値あるもの、大切なつながりをくれるものになっていくのではないでしょうか。やはり人に寄り添いながら一緒に未来をつくるという、郵便局が持っている価値はユニークかつ大事。その体系のなかでDX(デジタルトランスフォーメーション)がより発展していくのであれば、日本にとっても素晴らしいことです」

全国に2万4千ある郵便局。その数の多さを強みと捉えて、地域の郵便局が持つネットワークを活用するという考え方もあります。

「美味しい食べ物の美味しいタイミングや、この時期のここの夕陽は見事だとか、その地域ならではの豊かな体験を住民の人々から教えていただき、そこにビジネスの体系をのせる。DXと郵便局のネットワークを連動できれば、それは可能性になるはず。これを他企業が一から立ち上げると莫大なコストが掛かります。各地にある個々の色彩豊かな郵便局だからできることなんです」

郵便局は未来社会に向けたコモンズ。

2024年開校の飛騨高山大学で学長候補となっている宮田さん。大学のプロジェクトのなかでも地域と世界をつなぐというヴィジョンを掲げています。

「今、東京と飛騨高山を行ったり来たりしていますが、とても楽しい。都市にいてそこに吸い上げられてくるものを見るだけでは重要なものを捉えられません。やはり地域にいて実体験することは大切です。そのネットワークを持っているJPや郵便局はあらゆる可能性に満ちています。大学だけではなく街づくりにも広がっていくプロジェクトなので、地域の魅力を考えるなかで一緒に何かできるといいなと思っています」

郵便局は、一般企業とも役所とも違う立ち位置だからこそできることもあります。

「企業にプライバシーを預けるのは抵抗感のあるもの。だから、郵便局のような半ば公的な場所をJPがすでに持っていることは大きなアドバンテージです。メタバースも含めて、皆が共有できる場所をつくれるポテンシャルはすごく持っている。実はもう郵便局はコモンズ(コミュニティに属する共有場所)だ、というスタンスでいくのもいいかもしれません。未来社会に向けたコモンズとしての郵便局というのはすごくしっくりきます」

プロフィール

宮田裕章(みやたひろあき)/慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。1978年岐阜県生まれ。全国の医療施設から収集する手術症例のビッグデータで臨床を支えるNational Clinical DatabaseやLINE×厚生労働省「新型コロナ対策のための全国調査」など、多数の社会変革プロジェクトに携わる。2025年日本国際博覧会ではテーマ事業プロデューサーを務める。

スタッフリスト

写真:高橋ヨーコ インタビュー・文:綿貫あかね

ムービー: 神達志(zona)

#HOT TAG

おすすめ記事

おすすめ連載